氷河期世代AD、テレビの片隅で。#32余談「昭和の大泥棒メガタカと人生を変えたホームラン」
子どもの頃の僕は、とにかく内気だった。
人前で話すのも苦手。
嫌なことがあっても言い返せない。
今、テレビの仕事をしている自分からは想像できないくらい、
おとなしい子どもだった。
そんな僕の同級生に、一人だけ困った奴がいた。
仮に「メガタカ」と呼ぶことにしよう。
昭和の大泥棒、メガタカである。
とにかく人の物を盗む。
ある日、家が留守だった隙に入り込み、
僕のファミコンソフト、エキサイトバイク、ツインビー、
マイクタイソンのパンチアウトなどなどを持っていってしまった。
今なら大問題だ。
でも当時の僕は、「返して」と言うことすらできなかった。
悔しかった。
そんなある年の夏休み。
埼玉の所沢に住む従姉妹の家へ遊びに行った。
そこで叔父が、「野球を見に行くか」と、
西武球場へ連れて行ってくれた。
それが僕にとって、初めてのプロ野球観戦だった。
球場に入った瞬間の熱気。
応援団のラッパ。
スタンドを埋め尽くす観客。
テレビでは何度も見ていた野球が、目の前で行われていた。
そして、その日。
ルーキーだった清原和博選手が、豪快なホームランを放った。
打球がぐんぐん伸びてスタンドへ吸い込まれる。
次の瞬間、西武球場が揺れるような大歓声に包まれた。
鳥肌が立った。
「野球って、こんなにかっこいいんだ。」
子どもだった僕は、一瞬で清原選手に憧れた。
家に帰ると、すぐに少年野球チームへ入った。
不思議なものだ。
野球を始めると、少しずつ性格が変わっていった。
大きな声を出すようになった。
仲間と話せるようになった。
知らない人にも挨拶ができるようになった。
そして、ある日。
あのメガタカに向かって言えた。
「ファミコンソフト、返せ!」
すると、あっさり返ってきた。
もっと早く言えばよかった。
そう思った。
でも、あの頃の僕には、それができなかったのだ。
今思えば、返してもらったのはファミコンソフトだけじゃない。
少しだけ、自信も取り戻した気がする。
風の噂では、メグタカは結婚して、今も地元で暮らしているらしい。
子どももいるそうだ。
どうか、その子が
“令和の大泥棒 メガタカ3世”
とかになっていないことを願っている。
そして、もう一つ思うことがある。
もし、あの日、叔父が西武球場へ連れて行ってくれなかったら。
もし、あの日、清原選手のホームランを見ていなかったら。
僕は野球を始めていなかったかもしれない。
内気なままだったかもしれない。
テレビの仕事を目指す勇気も、東京へ出る勇気も、
持てなかったかもしれない。
もちろん、本当のことは誰にもわからない。
でも、あの日、所沢で見た一本のホームランが、
僕の人生を少しだけ変えてくれた。
僕は今でも、そう信じている。
