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裸の自意識、あるいは衣のまとい方|田山花袋と森鴎外に12歳の日記を読ませてみた

書き手が差し出すべき「裸の心」とは、カッコ付けたものではいけない。

クローゼットの奥、あるいは記憶の底に封印された、できれば墓場まで持っていきたい「特級呪物」

――すなわち、かつての自意識の残骸である。

意を決して、十二歳の私が綴った日記帳を引っ張り出し、それを三十五歳の私が料理した「黒歴史の開示記事」をnoteに公開した。

画面に並ぶ「スキ」の通知を前に、私の左右で二人の男がじっとディスプレイを凝視している。

一人は、日本の自然主義文学の旗手、「ありのままの醜態を晒すことこそ真実」と信じる男、田山花袋

そしてもう一人は、軍医総監にして高踏派の重鎮、知性と仮面を重んじる冷徹な文豪、森鴎外である。

近代文学史の巨頭二人に、私が書いた「note」を読ませる。自己開示エッセイを巡る、時空を超えたディベートの幕が上がった。

画面をスクロールしながら、花袋が興奮気味に鼻息を荒くした。

「素晴らしいじゃないか、茨木君!『Mさんが補欠なのが気にくわない』というこの凄まじい醜悪さ! これぞまさに生の人間だ!」

しかし、彼はすぐに眉をひそめて机を叩いた。

「だが、この『人生、まだチュートリアル終わってない!!!』という軽妙な突っ込みは何だ? 邪念だ。
なぜ読者を『くすり』と笑わせようとする!?当時握りしめていた拳の湿り気、絶望のあまりに嗅いだ自らの脇汗の匂い、そこまで無修正で出すべきだ。
こんな風に綺麗に『編集』された自己開示なんて私は認めんぞ!


ドロドロは美しい衣で隠したまえ!森鴎外メソッド

その品のない言葉を、鴎外が冷ややかな視線で一蹴した。

「花袋君、君はすぐに他人の布団の匂いを嗅ぎたがる。茨木君、彼の言葉に惑わされてはならない。
自意識のコントロールを欠いた生の醜態などただの公害だ。私は君のこの記事の、己の過去を冷ややかに突き放す『諦念(レジグナシオン)』の姿勢を高く評価するよ」

軍服の襟を正しながら、鴎外はもっともらしく頷いた。

「君は黒歴史をさらすと宣言しながら、実は『言葉の技術』というこの上なく強固な衣をまとっている。実によい」

「え、そうですか?……へへ。鴎外先生にそう言っていただけて、光栄です」

思わず破顔しかけたその時、傲然とディスプレイを見下ろす彼の横顔が目に入った。そのあまりに完璧で、一分の隙もないエリートの佇まいに、私はある違和感に気づく。

ちょっと待て。

この男、今、私を自分の安全圏に引き込もうとしなかったか?


「……ですが、鴎外先生。そうやってインテリぶって、黒歴史を格好良く見せていませんか?」

「何だと?」

不快そうに声を低くする鴎外に、私は顔を上げた。

「先生の『舞姫』ですよ。あれ、要するに『ドイツ留学中に女の子を妊娠させたけど、自分のキャリアが惜しくなったから捨てて日本に逃げ帰ってきました』っていう、ご自身の超ド級のやらかしを書いてるわけですよね?」

「ふん。……あれには、事情があってだな」

「なのに、何ですかあの雅やかな文語体は。視点も悲劇のヒーローぶっちゃって、めちゃくちゃ格好つけてるじゃないですか! 自分の恥部を生々しく見せないために、文語体っていう最高級のブランド服で自己防衛してるのはズルくないですか?」

森鴎外『舞姫』

「ははは!実に愉快だ!」

花袋はソファに背を預けて拍手している。その剥き出しの笑顔に向けて、私はくるりと身体を向き直した。

「花袋先生。私はあなたの包み隠さない姿勢を尊敬しますが、現代のSNS社会では炎上の危険性があります」

田山花袋『布団』

「ナンセンスだ!」

「えぇ。ですが先生と私とでは目的が違います。
私が記事を通して救いたいのは、プライドを手放せずカッコ付けた発信ばかりする個人事業主です。彼らに必要なのは、自己表現の極致ではなく『信頼を得るための自己開示』なんです」

「むぅ。なるほど……」

花袋はスマホの画面を閉じ、ぽりぽりと頭を掻いた。

「生々しさを重視する私と、格好つけて隠す鴎外。そのちょうど真ん中に、現代を生き抜くための君の道があるわけだ」

鴎外はしばらく沈黙したあと、悔しそうに口髭をさすった。

「……フン。美学という衣で隠さねば生きていけない人間もいるが、君のそのやり方は実にしたたかで、現代的なのかもしれんな」

二人の文豪は、私の記事に「スキ」を押し、互いに背を向けながら去っていった。

自意識を脱ぎ捨て、剥き出しの言葉で、あわよくば仕事まで勝ち取りたい。そんな遊び心のある方は、ぜひ私の『心裸編集室』の門を叩いてほしい。

まずは、あなたの「靴下」を脱ぐところから、一緒に始めてみませんか?


▶︎執筆のきっかけをありがとうございました♡


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「ちゃんとした大人」を降りるための、心の脱衣所。

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