なぜ県営住宅の共益費徴収が全国的な人権問題なのか
兵庫県の県営住宅で、この一年、自治会長を務めたわたしだからこそ伝えられることがある。
共益費徴収を自治会(入居者)に委ねるこれまでの運用は、人権問題にあたる可能性がある構造だったのではないかということを。
■ そもそも何が問題なのか
公営住宅の共用部分__廊下の電気、エレベーター、水道ポンプ、排水管清掃、建物衛生管理、入居者労務管理……これらの維持管理業務に必要な費用を「共益費」として入居者が入居者から集めて支払う役割を、兵庫県だけでなく全国レベルで、明確な法的根拠なく自治会(任意団体)に委ねてきた。
全国各都道府県の公営住宅管理課のサイトを調べたが、似たような運用が多く見られた。明確な法的根拠が確認できないまま、曖昧なルールで入居者が支え続けている構造がある。
国の法律である公営住宅法に、入居者の労働義務は書かれていない。兵庫県の条例にも、共用部の維持管理(労働)についての規定はない。
にもかかわらず、「家賃が安いのだからこれくらいは当然」という論理が行政側にあるとすれば、それは彼らの甘えであり、驕りであり、人権への配慮を欠いた姿勢と受け取られてもおかしくない。
法律の観点から見れば対価のバランスを欠いた状態で、人権の視点から見れば、生存権と引き換えにした無償労働と受け取られかねない構造がある。
もし「労働」を「家賃の安さ」との交換条件と考えるなら、いくつもの矛盾が生じる。
賃貸借契約の原則を逸脱している
本来、住宅の契約は「家賃」と「居住」の交換である。
そこに労働が含まれるなら、労働契約的な性質を持つが、入居者は雇用されているわけではなく、労災や賃金の保障もない。生存権との関係
公営住宅は、憲法25条に基づくセーフティネットである。
そこに無償労働が事実上組み込まれているとすれば、本来守られるべき権利に条件が付されていることになる。構造的な不均衡
入居者は民間住宅に移れない事情を抱えることが多く、選択の余地が限られている。
その状況で管理業務を担うことが前提になる構造は、不均衡と捉えられるのではないか。労働できない人の空気による排除
高齢者、障がいのある方、育児や介護を担う人にとって、この仕組みは大きな負担となる。
結果として、管理業務が可能な世帯にそれらの業務が課せられることになる。助け合いという名の行政側の論点ずらしにより、本来守られるべき人が不利になる構造を生んでいる。
■ 「契約したじゃないか」という論法の正体
県の担当者は「契約している」と説明する。
しかし、入居時に合意しているのは、
①条例を守ること
②家賃を支払うこと
③住宅を適切に使用すること
という、通常の賃貸借契約の範囲である。
共用部分の管理業務を担う契約ではない。
その根拠とされるのは「住まいのしおり」と呼ばれる運用ルールだが、これは法的拘束力のある契約とは性質が異なる。
つまり、慣習的な運用が「契約」として扱われている側面があることをこれまで何十年もの間誰も指摘して来なかった。
自治会は任意団体であり、加入や活動の強制は出来ないとされている。
だが実際には、インフラ維持がその活動に依存する構造が続いてきたのだ。
■ 現場で起きていること
実際の運用はこうだ。
毎年、「たまたま役が回ってきた入居者たち」が、現金で共益費を集め、支払い、帳簿を管理する。
法的な契約はない。
正当な対価もない。
何が事故に遭っても補償されない。
この状態が長年続いてきたのだ。
■ すでに起きている問題
その結果として、わが県営住宅では、数百万円単位の使途不明金が発生し、住民間トラブルが起きた。罪のない未成年の子どもまで住民によるハラスメントにさらされた。
また大阪市では、自治会の役割を担えなかった障がいのある青年が深刻なハラスメントに遭い自死に追い込まれた。
「たまたま」の役回りが、個人に過度な負担を集中させている。このままでいいのだろうか。
■ 「若い世帯を入れれば解決する」という発想
よく「若い世帯を入れれば自治会が活性化する」と言われる。
しかしそれは、
無契約・無報酬・無補償の管理業務を、別の誰かに担わせることに過ぎないのではないか。
役員が事故に遭っても補償はない。
問題が起きても責任の所在は曖昧なままだ。
極端に聞こえるかもしれないが、
「経済的徴兵制」に近い構造ではないかとすら感じる。
公営住宅に入居を希望する若者たちは経済的に困窮しているのだから。
■ しかしすでに是正されている例もある
神戸市では外部監査を契機に、管理業務の見直しや役割分担の整理が進められている。詳細はここでは割愛するが、つまり、この問題は解決できる性質のものだということなのだ。
■ 今、私たちに何が起きているのか
2026年4月30日時点で、余剰金は約83万円。
このままでは6月頃に資金が枯渇する可能性がある。
廊下の電気、水道ポンプ、エレベーター。
それらが止まる可能性が現実のものになっている。
現在、共益費徴収業務は空白状態にある。
これは放棄ではない。曖昧な責任のまま業務を担うこと自体が、新たな問題を生むと判断したためだ。共益費の徴収業務を誰がどう担うのかを、入居者自身が議論しなければならない。
前回の記事に書いたように、先日の総会で、共益費徴収業務を正式に指定管理者へ移管する予定だったが、『兵庫県に頼まれた』と言いながら、我々役員会に関する名誉毀損的発言を、連絡員である高齢の入居者により流布され妨害に遭った事で、事実上自治会は機能出来なくさせられているのだ。
■ これは制度の問題だ
これは単なる自治会の問題ではない。
公営住宅という行政財産の管理責任を、法的根拠が曖昧なまま住民に委ねてきた制度の問題である。
公営住宅は、社会的に脆弱な立場にある人々のためのセーフティネットである。
その中でこのような構造が続いていることは、見直されるべき段階に来ているのではないか。
しかもこれは一つの団地の問題ではない。
日本の公営住宅制度全体に関わる問題である。
記録はすべて残っている。
私たちは建物に煙が出ているのを見つけた。『火事だ!』と消防署に知らせた。でも『火を消すのはお前たちの役割なんだ』『火なんて出ていない』などと行政、議員総出で矮小化しようとしているようなものだ。やましい事でもあるのか?ただ早く火を消して欲しいだけなのに。
取材してくださる記者の方、関心を持つ研究者の方、同様の課題を抱えている方。つながっていただければ幸いです。
