氷河期世代AD、テレビの片隅で。#33余談「自称テレビ局の宝!のヤバいヤツ」
テレビの仕事をしていると、本当にいろいろな人に出会う。
尊敬できる人もたくさんいた。
夜中まで一緒に編集をしてくれたディレクター。
ADの失敗を自分の責任にしてくれたプロデューサー。
ロケ先で「頑張れよ」と声をかけてくれた店主さん。
そんな人たちのおかげで、僕はこの業界を嫌いにならずに済んだ。
でも、ごく一部には、
「どうしてそんな考え方になるんだろう」と思う人もいた。
20年以上前の話になるが、あるテレビ局員は、
よくこんなことを口にしていた。
「俺はテレビ局の宝だから、何をしても許される。」
最初は冗談かと思った。
でも、その人は本気でそう思っていた。
私的な旅行、キャバクラ代、自分の家の家電などなど
制作会社に私的な支払いを負担させるような話があったり、
その見返りに仕事を回すような空気があったり。
今では考えられないような話を耳にすることもあった。
もちろん、それが当たり前だったわけではない。
真面目に番組づくりをしている人の方が圧倒的に多かった。
だからこそ、そういう人は余計に目立って見えた。
もう一人、忘れられない人がいる。
ある番組で、テレビ局員の指示どおりに
フリーのディレクターがVTRを制作した。
ところが放送後、取材先との間でトラブルになってしまった。
すると、そのテレビ局員は言った。
「俺はそんな指示してない。」
結局、責任はすべてフリーのディレクターが負うことになった。
その人は番組を離れることになり、一件落着という空気になった。
クビだ。
「立場が弱い人ほど責任を背負わされることもあるんだ」
ということだけは、強く記憶に残っている。
もちろん、これは昔の話だ。
今のテレビ業界は、コンプライアンスも厳しくなり、
当時とは比べものにならないほど働き方も変わっている。
SNSが普及し、内部告発という言葉も珍しくなくなった。
良くも悪くも、隠し通せる時代ではなくなった。
そう考えると、時代は少しずつ前に進んでいるんだと思う。
そういえば、あの「俺はテレビ局の宝だから」と言っていた人は、
その後どうなったのか知らない。
異動したのか、辞めたのか、それとも今もどこかで働いているのか。
僕にはわからない。
でも、一つだけ思うことがある。
本当の「宝」というのは、自分で名乗るものじゃない。
「あの人と、また仕事がしたい。」
周りからそう思われる人こそ、
本当の意味で組織の宝なんじゃないだろうか。
