記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

『いけない』

先日書店にふらりと立ち寄った折、道尾秀介さんによる小説『いけない』のカバーが目にとまった。

「写真に隠された謎を見破れ」

「この街の謎を解けるのはあなただけ」

そんな文言を見て、幼い頃にNHKで放送していた『探偵Xからの挑戦状!』という番組が好きだったことをふと思い出す。

またあんなふうに謎解きをやってみたい。

そんな思いから、僕は衝動的にこの本を購入した。

いつもは帯やカバーの主張が強い本はあまり買わないタチの人間なのだけど、献血を終えたばかりで気分が高揚していたこともきっと影響しているのだと思う。

そういうわけで、ここから先は僕が小説『いけない』と向き合った記録をつらつらと書いていくことにする。

※ネタバレには一切配慮していません。


◯第一章

正直なところ、本筋のストーリーは僕の好みからは少し外れていた。

僕がどんでん返し系の物語に対して食傷気味なことも影響しているのだろうけど、やっぱりこういう展開はちょっと苦手だ。

なんでだろうな、大逆転の驚きよりも不条理さの方が強く感じられてしまうからかな。

まあ、その辺りは一旦脇に置いておこう。

本題は最後にでてくる地図の写真と、提示された謎である死んだのは誰かを解き明かすことだ。

迷探偵の僕は「安見邦夫が轢かれて事件解決なんてサイテー!!」と、一時は毛利小五郎ばりの雑な結論に至りかけたのだけど、物語を改めて読み返しながらよく考えてみるとこれが真相ではないことが分かってくる。

東側のアパートから飛び出した安見邦夫。

アパートの南側から左折してやってくる森野。

アパート正面西側の細い路地から駆けてくる隈島。

そして、南下している最中にアパートの前で右側から飛び出してきた誰かを轢いてしまう車。

これらの位置関係と地図の写真を照らし合わせてみれば答えはひとつだろう。

解答 :「死んだのは隈島である」

これは流石に自信あるので、間違ってたら樹の下に埋めてもらっても構いません。

謎を解く際に物語を改めて読み返してみると、「〇〇側から☓☓が見える」のような位置関係についての言及が至る所にあることにことに気づき、問題として良くできていると感心する。

この本の楽しみ方も掴めてきたような気がするし、このまま全問正解を目指して頑張るぞ。


◯第二章

第二章で描かれるのは、第一章の舞台となった町の隣町で5年後に起きたある殺人事件。

語り手である珂(カー)くんの不憫さが際立つ物語で、子ども社会における異文化交流の難しさや残酷さに心が痛くなると同時に、多文化共生とは口で言うほど簡単なものではないのだと再認識させられた。

さて、この章で提示される謎はなぜ死んだのか

結論から言ってしまうと、ハッチに隠れていた山内くんが珂くんへ借りを返すため、文具屋の女性とその甥を崖に落とした、というのが真相だと思う。

本章のラストに掲載された写真に文具屋のガレージに侵入する山内くんの姿が映り込んでいることからもこれは明らかだろう。

…本当に?

メタ推理は禁じ手だと理解してはいるものの、この真相だと些か単純すぎるような気がするし、山内くんの得体の知れない不気味さになんらかの説明をつけたくなってしまう。

ニュース映像に映り込んでいる以上、山内くんが珂くんの妄想の産物であるという説は流石にないと思うのだけれど、なんとも釈然としない。

解答:「山内が殺したから」

どれだけ考えても自信の持てる答えが出なかったので、ひとまずこれで提出ということにする。

…ちなみに前章で扱われた殺人事件がさりげなく迷宮入りしたことが語られていたのだけど、唯一真相にたどり着いていた隈島が情報を独占したまま亡くなったからなんだろうな。

刑事の単独行動がご法度な理由がよく分かるね。


◯第三章

第一章にも登場していた刑事の竹梨の視点から、ある宗教団体に勤める女性の不審死事件が描かれる。

本章では竹梨以外にも前章までの登場人物が何人か登場しており、世界観の繋がりをより強く感じられるストーリーになっていた点が好印象だった。

さて、本章で投げかけられる謎はこれまでのふたつ以上に悩ましいものである。

罪は誰のものか。

前のふたつの謎に比べると問いかけがいやに抽象的なのがなんとも不気味だ。

まず、不審死事件そのものの大まかな流れと密室トリックについては概ね水元刑事の推理通りで間違いないだろう。

無知な僕はスマートロックなるものをよく知らなかったのだけれど、あのタイミングで開示されたことと水元の末路から考えると信用していい情報だと思う。

そして、本章の最後に掲載されている写真で竹梨が手帳に偽装工作をしている様子が示されていることから、彼が事件に関与していることも間違いない。

問題なのは、罪は誰のものかという問いにどのように答えるべきかである。

守谷が宮下とトリックに気づいた中川を殺害し、以前から信者だった竹梨が守谷を庇うため、手帳への偽装工作と水元の殺害を実行したというのが一番ストレートな真相だと思う。

しかしそうなると、罪はどちらのものになるのだろうか。

守谷に依頼された竹梨が全員殺害したということであれば話は簡単だったのだけど、これでは答えが絞れない。

再び禁じ手を使わせてもらうのならば、メタ的には竹梨と解答しておくのが無難なように思える。

写真でクリティカルなヒントとして示されているのも竹梨だしね。

解答:「罪は竹梨のものである」

確信をもって答えられないのは些か悔しいけれど、これで提出させてもらう。

それからこれは本筋と一切関係ないんだけど、ベテランで余裕のある竹梨と、熱意と真面目さだけで突っ走る水元はなかなかに良いコンビだったな。

こんな結末になってしまって僕は悲しいよ。


◯終章

本書の総決算。

ここまで僕が提出した解答は概ね正解ということでいいのだろうか。

特に第二章については明確な答え合わせが特になかったので不安なのだけど、珂くんが「そのおかげで、僕いまここにいられるんだもんね」と言っているのでたぶん正解だったのだと思う。

というか山内くんのキャラが変わりすぎてて怖い。

あの得体の知れなさは、あくまで病み気味の珂くんから見た山内くんの姿ということだったのかな。

この最終章では特に問はなく、ラストに白紙の便箋の写真が掲載されているのみ。

これは恐らく安見邦夫の便箋だろう。

安見邦夫は妻に己の罪を告白する文章をしたためてもらったと思いこんでいたけれど、弓子は白紙の便箋を渡していたんだね。

これに関しては、状況に振り回されるばかりだった弓子が一矢報いたように感じられて少し気が晴れる思いだった。


◯おしまい

さて、僕と『いけない』との格闘の記録もこれにて終了である。

正直、自分の出した答えが合っているのかどうかを確認する術がないというのはモヤモヤポイントではあるけれど、それ以上に謎解きを楽しませてもらえたので全体的にはとても満足な作品だった。

これまで、こういった読者への挑戦を仕掛けてくるタイプのミステリーをほとんど読んだことがなかったので、今後はそういうものにも手を出していこうと思う。

いやいや、その前に積んでる『十角館の殺人』をそろそろ読まないとまずいんじゃないか…?


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集