ナンパ細胞、毎週ショートショートnote、410字
生まれてこのかた、女性と目を合わせるだけで心拍数が跳ね上がる僕が、先日、臨床試験に参加した。
「誰でも、女性と気軽に話せるようになります」と医師が言う。移植されるのはナンパ細胞——A社が街角で女性を口説くプロの細胞を培養したものらしい。
注射一本、痛みもなく終わった。数時間後、鏡の前で笑う僕の顔つきはやたらとキザだった。
駅前で、美しい女性を見つけた。足が勝手に向かう。
見かけた女性を口説く。
我ながら完璧な口説き文句だ。
……だが、それは始まりにすぎなかった。
次に見かけたのは、スーツ姿の女性。
またも、口説き文句。
コンビニに入れば、レジの女子高生を口説く。
郵便局では、窓口の男性を口説く。
ナンパ細胞が、増殖しているのだ。老若男女問わず、会う人会う人、口説かずにはいられない。
結果、僕は前に進めなくなった。人を見かけるごとに口説いてしまう。
今日は会社に出勤するはずだったのに、自宅から二百メートルの商店街で既に夕方になっていた。
