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【SHRM2026レポート⑦】Detecting Deception: Practical Skills for HR Professionalsー元米国司法省検事から学ぶ、思い込みを排した「嘘を見抜く科学的アプローチ」とHRの面接・調査スキル

※本内容は講演を聞いた個人の解釈です。過去のブログはこちら

1. なぜ書くか

様々な情報が飛び交う現代において重要になる中、日本に住む約1億人にはグローバルでの最新の取り組みやトレンドを学ぶ機会が多くありません。Every Inc.では「HRからパフォーマンスとワクワクを」というビジョンを掲げ、グローバルな取組みやアカデミックな文献からD&Iに関する歴史、取組み、事例など”日本なら”ではなく、”グローバルスタンダード”な情報を提供しています。

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2. SHRMアニュアルカンファレンスとは

SHRM(Society for Human Resource Management)は、世界で30万人以上の会員を有する、最大級の人事専門家団体です。

その年次カンファレンスである「SHRM Annual Conference & Expo」は、毎年世界中の人事プロフェッショナルが一堂に会するグローバルイベントで、最新の人事戦略、組織開発、法改正、人材マネジメント、テクノロジーなど、HRのあらゆる分野に関する知見が共有されます。

米国フロリダ州オーランドで開催されている「SHRM2026」。今回は、元米国司法省(DOJ)の検事(Attorney)であり、現在はコンプライアンス研修などを手掛けるTraliant社のボードアドバイザーを務める、欺瞞看破の世界的プロフェッショナル、マイケル・ジョンソン(Michael Johnson)氏が登壇したセッションをレポートします。

セッションのテーマは、『Detecting Deception: Practical Skills for HR Professionals(欺瞞の看破:HRプロフェッショナルのための実践的スキル)』。 採用面接での経歴詐称の見極め、社内不正やハラスメントの事実調査、さらには営業担当者による実績アピールの誇張にいたるまで、日々多くの「見極め」を迫られるHRに向けて、直感や思い込みに頼らない、科学的に検証された誠実さと欺瞞の識別アプローチが共有されました。

3. なぜ人は嘘を見抜けないのか?「専門家でも正解率は55%」という事実

研究データによると、平均的な人間は1日に2回は嘘をつかれているとされています。しかしそれにもかかわらず、ほとんどの人は他人の欺瞞を見抜くことが極めて苦手です。

ジョンソン氏は、その理由を「多くの人が『嘘をついている人は、目をそらす』『挙動不審になる』といった、根拠のない不正確なステレオタイプ(思い込み)に依存して相手の行動をジャッジしているからだ」と指摘します。

セッションで投影されたスライドによると、欺瞞看破の専門家を対象とした大規模なメタ分析(Bond & DePaulo 2006)において、嘘と真実を正しく識別できた割合は、わずか55%にとどまるというデータがあります。これはコインを投げて裏表を当てる確率(50%)とほとんど変わりません。

しかし問題なのは、多くの人が「自分には相手を見抜く正しい直感(inner judgment)がある」と、自らの判断に非常に高い自信(Overconfidence)を持ってしまっている点にあります。この「自信過剰」と「実際の精度の低さ」のギャップこそが、人事が面接や調査で重大な見落としや誤認を引き起こす最大の原因となっています。

4. 「嘘つきのステレオタイプ」を科学的に否定する

ジョンソン氏は、私たちが直感的に「欺瞞のサイン」だと信じている行動の多くが、科学的な根拠を持っていないことを明示しました。

投影されたスライドには、「 liars are more likely than truth tellers to(嘘つきが真実を語る人よりもやりがちな行動)」として、以下の4つの行動が挙げられました。

  • Avoid eye contact(アイコンタクトを避ける)

  • Become fidgety(そわそわする、挙動不審になる)

  • Increase their blink rate(まばたきの回数が増える)

  • Look up and to the right(右上を見る)

しかし、ジョンソン氏はこれらの行動を「Liars are NOT more likely than truth tellers to(嘘つきが真実を語る人よりもやりがちな行動では『ない』)」と完全に否定しました。

なぜなら、DePaulo(2003年)やMann(2002年)といった学術的な研究によって、これらの行動と欺瞞との間に有意な因果関係は認められないことが証明されているからです。例えば、「アイコンタクトを避ける」という行動は、嘘をついているからではなく、単なる緊張や文化的な背景、あるいは内向的な性格によって引き起こされる場合が多いのです。

根拠のないステレオタイプで相手をジャッジすることは、優秀な人材の見落としや、ハラスメント調査における重大な冤罪を生むリスクを高めます。

5. 代わりに注目すべき「3つの要素」と「 Deflection」

ステレオタイプに依存しない代わりに、ジョンソン氏は欺瞞を見抜くために注目すべき「Three factors that impact how people may behave when lying(人が嘘をつくときの行動に影響を与える3つの要素)」を提示しました。

  1. Emotion(感情)

  2. Cognitive effort(認知的努力)

  3. Attempted impression management(印象管理への試み)

嘘をついている人は、ストーリーの整合性を保つために高い認知的負荷(Cognitive effort)がかかり、また「正直に見せよう」と印象をコントロール(Attempted impression management)しようとします。その結果として表れる矛盾や、質問に対する「Deflection(偏向・そらし)」の動きこそが、人事が注目すべきサインです。

具体的な Deflection の事例

ジョンソン氏は、ハラスメント調査の場面を想定したロールプレイのスライドを用い、Deflectionの具体的な現れ方を示しました。

Q.「アリス、ロナウドの髪に指を通した(触れた)ことはありますか?」 A.「Not that I recall.(私が記憶している限りでは、ありません)」

Q.「ヘンリー、職場で人種差別的なジョークを言ったことはありますか?」 A.「Not really. Speaking of jokes, you should hear the ethnic jokes that Todd and Mark tell around here.(いえ、それほど。ジョークと言えば、ここらでトッドとマークが言っている人種差別ジョークを聞いた方がいいですよ)」

ヘンリーの回答は、質問に対して正面から答えず、話題を別の優秀なチームメンバー(他者)の成果や、別のトピックへとすり替えようとする「偏向・そらし(Deflection)」の動きが見られます。

6.日本企業の「面接の罠」――悪意ある”嘘”ではなく、本人が”わかっていない”問題

元DOJ検事のマイケル・ジョンソン氏による「専門家でも見極め精度は55%」という指摘は、私たち日本の人事にとっても非常に重い事実を突きつけています。特に日本の採用面接においては、この問題が欧米とは少し異なる形で、より複雑に表面化していると感じます。

日本でも同様の「実績の誇張」は頻発していますが、それは必ずしも意図的な「嘘」とは限りません。むしろ、「本人もなぜその成果が出たのか構造的に理解していないにもかかわらず、自分の手柄のように語ってしまっている」という、悪意なき欺瞞であることが非常に多いのです。

日本の多くの企業組織では、個人の責任範囲(ジョブ)が明確ではなく、タスクも状況に応じて場当たり的にアサインされる傾向があります。そのため、最終的な成果は「個人」ではなく「チーム単位」の共同作業として生み出されることがほとんどです。 求職者は、強力な会社の仕組み(システム)や、優秀な同僚たちとの協働のなかで自然と出てしまった成果を、面接の場で「私がやりました」と語ります。それは、”嘘をつこう”と身構えているのではなく、本人が自らの置かれていた「環境」と「個人Capability」の因果関係をわかっていないのです。

だからこそ、候補者側も面接官側も、「応募者がどのような環境(Situation)でその成果を出したのか」を適切に理解・解体することが何よりも大切になります。

では、「環境を適切に理解する」とは、具体的に何をすることなのでしょうか。

私は、面接において候補者の「直近の1週間のカレンダー(予定表)」を確認することが、最も現実的な環境解体アプローチであると考えています。

なぜなら、面接用に美しく加工されたエピソードとは違い、カレンダーに刻まれたコマ(予定)は、「何に時間を割き、誰と関わり、具体的に何をしているか」という組織のリアルなシステムを100%正確に映し出す鏡だからです。

このカレンダーに刻まれた事実を、組織行動学やマネジメント論の学術的根拠に基づいて紐解くことで、候補者の置かれていた本当の「Situation」がクリアに可視化されます。

カレンダーから紐解く「Situation(環境)」の解体4ステップ

① チーム目標とタスクの性質の理解(タスク相互依存性理論)

カレンダーが「自分の作業時間」で埋まっているのか、他部署との「ミーティング」で埋め尽くされているのかを確認します。チームの目標が「個人の数字の合算」だったのか、全員が密に連携し合う「相互往復型」のタスクだったのか、その流動性とアサインのされ方を解体します。

  • 具体的な問いかけ:「あなたが直近で普段通りに働いていた1週間の中で、最も多くの時間を割いていたカレンダーのコマは何でしたか? そのタスクは前後の工程のメンバーとどう連動していましたか?」

② 役割分担と、関与度や責任度の明確化(RACIモデル)

そのミーティングの予定において、候補者がただ報告を聞く「出席者」だったのか、実務を動かす「実行責任者(Responsible)」だったのか、あるいはリスクを背負う「最終説明責任者(Accountable)」だったのかを検証し、関与度の詐称を防ぎます。

  • 具体的な問いかけ:「その定例会議において、あなたの具体的な役割(ファシリテーター、ただの報告者、決定権者)は何でしたか? 仮にそのプロジェクトが失敗した際、社内で最も責任を突きつけられるポジションでしたか?」

③ 日々のコミュニケーションとステークホルダー(利害関係者重要性モデル)

カレンダーに登録されている参加メンバーの属性を紐解きます。自チームの人間だけか、他部署のマネージャーか、あるいは役員や外部ベンダーか。候補者が日々、組織のどの階層やコンフリクト(利害対立)に対峙していたのかを解体します。

  • 具体的な問いかけ:「その週にカレンダー上で最もコミュニケーションの密度が高かった他部署のステークホルダーは誰ですか? その人を巻き込む上での最大の障壁は何でしたか?」

④ 意思決定プロセスと集団力学(合意形成論)

日本企業特有の「みんなで決める(根回し・稟議)」という構造を解体します。カレンダー上の「1on1」や「事前のすり合わせ」の有無を確認することで、会議という場に至るまでの合意形成プロセスを本人がどうコントロールしていたのかが見えてきます。

  • 具体的な問いかけ:「その最終決定の予定が入るまでに、あなたは事前の根回しやコンセンサスビルディングのために、誰とどのようなカレンダーのコマ(事前のすり合わせ)を設計しましたか?」

嘘つきを暴き立てるような冷酷な「取り調べ」をする必要はありません。ジョンソン氏が言うように、人事がアクティブリスニングの姿勢を見せ、強固なラポール(信頼関係)を築きながら、過去の綺麗な物語ではなく「直近のリアルな1週間の時間創出の事実」を一緒に紐解いていく。

「カレンダーから環境を適切に理解し、個人に宿る真の価値(Character)を抽出する」。これこそが、直感(55%の壁)を超え、お互いにとって不幸なミスマッチを防ぐための、面接リテラシーかもしれません。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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執筆者紹介:松澤 勝充

神奈川県出身。1986年生まれ。青山学院大学卒業後、2009年に株式会社トライアンフへ入社。リクルーターとして総合商社への出向を経験し、多様な業界の採用・人材開発に携わる。2016年には、同社史上最年少で執行役員に就任。営業・マーケティング・採用の3部門を統括し、5年間で売上300%増、組織規模6倍という急成長を牽引。事業戦略の立案からP/L責任を伴う事業運営、組織マネジメントまで一貫してリードし、事業成長と組織開発の両面で成果を上げた。

2018年には渡米し、UC BerkeleyにてHR・組織心理学・ポジティブサイコロジーを体系的に学ぶ。帰国後の2020年4月、株式会社Everyを設立。「世界基準のHRを日本に届ける」をミッションに掲げ、HRBP・戦略人事の育成に特化したEvery HR Academyを開始。現在は、SHRM-SCP(SHRM)、CPTD(ATD)、SPHRi / GPHR(HRCI) など、世界最高峰のHR資格を複数保有する日本でも稀有なHRプロフェッショナルとして、企業の人事変革・組織開発を支援している。

また、UC Berkeley、Wharton School、University of Pennsylvaniaなどで学んだ最新のHR理論・ピープルアナリティクスを基盤に、「学術 × 実務 × 経営」を統合した独自のHR教育プログラムを開発。HRBP育成、タレントマネジメント、組織開発、リーダーシップ開発など、幅広い領域で企業の人材戦略を支援している。

保有資格:
SHRM-SCP(SHRM)
CPTD(ATD)
Senior Professional in Human Resources – International (HRCI)
Global Professional in Human Resources (HRCI)
The Science of Happiness(UC Berkeley)他

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