【ATD2026カンファレンスレポート④】The Chemistry of Collaboration: Using Neuroscience to Build High-Performing Teams(脳科学で導く「協力」から「共創(コラボレーション)」への変革と心理的安全性の4段階)
1. なぜ書くか
様々な情報が飛び交う現代において重要になる中、日本に住む約1億人にはグローバルでの最新の取り組みやトレンドを学ぶ機会が多くありません。Every Inc.では「HRからパフォーマンスとワクワクを」というビジョンを掲げ、グローバルな取組みやアカデミックな文献からD&Iに関する歴史、取組み、事例など”日本なら”ではなく、”グローバルスタンダード”な情報を提供しています。
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2. ATDカンファレンスとは
ATD-ICE(Association for Talent Development – International Conference & Exposition)は、世界最大級の人材育成に関するカンファレンスおよび展示会で、ATD(Association for Talent Development:人材開発協会)が主催するイベントです。毎年、世界中から人材開発、学習、組織開発の専門家が集まり、最新の知見、トレンド、スキル、ツールを共有し学び合う場として広く知られています。
2026年のイベント「ATD2026」は、5月17日(日)〜20日(水) にロサンゼルスで開催されました。
👉 ATD International Conference & EXPO
3. チームワークの本質を見極める:チームワークの連続体(スペクトラム)
前回のレポートでは、デビッド・ロック氏のセッションをベースに、AIの利便性に依存しすぎることの罠と、脳に深いネットワークを刻み込む「AGESモデル」について解説しました。私たちは効率的なテクノロジーの近道に抗い、人間特有の「社会的学習」を活かして記憶をより強固にする必要があります。
では、人間が組織で集まって活動するとき、真に高いパフォーマンスを弾き出す「チームワーク」とはどのようにデザインされるべきでしょうか。
今回のATD2026において、Brain Aware TrainingのCEOであり、元Lynda.com(現LinkedIn Learning)のCLOでもあるブリット・アンドレアッタ(Britt Andreatta)博士が登壇しました 。

博士は、チームのパフォーマンスを科学的に紐解くフレームワークとして「Types of Teamwork(チームワークの連続体)」を提示しました 。チームワークは単一の状態ではなく、タスクの性質や不確実性の度合いに応じて、以下の3つの明確なレベル(Simple / Complicated / Complex)に発展する連続体(スペクトラム)として捉えることができます。

調整(Coordination)[Simple]: 最も基本的な形態です 。効率化のために、メンバー同士が互いに干渉しないよう全体の取り組みを整える段階を指します。
協力(Cooperation)[Complicated]: 共有計画に従い、それぞれに割り当てられた自分の担当パート(portion)を個別に遂行・実行するプロセスです。
共創(Collaboration)[Complex]: 最も高度で進んだ形態です 。全員が創造的な活動に主体的(co-labor)に関与し、その関与者全員のインプットによって最終的な結果そのものが変化していくプロセスを指します。
4. 「協力(コーポレーション)」と「共創(コラボレーション)」の決定的な違い
私たちは日常の実務において、これらの言葉を混同して使いがちですが、アンドレアッタ博士曰く、その中身と脳の同期(神経科学的な反応データ)はまったく異なります 。博士はこの違いを、「オーケストラ」と「ジャズの即興演奏」という例えで説明しました 。
オーケストラは「協力(Cooperation)」の典型である 。事前に用意された綿密な計画(楽譜)に基づき、各演奏者が割り当てられた自分のパートを正確に実行して調和を生み出す 。
一方、ジャズの即興は「共創(Collaboration)」である 。楽譜はなく、その場で互いの音にリアルタイムで反応し合い、メンバー間の「創造的緊張(Creative tension)」から、当初は予測もできなかった新しい音楽を共に創り上げていく。
人事が組織開発を設計する上で重要な鍵は、自社が直面している課題に「相互依存性(Interdependence)」と「不確実性(Uncertainty)」があるかどうかを見極めることです 。
結果がある程度予測可能で、個別の役割分担が明確な業務であれば「協力」の仕組みを磨くことで最適化できます 。しかし、これまでにないイノベーションや複雑な課題解決が求められる現代のビジネスにおいては、不確実性を受け入れ、互いの知えに深く依存し合う「共創」のカルチャーが不可欠になります 。
ハイブリッド時代における4つの働くモード(Gartnerデータ)
さらに、当日のスライドではGartner社のデータを引用し、現代のハイブリッドワークにおける「4つの働くモード(4 Modes of Work)」についても言及されました 。

Working Together, Together(同じ時間、同じ場所): 同期型・集約型(対面ミーティングやブレスト)
Working Alone, Together(同じ時間、違う場所): 同期型・分散型(リモートでのリアルタイム協働)
Working Together, Apart(違う時間、同じ場所): 非同期型・集約型(共有スペースやシフト制での連携)
Working Alone, Apart(違う時間、違う場所): 非同期型・分散型(完全個人のリモートワーク)
人事は、自社が今どの「モード」で働いているかを識別した上で、「コラボレーションの4つの方向性(Orientations)」、すなわち【① Communication(対話の透明性)】【② Task(目的・期限の遂行)】【③ Network(多様な知識の共有)】【④ Community(帰属意識と共有パーパス)】のどこにレバレッジをかけるべきかを戦略的に選択する必要があります 。
5. チームを「学習ゾーン」へ導く:心理的安全性とアカウンタビリティの2軸
チームをこの高度な共創状態(ジャズの即興演奏)へと引き上げるために、HRやマネージャーは何をコントロールすべきでしょうか。博士は、チームのパフォーマンスを「心理的安全性」と「アカウンタビリティ(責任感・高基準)」の2軸のバランスで説明します 。
学習ゾーン(Learning Zone)[高い安全性 × 高い責任感]: 高い成果基準と安心感が両立 。失敗を恐れずに新しい挑戦や実験ができ、本質的な異論や議論が最も活発に行われる、最も生産的で理想的な共創の環境です 。
快適ゾーン(Comfort Zone)[高い安全性 × 低い責任感]: 心理的安全性は高いものの基準が低いため、ぬるま湯組織になり挑戦や成長が停滞します 。
不安ゾーン(Anxiety Zone)[低い安全性 × 高い責任感]: 求める成果基準は高いものの心理的安全性が低いため、メンバーに強いストレスと萎縮が生じ、誰も声を上げなくなります 。
無気力ゾーン(Apathy Zone)[低い安全性 × 低い責任感]: 基準も安全性も低く、メンバーの活気や関心そのものが完全に失われている最悪の状態です 。
人事が目指すべき組織開発のゴールは、チームを「学習ゾーン」へと導くことです 。そのためには、ただ優しいだけの職場(快適ゾーン)を作るのではなく、高い目標基準(アカウンタビリティ)をしっかりと掲げながら、同時に「ここでは安心して発言し、挑戦に伴う知的な失敗(Intelligent failures)をして大丈夫だ」という環境をセットで整備しなければなりません 。
6. 心理的安全性 4つのレベル(安全な環境 vs 恐怖の環境)
さらに、今回のセッションの核心として、心理的安全性は一足飛びに完成する単一の概念ではなく、4つの段階(連続するステップ)を経て発展していくという性質を持っています 。

人事が自社の管理職研修や組織診断を行う際、「我が社には心理的安全性があるか・ないか」を一括りで議論するのは不十分です。「このチームはレベル2(学習)の段階でつまずいているな」「レベル3(貢献)まではできているが、上司に異論を唱えるレベル4(挑戦)の壁がまだ高いな」というように、段階的なレンズを通してチームの現状を定点観測することが重要です。
まとめ:日常の「会議のプロトコル」から学習ゾーンをデザインする
一過性のイベントとしてのチームビルディングワークショップや単発の懇親会だけでは、脳の深い部分に根づく心理的安全性や共創のカルチャーを維持することはできません。
毎日、あるいは毎週繰り返される「定例会議」という日常の儀式のプロトコルを、この4つのレベルに沿ってほんの少しずつ変革していくことこそが、最もリバウンドのない組織開発の方法です。
アンドレアッタ博士が提示した「Strategies to Boost Collaboration(コラボレーションを高める戦略)」にもある通り、まずは【1. 生物学的な脳の仕組みを敬い(Honor the power of biology)】、【5. 心理的安全性の文化を創る(Build a culture of psychological safety)】ことから始まります 。
AI時代になり、ドキュメントの作成やデータ共有の効率性が極まるからこそ、人間が集まる対面(インパーソン)の場では、お互いの脳をミラーリングさせ、心理的安全性に基づいた「ジャズの即興演奏(共創)」を楽しまなければなりません。
まずはメンバーの「所属の安全性(レベル1)」を担保する冒頭1分のチェックインから、明日からの会議をほんの少しだけ「常軌を逸した意図(インテンション)」を持ってデザインしてみる、そんな取り組みが私たちに必要なのかもしれません。
最後までお読みいただき有難うございました。
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執筆者紹介:松澤 勝充

神奈川県出身1986年生まれ。青山学院大学卒業後、2009年 (株)トライアンフへ入社。2016年より、最年少執行役員として組織ソリューション本部、広報マーケティンググループ、自社採用責任者を兼務。2018年8月より休職し、Haas School of Business, UC Berkeleyがプログラム提供する Berkeley Hass Global Access Program にJoinし2019年5月修了。同年、MIT Online Executive Course “AI: Implications for Business Strategies”修了し、シリコンバレーのIT企業でAIプロジェクトへ従事。
2019年12月(株)トライアンフへ帰任し執行役員を務め、2020年4月1日に株式会社Everyを創業。企業の人事戦略・制度コンサルティングを行う傍ら、UC Berkeleyの上級教授と共同開発したプログラムで、「日本の人事が世界に目を向けるきっかけづくり」としてグローバルスタンダードな人事を学ぶHRBP講座などを展開している。
保有資格:
SHRM-SCP(SHRM)
CPTD(ATD)
Senior Professional in Human Resources – International (HRCI)
Global Professional in Human Resources (HRCI)
The Science of Happiness(UC Berkeley)他
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