うわ。速い。
耳元で鳴る音に驚く。
風。
音。
スピード。
怖い。
一瞬目をつむり
夫の背中に頭をつける。
夫が何か言ってるけど
風の音にかき消される。
初めてのバイクの後ろ。
手が汗ばんでいるのを感じる。
でも…
慣れてくると
この風がだんだん気持ちよくなってくる。
周りの景色がクリアになっていく。

もっと前を見てみたい。
この風を独り占めにしてみたい。
── ああ、やっぱり自分で走ってみたい。
そう思うまでに時間はかからなかった。
そんな気持ちを見透かすように、
夫が
「まひろもバイクの免許を取ってみたら?」と。
え?
バイクの免許?
いやいやいやいや…
自慢じゃないが
もう50過ぎてるし。
自転車にも乗っていないのに。
それに、バイクは転んだら痛そうだし
カラダむき出しだし…
……。
でもなぁ…。
迷っているわたしに、
「年齢って関係ある?」
と、夫。
…って。
それ、ずるいよね。

── 待って。もっとゆっくり走ってよ。
夫の背中を追いかけながら、
インカムのマイクに
ちょっと不機嫌な声でつぶやく。
初めての遠出ツーリング。

鬱蒼とした緑も、
森の匂いも、
ダイレクトにあたる風も、
体を包み込む温度も、
そして心地よいエンジン音も。
そのすべてが五感に流れ込む。
なんて気持ちいいんだろう。
同じ道なのに、
こんなに違うんだ。
わたしは今まで
こんな世界があるなんて知らなかった。
このままどこまででも走っていける。
そんな気がした。

あの日、自分で走ることを選んだ。
でも…そう。
あなたの背中があるから、
わたしはこんなに自由に走れる。
── 今日も風を感じながら
いつまでもこの背中を追いかけていたい
そう思った。
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