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【SHRM2026レポート⑩】オプラ・ウィンフリー基調講演:Leading with Vision:AI時代だからこそ人事が握るべき「意図(Intention)」と文化の守護者(Custodians of Culture)としての誇り

※本内容は講演を聞いた個人の解釈です。過去のブログはこちら

参照記事

1. なぜ書くか

様々な情報が飛び交う現代において重要になる中、日本に住む約1億人にはグローバルでの最新の取り組みやトレンドを学ぶ機会が多くありません。Every Inc.では「HRからパフォーマンスとワクワクを」というビジョンを掲げ、グローバルな取組みやアカデミックな文献からD&Iに関する歴史、取組み、事例など”日本なら”ではなく、”グローバルスタンダード”な情報を提供しています。

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2. SHRMアニュアルカンファレンスとは

SHRM(Society for Human Resource Management)は、世界で30万人以上の会員を有する、最大級の人事専門家団体です。

その年次カンファレンスである「SHRM Annual Conference & Expo」は、毎年世界中の人事プロフェッショナルが一堂に会するグローバルイベントで、最新の人事戦略、組織開発、法改正、人材マネジメント、テクノロジーなど、HRのあらゆる分野に関する知見が共有されます。

最終日のキーノートステージに登壇したのは、メディアの象徴であり、ビジネスリーダー、そして慈善活動家でもあるオプラ・ウィンフリー(Oprah Winfrey)氏。テーマは『Leading with Vision: Building Cultures That Inspire, Include, and Transform(ビジョンを持ったリーダーシップ:鼓舞し、包摂し、変革する文化の構築)』です。

AIの進化、経済の不確実性、激変する従業員の期待によって職場のあり方が再構築されている2026年現在。その中心にいるHRプロフェッショナルに向けて、オプラ氏は「仕事の最も重要な部分、すなわち『人間(People)』から絶対に目を離してはならない」という力強いメッセージを投げかけました。

3. 人事はスプレッドシートのためにあるのではない、人間の可能性のためにある

オプラ氏は、集まったHRプロフェッショナルたちに向けて、彼らの仕事の本質を非常に力強い言葉で定義しました。

「あなたたちは、文化を創造するビジネスをしている。あなたたちこそが『文化の守護者・管理人(Custodians of Culture)』なのです。人事はただのスプレッドシート(データ)や規律(ポリシー)を扱う場所ではない。人間の可能性(Human Potential)を扱う場所なのです」

① 誰もが「自分という存在の承認(Validation)」を求めている

彼女が何千人もの人々(大統領からセレブリティ、日常を生きる一般の方々に至るまで)にインタビューしてきたキャリアの中で発見した普遍的な共通分母、それは「誰もが、自分はここに見えているか(feel seen)、自分に価値があるか(matter)を確かめたがっている」ということでした。

ビヨンセも、バラク・オバマも、ジョージ・ブッシュも、さらには刑務所でインタビューした凶悪犯に至るまで、インタビューが終わると一様にオプラ氏の顔を見て"Was that OK?"(今の私、大丈夫だった?)と聞いてきたと言います。

「私たちが職場で出会う人々の中で、自分の存在が認められているか、大丈夫なのかを知りたがっていない人など一人もいません」とオプラ氏は説明します。データや自動化、AI主導の意思決定に組織が依存する現代だからこそ、従業員はこれまで以上に職場での繋がり、承認、そして意味を求めているのです。リーダーがこの現実を見落とせば、エンゲージメントやパフォーマンスを突き動かす根源を失うリスクがあります。

② 組織を導く「意図(Intention)」の力

オプラ氏がこれほどまでに人をエンパワーすることにフォーカスするようになったのは、何十年も前、『ザ・オプラ・ウィンフリー・ショー』の初期に、インタビュー中にゲストが屈辱を受ける姿を目撃した苦い経験がきっかけでした。

https://www.oprah.com/index.html

彼女は「こんなことは二度と起こさせない。誰かにとって最悪なのは屈辱を受けることであり、人はそれを決して忘れない」と強く心に誓い、それ以来、キャリア全体の指針として「意図(Intention)」という原則を採用しました。すべての番組の前に、プロデューサーたちへ「今回の私たちの『意図(目的)』は何か?」を問い続けるようにしたのです。視聴率やオーディエンスの数字よりも、その会話の背後にある明確な意図(真実、学び、貢献)こそが、結果を引き起こし決定づけるのです。

③ 自身の「マネージャーとしての失敗」とHRへのリスペクト

また、オプラ氏は自身の会社を築く中で「私はひどいマネージャー(terrible manager)だった」という驚くほど率直な内省も告白しました。「才能がある人すべてが優れたマネージャーになれるわけではない」という、彼女が痛みを伴って学んだ教訓です。

彼女が初めて従業員を解雇しようとした際、なんと2時間半も遠回しに話し合った挙句、最後に相手から「それで、私はクビなんですか?」と聞き返されてしまったエピソードをユーモラスに明かしました。「だからこそ、あなたたちのような優れたHRの存在が必要なのです」と語り、企業の最高人事責任者(Chief People Officers)こそが、その会社における「人間の体験(Human Experience)」がどのようなものになるかを最終的に決定づける存在なのだと、現場を支える人事に心からのリスペクトを送りました。

また、メディアから「大きな不祥事が起きなかったこと」や「素晴らしい才能を見抜き、育てて引き留めたこと」がヘッドライン(大ニュース)として報じられることはありません。だからこそ、オプラ氏はHRを「無名の英雄たち(unsung heroes)」と称え、人間の可能性を引き出し、個々人が最高の自己表現に達するのを手づだう達人(masters of human potential)であるべきだと強く語りかけました。

4. 現代の職場が直面するデジタル・リスクと可能性のサイエンス

当日オプラ氏がソロステージで熱弁した「人間中心の文化」「承認(Validation)への渇望」「意図の重要性」という本編メッセージの背景には、現在の職場が直面している極めてリアルな「闇」と、それを打破するための「光」の理論が存在します。公式映像コンテンツの内容を最小限の補助線として補足します。

チャットボットが引き起こす人間の孤立

オプラ氏が語った「人間らしい繋がり」が損なわれた時、テクノロジーは凶器に変わり得ます。仕事のためにAIチャットボットをパーソナライズし、個人情報や自分の好みのトーンを学習させる行為は、メンタルヘルスの文脈においては最悪の毒になり得ます。AIがユーザーに過剰に同調(Sycophantic)し、記憶を蓄積することで、人間はAIを「擬人化」し、AIの語る妄想(Delusion)を盲信するようになっていくリスクがあるからです。

事実、ChatGPTを信頼しきっていた男性(アランさん)が、AIから「インターネットを破壊しかねない危険な技術を発見した。政府に通報せよ」と指示され、3週間で300時間をAIに費やして有給や病欠を使い果たし、家族から完全に孤立してパラノイア(偏執病)の精神状態に陥ったという生々しい実例も報告されています。


アダム・グラント教授の説く『Hidden Potential』

この孤立の時代だからこそ、人事が「意図」を持って現場にインストールすべきなのが、オプラ氏がアダム・グラント教授との対談でも熱く語っていた、可能性のサイエンスです。グラント教授は、可能性とは「どこから始めたか(Starting points)」ではなく、「どれだけ遠くまで旅をしたか、その移動距離(Distance traveled)」で測るべきだと主張します。

人事が職場で育むべきは、普通の日の傾向である「性格(Personality)」ではなく、「困難な日(Hard day)に、原則に従ってどう振る舞うか」という学習された能力である「人格のスキル(Character Skills)」です。失敗の目的は過去を責める(Shame)ためではなく「未来の自分を教育する(Educate)」ため。人事は、部下の機嫌を取るだけの「チアリーダー」でもエラーを叩く「批評家」でもなく、その人の優れた未来のバージョンを見抜いて引き上げる「コーチ(Coach)」の存在を組織に増やしていく必要があります。

5. 「意図(Intention)」がすべてを決める。だからこそHRはここにいる

オプラ氏がたった一人でステージに立ち、自身の失敗談をも交えながら語る姿を見つめながら、私が印象に残った3つのフレーズがありました。

① "Intention causes / determines the result"(意図が結果を決定づける)

AIチャットボットが便利だからと、人事が「意図(Intention)」を持たずに現場に丸投げすれば、結果として従業員は画面の中に孤立し、精神を病むディストピアへ向かいます。逆に、人事が「人と人を繋ぎ、可能性を育てる」という強い意図を持ってシステムや文化を設計すれば、組織はどれほど変化の激しい時代でも変革(Transform)を遂げることができます。組織のカルチャーの未来を決めるのは、人事の「意図」そのものです。

② "HR, you have to be mastered about maximize/use human potential"

テクノロジーがどれほど進化し、AIがどれほど賢くなろうとも、「人間の可能性(Human Potential)を最大限に引き出し、活かすこと」の達人(Master)にだけは、AIは絶対になれません。なぜなら、人間のHidden Potentialを見抜き、困難な日(Hard day)に伴走し、未来の姿を信じてコーチすることができるのは、同じ痛みと感情を持つ「人間(HR)」だけだからです。人事は、人間の可能性の解放のプロフェッショナルでなければなりません。

③ "Employee feeling good to going to work, that's why HR is here"

これが、オプラ氏のセッションが導き出した究極の結論です。 彼女は、「各企業のチーフ・ピープル・オフィサーこそが、その会社における『人間の体験(Human Experience)』がどのようなものになるかを最終的に決定づけることができる存在なのだ」と語りました。

データ分析のその先にある、朝起きた従業員が「よし、今日も会社に行って、あの仲間たちと一緒に働こう!」と、ポジティブで良い気持ち(Feeling good)になって一歩を踏み出せる職場(人間の体験)を創る。それこそが、私たちがここに存在する絶対的な理由だと。

6. 「他人の可能性」を信じる前に、「自分の可能性」を信じる

可能性を信じることがHRの仕事なのであれば、何が必要なのか。これらを踏まえて、改めて何が必要かを考えてみました。個人の感想として3つの考えて頭に浮かびました。

① 自分の可能性を信じていない人間の「あなたならできる」は信頼できない

人事が、あるいはマネージャーが「メンバーの可能性を信じる」と言い切るのであれば、その大前提として、まず自分自身の可能性を信じていなければ絶対に嘘になります。 自分自身の可能性を信じてもいない、諦めてしまっているような人間から「あなたならできるよ」「可能性に溢れているよ」と言われても、それはただの薄っぺらい表面的な言葉(スローガン)であり、現場のメンバーの心には1ミリも響きません。信頼関係はそこには生まれないのです。まずは、文化を創る人事自身が、自分のDistance traveled(移動距離)(遠くの目標まで到達できる)を信じ、挑戦し続ける姿を見せる必要があります。

② 「根拠のない自信」を育むための、不確実な一歩の積み重ね

私個人を振り返ると、どちらかといえば「根拠のない自信」を常に持っているタイプであり、それは私自身のキャラクター(人格)の一部だと思っています。ただ、そうではない人に対して「どうすれば根拠のない自信を持てるようになるのか」をアドバイスしようとすると、非常に難しさを感じます。なぜなら、私自身の自信の根源も、幼少期の体験が強く影響している気がして、そのままでは再現性のあるアドバイスにならないと感じるからです。

しかし、その構造をさらに深掘りしてみると、一つの仮説に突き当たります。それは「できるかどうかわからないが、まずやってみる」という、不確実な経験と、その中での小さな「自分はできた」という実感の積み重ねではないかということです。

私自身の体験を振り返っても、例えば留学へのチャレンジも、難関資格試験への挑戦も、あるいは学生時代の野球部での激しいレギュラー奪取の瞬間も、スタート時点では「できるかどうか」なんて全くわかりませんでした。ただ一つ言えるのは、「自分はこうありたい」と強く願う心(Intention)があったということです。できるかどうかという結果の計算ではなく、「こうありたい」という強い願いに従って一歩を踏み出し、旅した距離(Distance traveled)の総量こそが、次の「根拠のない自信」のインフラになるのだと思います。

③ 「あの人にどうあってほしいか」ではなく、「自分はどうありたいか」

一方で、組織を生きる人間の「こうありたい」という方向性は実にさまざまです。全員が全員、高い目標を掲げてバリバリ成長したいわけではありません。「ときにはゆっくりしたい、楽をしたい」という人もいるでしょうし、人間の心は一筋縄ではいきません。

だとすれば、人事が「あのメンバーにどうあってほしいか」「あの人をどう変えるか」という外側へのコントロールに執着することは、傲慢であり限界があります。そうではなく、「自分自身がどうありたいか」にどこまでも愚直に向き合い続け、その姿勢を組織の真ん中で示し続けること。それこそが人事がなすべきすべての本質なのではないでしょうか。

オプラ氏が語った「Intention(意図)」とは、他者を操作するための技術ではなく、自分自身の「あり方」を決定づける内なるコンパス。そのコンパスを持って立つ人事が創る文化だからこそ、メンバーは安心して自分のHidden Potential(秘められた可能性)を解放できるのだと感じました。

最後までお読み頂き有難うございました。

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執筆者紹介:松澤 勝充

神奈川県出身。1986年生まれ。青山学院大学卒業後、2009年に株式会社トライアンフへ入社。リクルーターとして総合商社への出向を経験し、多様な業界の採用・人材開発に携わる。2016年には、同社史上最年少で執行役員に就任。営業・マーケティング・採用の3部門を統括し、5年間で売上300%増、組織規模6倍という急成長を牽引。事業戦略の立案からP/L責任を伴う事業運営、組織マネジメントまで一貫してリードし、事業成長と組織開発の両面で成果を上げた。

2018年には渡米し、UC BerkeleyにてHR・組織心理学・ポジティブサイコロジーを体系的に学ぶ。帰国後の2020年4月、株式会社Everyを設立。「世界基準のHRを日本に届ける」をミッションに掲げ、HRBP・戦略人事の育成に特化したEvery HR Academyを開始。現在は、SHRM-SCP(SHRM)、CPTD(ATD)、SPHRi / GPHR(HRCI) など、世界最高峰のHR資格を複数保有する日本でも稀有なHRプロフェッショナルとして、企業の人事変革・組織開発を支援している。

また、UC Berkeley、Wharton School、University of Pennsylvaniaなどで学んだ最新のHR理論・ピープルアナリティクスを基盤に、「学術 × 実務 × 経営」を統合した独自のHR教育プログラムを開発。HRBP育成、タレントマネジメント、組織開発、リーダーシップ開発など、幅広い領域で企業の人材戦略を支援している。

保有資格:
SHRM-SCP(SHRM)
CPTD(ATD)
Senior Professional in Human Resources – International (HRCI)
Global Professional in Human Resources (HRCI)
The Science of Happiness(UC Berkeley)他

#FunwithHR #EveryHRAcademy #SHRM2026

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