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SASEと「コネクティビティ・セキュリティ」の台頭 - 高度化したSSEベンダーの専門性

2026年、SASE(Secure Access Service Edge)市場は重要な転換点を迎えている。「クラウドセキュリティの王者」と称される高度化したSSE(Security Service Edge)専業ベンダーは、そのアーキテクチャの限界から再定義を余儀なくされ、市場は「真のネットワーク統合」と「インターネット・ネイティブ」の二方面へ向かいつつある。本稿では、企業内システムセキュリティが直面する課題を分析し、今後数年にわたるSASE市場の見通しを考察している。

1. SSEが抱える「ネットワークの不在」という負債

2020年代前半、ZscalerやNetskopeに代表されるSSEは、場所を問わないセキュリティソリューションとして急成長を遂げた。しかし、2026年現在から見れば、SSEはSASEという現実に即したアーキテクチャに至るための「不完全な中間形態」であったという評価もできる。

SSEの最大の欠陥は、「ネットワークの統合管理を欠いていた」点にある。SSEはプロキシをベースとした「安全なゲートウェイ」であり、拠点からゲートウェイに至るまでの回線品質、プロキシが介在することによる遅延、非Webプロトコルの扱いといった「ネットワークの利便性」を犠牲にしている。この「ネットワークの穴」は、ビジネスのデジタル化が加速し、ネットワークの重要性が増大している現代において、無視できないボトルネックである。よってSSE専業モデルよりも、ネットワーク統合型であるSASEを評価する動きが見られ、Gartnerや大手ベンダーの戦略を見てもその傾向がある。一方で、金融・政府など機密性が必要な業界では、深いトラフィック検査や既存ネットワーク統合が依然として重要であり、従来型SSEやSSEとは別にSD-WANを加えたハイブリッド構成が長期間残存する可能性も高い。

2. Zscaler/Netskopeが直面する「中途半端さ」の正体

Zscalerが買収したAirgap技術による「Zero Trust SD-WAN」や、Netskopeの「NewEdge」といった後付けの巻き返し策は、皮肉にも自らのアーキテクチャの限界を露呈させた。

  • プロキシの限界
    全パケットを分解・再構築するプロキシ方式は、高度なDLP(データ漏洩防止)には有効であるが、リアルタイム性が求められるモダンなアプリケーションや、膨大なIoTトラフィックの処理には構造的な遅延を伴う。従来型SSEではTLS復号とL7検査が中央集約化されやすく、特にリアルタイム通信ではレイテンシ増大要因となる。

  • 後付けのSD-WAN
    ネットワーク機能を後から「継ぎ足した」SSEベンダーに対し、ユーザ企業側からは「シングルベンダーとしての統合性」が弱いという懸念がある。複雑なトンネル設定やアプライアンス管理が必要な手法は、管理の手間と難易度が上がり、クラウド時代の「シンプルさ」と「統合性」という期待に反し、市場からの厳しい視線を浴びている。

これらのベンダーは「高度なガバナンスと隔離」を最優先する保守的なエンタープライズ領域という、限定的な市場に追い込まれる可能性がある。

3. 市場を二分する「二大勢力」の確立

ZscalerのARRは依然高成長を維持している一方、CloudflareやCatoも急速にエンタープライズ領域を拡大している。
今後数年間、SASE市場のメジャープレイヤーは以下の二つの方向に進むと予測される。

① 「ネットワーク・インフラ統合」勢(Cato Networks, Palo Alto Networks, Fortinet, Cisco, HPE)

「セキュリティはネットワークインフラストラクチャに不可欠な要素である」と定義する陣営
特にCato Networksのように、自社でグローバルなL3バックボーン(専用高速通信網)を保有するベンダーは、セキュリティ機能に加え、「通信品質の保証」という実利を企業に提供している。拠点間通信、クラウド接続、リモートアクセスを統一されたポリシーとプライベートネットワークで統合する「真のSASE」は、運用負荷を大幅に削減するため、大多数の企業から支持を得ると予想される。

② 「インターネット・ネイティブ」(Cloudflare One)

「ネットワークはインターネットそのものである」と定義する
Cloudflareに代表されるAnycastネットワークを活用したアプローチは、統合ネットワークとして(Cloudflareは強力なCDNを基盤とした)中間経路を最適化し、エッジでリアルタイムに処理を完結させる。透過性が高く、低遅延で速度を犠牲にしないこのモデルは、SaaSやAI活用を前提とした現代企業のニーズに最適なソリューションである。

4. 今後数年の見通しとロードマップ

高度な機密性を必要としない企業は「セキュリティの深さ」ではなく、「ビジネスの機動力(接続性)」を基準にプラットフォームを選択する傾向が強まると考えられる。「ネットワーク・認証・セキュリティ・可観測性」を単一ポリシーで扱える制御平面に移る可能性が高いのだ。

  • 2026-2027年:ネットワーク統合型SASEが評価され、SSE専業ベンダーの適用領域が限定される
    ZscalerやNetskopeは、依然としてDLPやCASB需要が強い特定業界(金融、公共、医療など)の高度なコンプライアンス要件を満たすため、「専門性の高いツール」として位置づけられ、SSE専業ベンダーの優位性は短期的には維持される可能性が高い。一方で、汎用的なインフラストラクチャとしての市場シェアは失っていくと予測される。ZscalerとNetskopeは依然高成長を維持している一方、CloudflareやCato, Prisma Accessも機能・データ保護・運用統合などが成熟するにつれ、急速にエンタープライズ領域へと拡大している。

  • 2028年以降:ルーティング抽象化とAIによる自律制御
    Cloudflareが提唱する「コンネクティビティ・クラウド」(ネットワーク・セキュリティ・アプリケーション配信を統合したクラウド型基盤)の概念が広まり、さらにルーティングは自動化・抽象化される時代が到来すると考えられる。SD-WANの設定すら最小限化され、AIがトラフィックの種類に応じて最適なパスとセキュリティ強度を動的に割り当てる、高度に自律的なネットワーク環境が実現すると予測される。

展望

Secure Service Edge(SSE)がネットワークの重要性を軽視した結果に生じた弱みは、後付けの機能では補完しにくい。企業は、複雑なトンネル管理を要する専門性の高いSSEから、インフラストラクチャとセキュリティがシームレスに統合されたより一般的で柔軟性のあるSASEといったソリューションに目を向けつつある。つまり、ID、ポリシー、テレメトリを横断的に統合できる制御プレーンに関心が移りつつあるのだ。

「セキュリティのためにネットワークを犠牲にする時代」は終焉を迎えつつある。

各社の次期インフラ選定において、ガバナンス、ゼロトラスト、SaaS統制、を前提とした上で、「管理の厳格さ(SSE)」「接続の柔軟性(Native SASE)」のどちらを経営上の優先事項とするべきか、改めて検討する機会といえる。今後のSASE市場では、「深いガバナンス」を重視するSSE型と、「ネットワーク統合・低遅延」を重視するコネクティビティ・セキュリティ型が、用途に応じて棲み分けていく可能性が高い。

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