私小説プロレス試合詳報
『髙木三四郎デビュー30周年記念大会 NEVER SAY NEVER』
2025年2月3日(月) 新宿FACE
18:20開場 19:00開始
第二試合 スペシャルシングルマッチ〜私小説プロレスルール 30分一本勝負
マッスル坂井 VS ハイパーミサヲ
試合前アナウンス
試合前にリングアナから
「ただいまからおこなわれる第2試合は、プロレスの試合そのものが、一編の物語となる『私小説プロレスルール』でおこなわれます。
これまでリング上で数々のドラマを作りあげてきたマッスル坂井、ハイパーミサヲの両選手ですが、積み重ねてきた感情表現の鍛錬と特別なテクノロジーにより、ついにこの度みなさまの脳に直接メッセージを伝えられるようになりました。
その心の声、つまり両選手の『モノローグ』が、みなさんの脳内に試合中ダイレクトに響き渡ります。どうか、選手たちの声を聞き逃さないよう、静かに耳を傾けてください。2人が紡ぐ言葉、葛藤、そしてお気持ちの表明を通じて、プロレスの新しい可能性を体感しましょう。
それでは『私小説プロレス』開幕です」とのアナウンスが。
※以下、心の声部分は太字で表記
入場
まず『Reload』が流れてマッスル坂井が入場するも、ここで坂井のモノローグ。
━━新宿東宝ビルと東急歌舞伎町タワーのちょうど真ん中にあるこの建物の7階からは、天気がいいと、街の喧騒が溶け込む黄昏時の薄明かりの中に、トー横キッズたちの姿をみることができる。地上に集まるキッズたちと、私たちがプロレスを繰り広げるこの7階を隔てる垂直の距離、そのわずか数十メートルが生む感情の断絶を、一体どれだけの観客が感じ取りながらこの席に座っているのだろうか。ここにだって空はあるのに。……あと、何で俺の方が先輩なのに……“先青”入場なのだろうか━━
続いて『HERO(ヒーローになる時、それは今)』がヒットしてミサヲが入場すると、ミサヲのモノローグが。
━━側溝を這い回るドブネズミとコンカフェの客引きの間をぬって、ゴジラが見下ろすビルを通りすぎ、トー横キッズを尻目にやっとたどり着くこのビルの中、リングが建てられ、平日の夜にこんなにたくさんの観客が集まっているなんて、大久保公園の立ちんぼたちには想像もつかないことだろう。これから起こる出来事に期待を膨らませ、昂揚感に満ちた瞳が私の体に絡みつく。思えば私のデビュー戦もここ新宿FACEだった。歌舞伎町だけはどんなクズをも受け入れる。それどころか、むしろクズであればあるほど輝きを増すような場所だ。それはまるで何者でもなかった私を受け入れてくれたこのプロレスのリングのように……
試合
相対する2人に西永レフェリーがボディーチェックの後「シェイクハンド?」と問うとミサヲが「お願いします!」と右手を差し出す。すると坂井のモノローグ。「そういえば、この対戦相手は試合前に握手をすると見せかけてマイクを要求し、得意のスピーチで観客へのご機嫌を伺い、その後の試合を有利に進めるというやべーやつだということを忘れていた。危ない、危ない」すると坂井が「マイクお願いしまーす」と要求。マイクを手にするも固まってしゃべれない。坂井のモノローグ。「あれ? マイクを持ったは持ったで……まっっっっっっっったく何も思いつかない」硬直する坂井をミサヲが「隙あり!」とトーキックで奇襲してゴング。ミサヲがマントを外して坂井にチョーク攻撃するとミサヲのモノローグ。「バカめ。試合前にマイクパフォーマンス、その上言葉に詰まるなど愚の骨頂。マッスル坂井、こんなもんだったのか」ミサヲがストンピングを浴びせ、リストを取っている間もモノローグは続く。
━━私は今週末、タッグトーナメントの決勝戦を控えている。毎年、あと一歩で優勝に手が届かない我がタッグ、享楽共鳴。今年こそ絶対に優勝したい。そのためにも、ここでこんな中年レスラーに負けるわけにはいかない。しかし、この男、体格だけはいい。183cm、128kgのマッスル坂井は、今度の対戦相手、マックス・ジ・インペイラーよりデカい。つまり、インペイラー対策にうってつけの相手なのだ。だが、体格差がありすぎて効いてるかどうかすらわからない。というか、そもそもずっと痛がり方がわざとらしい。全然やり返してこないし、本当にやる気あんのか? そう思うと、握る拳にますます力が入る━━
ミサヲがマウントになってグーパンチを叩きこんでいると坂井のモノローグ。
━━あああ、、、、、、、、このグーパンチ、無駄に痛い。結構ずっと痛い。特に女子や小柄な体格の男子レスラーにありがちなんだけど、大きいレスラーのことは遠慮なく殴ったり蹴ったりしてくるのってどういうつもりなんだろう。どんなに分厚い肉に覆われたレスラーだとしても、痛みを感じる痛点自体は、皮膚のすぐ下に分布しているから、痛いのは一緒なので! こいつマジでプロレスわかってんのかなあ? こいつにプロレス教えたやつの顔、マジで見てみたいわ。とりあえずなんでもいいから反撃でもして、無難に序盤の攻防はやり過ごすとするか━━
ミサヲがコーナーに坂井を投げようとすると、坂井が切り返して串刺しラリアット。さらにロープに振ってハリケーンミキサーを放つ。倒れこむミサヲのモノローグに。
━━くそっ! こんなので返されるなんて!テクニカルさは微塵も感じられないが、やはりウエイト、パワーの差は大きい。しかし、どうも気になるのは今日の坂井の無気力さだ。相手が一回り年下の後輩だからなめているのか? いや、それとも、私が女だから見下しているのか? やる気がなくても体も大きいし、力も強い。そんな相手に簡単にやり返されてしまう自分がどうしようもなく情けない。だめだ。弱気になっちゃだめだ。このリングはどんなクソだって受け入れるはずじゃないか。私にだってやり返す方法はある!━━
コーナーにミサヲを振って串刺し攻撃を狙う坂井。ミサヲがかわして隠し持っていたスプレーを顔、さらに両脇に噴射。トーキックから場外に落とすとセカンドロープからアイアムアヒーローを放つ。ここで坂井のモノローグ。
━━突然視界を何か霧状のもので奪われた私は、なすすべもなく非力な女性にリングの外に放り出され、そのまま落下する彼女を命からがら受け止めた。自らの意思で飛び降りようとした彼女を止めることが、果たして正しかったのかどうかはわからない。ひょっとしたら今とった私の行動も、ハラスメントになるのではないか・・・
この間にエプロンサイド幕で簀巻きにされる坂井。モノローグは続く。
━━自分の中の正義とは関係なく、全ては相手の受け取り方次第。考えれば考えるほど、身動きは取れなくなってくる。ああ、本当になんてプロレスがやりづらい時代なんだ。場外乱闘中だってレスラーは自らの加齢臭を気にしなきゃいけないし。本当にやりづらい。でもあれ? 今日の俺……そんなに臭くないのかも……なんでだろう……え! ひょっとしてまさか、さっきミサヲさんが使ってたスプレーって『資●堂のAgプ●ス』!? うわーー! だからリングサイドのお客さんたちもこんなにこんなに笑顔のままなんだ! ハイパーミサヲ、ただのサブカル好きなメンヘラ女子だと思ってたけれども、なかなかどうして気が利く子じゃないか!━━
簀巻き状態にされる坂井をしり目にリングに戻るミサヲのモノローグ。
━━勝てる! いや完全に勝った! あのマッスル坂井に勝ったぞ! CyberFightに天才クリエイティブレスラーは2人いらない! これからはこのハイパーミサヲが、CyberFightのクリエイティブ面を一挙に担う後継者としてスローモーションや『まっする』の興行権を自分の発明だと嘯いてやる! だいたい、よくよく考えたらこの人、会社の社長だし、家族とも仲良くて幸せそうだし、プロレスラーとしてもローカルタレントとしても普通に成功しているじゃないか。今日の試合だって、私なんかに勝とうが負けようが、この人への評価は変わらない。出張のついでに試合して帰るような男に負けるわけにはいかないんだよ! ザマァ見ろ!━━
しかし西永レフェリーは場外カウントを取っていない。「カウントを取ってないじゃないですか!」と抗議するミサヲに西永レフェリーは「なんかシューってやったじゃない! なにか危ないものが入っていたんじゃないか?」と反則行為について注意。2人の小競り合いをヨソに坂井は簀巻きから脱出し、ミサヲの背後へ。坂井に気付いたミサヲに坂井がトーキック。さらにバーディクトから垂直落下式リーマンショックへ。これはカウント2。しかし坂井も疲労困憊からか息が荒くなって、モノローグへ。
━━はあ、はあ、はあ……、俺の名前はマッスル坂井、プロレスラーだ。よく視野の狭いプロレスファンたちからは『あいつはやる気がない』『勝敗に大して執着がなさすぎる』『家業が忙しいからプロレスに対して本気度が低い』『だからプロレスラーとしては認めない』というような、そんなネガティブな意見をよく言われることが多いが、実はその通りである。もちろんそいつのことをミュート、もしくはブロックをするが、その通りなのである。
こう見えて私はCMの年間契約が2本ある。そのうちの一社は金融機関レベルの厳格なガバナンス体制を敷いているため、私はいかなる場面でも暴力的な発言や、相手を挑発するような行為を禁止されているのである。たとえどんなに相手に煽られても『ブッ殺すぞ』はおろか、『つぶしてやる』も『ファ●キン・ガッデム』も契約上絶対に禁止。他団体のリングに乱入する時も菓子折りを持参、意味のない暴力も禁止されているので、この半年間は試合前にわざわざ戦う理由とその目的をお客さんにしっかりと明示し、双方の同意を得た上で業務を遂行してきた。でもいい加減、こんなテンションでプロレスをやっても、なんにも楽しくない。こんながんじがらめなプロレス生活はもう嫌だし、こんな俺の中の話は誰にも話すことができない。俺の心の中だけに留めておかなければいけない話なのだ。とりあえず、今日もあと一発何か技を決めて、こんな試合終わらせて、お風呂に入ってビールを飲んで、寝よう━━
坂井が「終わりだ!」と2発目の垂直落下式リーマンショックを狙う。しかしカバーをミサヲがカウント2でギリギリ返すとモノローグへ。
━━私の名前はハイパーミサヲ、プロレスラーだ。私は今、マッスル坂井の垂直落下式リーマンショックを2発喰らい、瀕死の状態だ。だが、こんなCM契約だの何だのと言い訳ばっかりしているやつに負けてたまるか。思い返せば、2020年11月20日。この新宿FACEで私はスーパーササダンゴマシンとの一戦をもって引退しようとしていた。30歳という節目の年に、結婚を機に表舞台から去るつもりだったのだ。しかし、折しも世界はコロナ禍、行動制限や自粛ムードにより、プロレスをはじめとするエンターテイメント業界は苦境に立たされていた。特にプロレスは他の業界よりも観客と密な関係にあるため、その影響が大きく、そんな状況下で引退することに私は躊躇いを覚えていた。その躊躇いを見抜いたササダンゴマシンと仲間とのリング上での対話により、結局私は引退宣言を即日撤回し、結婚も公表の上、現役続行をして今に至る。しかし、その後の私は、燃え尽き症候群のようになり、戦績も泣かず飛ばず、昨年に至ってはアメリカ遠征で骨折という不運続き。気づけば今年で10周年を迎えるのに、いまだにベルトを巻いたことすらない。無冠のまま、人気もなく、かといって無駄に存在感があるのでずるずると一生続けられそうな気がする。ここまで振り返って気づいたことがある。あぁ、そうか、今、私がマッスル坂井に落胆しているのは、自分を重ねているからかもしれない。ひよっていたのは私も同じだ。私にNOを突きつけていたのは私自身だったのだ。 あの日、リングに上がり続けようとおもったのは何故か。私が憧れたのは、私がこのプロレスに生きる希望を感じたのは……そう、何もかもを曝け出して、カッコ悪くても、人間臭くリングに立ち続けるプロレスラーの姿に憧れたからじゃないか。今、このマッスル坂井は、かつて私が憧れたあの尖っていてはちゃめちゃなマッスル坂井なのか? いいや、私の憧れたマッスル坂井は、こんなコンプラやガバナンスに縛られる普通のおじさんなんかじゃなかったはずだ。ここでマッスル坂井に負けることは、現役続行の道を選んだかつての自分を否定することになる。立ち上がれ、私!━━
立ち上がって坂井にエルボーを打ち込むミサヲ。坂井はエルボーで返して打ち合いへ。坂井はさらにショートレンジ・ラリアットでなぎ倒すと「立てよ、ブス!」と足蹴にする。坂井は地声でミサヲに「35歳、ウタシロミサヲ! 人妻という恵まれた立場にありながら、ポートレートが売れねえ、サインが売れねえ、つねに物販の列の大小で心を悩まし、いろいろやりたがるくせに全然アイデアがまとまらず、納期が遅れてみんなに迷惑をかけてばかり。クソ! サブカル! メンヘラ! ババア! 立てよ、ブス! 立ってみろよ、ブス!」と罵倒し、立ち上がったミサヲに「ファ●ク・ユー!」と中指を立てて「ぶっ殺してやるよ! ファ●キン・ガッデム!」。するとミサヲはマスクを外して場外に投げる。これに気を取られた西永レフェリーをヨソに、ミサヲは坂井に「ファ●ク・ユー!」と中指を立てて絶叫し急所蹴り! 西永レフェリーが戻ってくるとミサヲが「あ!」と視線を外させて、坂井に再び急所蹴り。最後はアイアムアヒーローを投下して3カウントを奪った。
試合結果
○ハイパーミサヲ VS マッスル坂井●
14分40秒 体固め
※アイアムアヒーロー
試合後マイク
試合後、ミサヲがマイク。「坂井さん、コンプラとかガバナンスとかいろいろ気にしているみたいですけど、私はコンプラ、ガバナンス上等のトゲトゲの、ちょっとださめのマッスル坂井が好きなんです。普通の大人にならないでくださいよ! つまんない大人になんないでください! 一生、憧れさせろ!」ミサヲからマイクを投げられ、坂井が取る。「本当にCMの契約でプロレスラーにもかかわらず、『ぶっ殺してやる』とか相手を挑発する行為とか中指立てるとか絶対にやっちゃいけない。やったらお客さんにもらったギャラ全部返さないといけないみたいな、無茶な契約を結ばれているんですけど、たぶんですけど、ここだけの話ですけど、(中略)絶対に内緒です。オマエのおかげだよ、ハイパーミサヲ」最後にミサヲは「クソありがとうございました! 本日のお気持ちは全部私のX等であとでリリースしますので読んでください」と締めくくった。
