「払わないなら住ませなければいい」|その発想が、管理組合を追い詰める理由
「住ませない」はできるのか?現場が誤解しやすい強制措置の限界:
マンション管理費滞納の現場から 第33回
理事会の空気が、
少し張り詰めている。
「もう限界じゃないですか」
ある理事が、少し強い口調で言う。
「1年以上払っていないんですよね?」
フロントがうなずく。
「はい……督促も、内容証明も出しています」
別の理事が口を開く。
「もう住めないようにできないんですか?」
一瞬、静かになる。
「払わないなら、使わせない」、
この気持ちはよく分かる。
しかしこの発想には、
管理組合を逆に追い詰める大きな落とし穴がある。
今日は、専有部分の「使用禁止」というテーマを
現場のリアルから整理したい。

▼1:「鍵を変えられないか」、理事会の焦りが生む、危険な発想
若手フロントが先輩に相談する。
「理事会から、
『鍵を変えられないか』って言われました……」
先輩は少し苦笑いする。
「それはさすがに無理だね」
理事会ではこんなやり取りが続く。
理事:「共用部分のサービスを止めるとかは?」
フロント:「どこまでが可能かは、慎重に判断が必要で……」
理事:「でも、このままじゃ不公平ですよね」
ここに見えるのは、
払っている側の不満、
理事会の焦り、
そしてフロントの板挟みだ。
共通しているのは「何か強い手を打ちたい」という気持ちだ。
その気持ちは正当だ。
しかし「強い手」を間違えると、
管理組合が法的リスクを背負うことになる。

▼2:滞納だけでは「使わせない」はできない。法律が守るもの
まず結論から言う。
滞納だけを理由に、
専有部分の使用を一方的に禁止することは、基本的にできない。
専有部分はその人の「所有物」であり、
居住や使用の権利は強く保護されている。
たとえ滞納していても、
・鍵を変える
・立ち入りを制限する
・住めなくする
といった行為は、権利侵害になるリスクが高い。
感情的に「使わせない」はできない。
法的に「使わせない」は、相当な条件が必要だ。
このギャップを理解することが、
理事会の議論を正しい方向に変える第一歩になる。
一方で、全く手がないわけではない。
・長期
・悪質
・共同生活への重大な影響
といった条件が重なる場合、
区分所有法に基づく使用禁止請求や
競売請求という手段も存在する。
ただしこれらは「かなりハードルが高い特別なケース」であり、
専門家との連携が前提になる。

▼3:現場でよくある「4つの誤解」
パターン① 鍵交換という発想:違法リスクを招く
「物理的に入れなくすればいい」という発想は、
明確な権利侵害になりうる。
実行すれば管理組合が法的責任を問われるリスクがあり、
回収どころか紛争が拡大する。
パターン② 共用部分の利用制限:根拠なく行うと争いになる
駐車場や施設の利用停止は、
管理規約に明確な根拠があれば検討できる場合もある。
しかし根拠が曖昧なまま「一方的に」制限すると
争いに発展する。
専有部分の問題とは法的性質が異なる点を押さえておきたい。
パターン③ 使用禁止請求を「すぐできる」と思っている:制度の誤解
法的手段として耳にすることはあるが、実際に認められるには
・長期
・悪質
・共同生活への重大な影響
という高いハードルがある。
「滞納があれば使える手段」ではない。
パターン④ 感情が法律を上回ると思っている:正論と法律は別問題
「払っていないのに住んでいるのはおかしい」は正論だ。
しかし法律は感情で動かない。
この事実を理事会が理解しているかどうかが、
対応の方向を大きく左右する。

▼4:「使わせない」ではなく「回収できる仕組みを強くする」
① 「できること・できないこと」を整理して共有する
理事会にまず伝えるべきは、
専有部分の使用制限は原則できないという事実だ。
無理な対応は逆にリスクになる、この認識共有が、
議論を正しい方向に向ける出発点になる。
② 正攻法の回収ルートを着実に進める
督促・内容証明・訴訟・強制執行、遠回りに見えて、
これが最も確実な回収ルートだ。
第29・30回で整理した弁護士依頼や裁判所での和解も、
この流れの中にある。
③ 抑止力は「滞納しにくい仕組み」で設計する
使用禁止ではなく、
・遅延損害金の強化
・早期対応ルールの整備
・規約の明確化
によって「滞納しにくい環境」を作ることが、根本的な対策になる。
第31・32回で扱った内容とつながる部分だ。
④ 例外的手段は専門家と慎重に検討する
・使用禁止請求
・競売請求
は、条件が揃った場合の最終手段だ。
「強い手を使いたい」という気持ちは理解できるが、
誤った使い方は管理組合に法的・関係的なダメージを与える。
弁護士との連携を前提に、冷静に判断したい。

▼5:「鍵を変えよう」を止めた結果、回収が進んだマンション
あるマンションで長期滞納が続き、
理事会が強硬姿勢をとった。
「鍵を変えよう」という話まで出た。
フロントが止めた。
代わりに訴訟へ移行し、給与差押えを実施。
結果、分割払いで回収が進んだ。
後に理事長が言った。
「遠回りに見えて、これが一番早かったですね」
一方、別のマンションでは規約上の根拠なく
共用施設の利用を一方的に制限した。
滞納者が反発し、トラブルに発展。
関係がこじれ、回収も止まった。
強い手は、正しく使わなければ逆効果になる。
そして多くの場合、正攻法こそが最短ルートだ。

▼まとめ:感情ではなく、仕組みで守る
「払わないなら使わせない」。この気持ちは自然だ。
しかし管理組合が守るべきは感情の納得ではなく、全体の安定だ。
法律は感情で動かない。
だからこそ、正しいルールの中で静かに、
しかし確実に動くことが求められる。
感情に引っ張られた「強い手」は、
管理組合自身を傷つける。
仕組みで守る、それが結果的に、全員を守ることになる。

▼今日のワンアクション
次の理事会で、この一言を出してみてください。
「専有部分の使用制限って、
本当にできるんでしたっけ?」
この問いが、「できることに集中する議論」への入口になります。

ここまで読んでくださってありがとうございます。
「自分の向き合う行動が少し見えてきたかも」と感じたら、
スキやシェアをいただけると励みになります。
同じ悩みを持つ誰かに、届けてもらえたら嬉しいです。
これからも現場の目線から、役立つ視点を発信していきます。
よければフォローしてお待ちください。
参考記事
第29回
第30回
第31回
第32回
いいなと思ったら応援しよう!
初めて管理組合の理事になって、滞納問題に苦慮されている方のお力に微力ながら貢献できればと思っております。応援よろしくお願いします!