「アイデア」から始まる片想いの物語、片想い文芸部、847文字
「アイデアがあったら、教えてね」
彼女はそう言って、笑った。
僕は曖昧に頷いた。
彼女が好意を寄せている相手と、うまく距離を縮めるための方法を、彼女は僕に訊ねた。この僕に。
なんて、残酷なことをするんだ。
僕は彼女が好きで、彼女の笑顔が好きで、彼女の声が好きで、その笑顔や声の向かう先が、僕ではないことを知っていて、それでも一緒にいることを選んできた。
だからこそ、その一言が胸に深く突き刺さる。何でもない顔をして、僕を傷つけている自覚が、彼女にはたぶん、ない。
アイデアはあった。
それなりに確かなやり方で、彼女が近づけるプランを僕は持っていた。彼の性格、行動パターン、彼女との相性。
すべてを分析して組み立てた、たった一つの方程式。
でも、言えなかった。喉元まで出かかって、引っ込んだ。
だってそれを言えば、彼女は成功して、彼の隣で笑うんだ。
彼女は僕の手の届かない存在になる。
最低な考えだとわかっていた。
失敗してほしいと思ってしまった。願ってしまった。そんなことを考える僕は、きっと彼女にふさわしくない。
でも、もし彼女が失恋して、僕に振り向いてくれたら、そのとき僕は、最大限の愛を与えられる自信がある。
彼女の傷をすべて包み込んで、もう二度と傷つかないように、彼女を守ることができる。
それは彼女の幸せでもあり、僕の幸せでもある……なんて、それは幻想。わかっている。
だから、僕は、言った。
何気ないふうを装って、そのプランを、彼女に伝えた。
彼女はぱっと顔を明るくして、すごい、ありがとう、と僕の手を取った。
彼女の熱が僕の手に伝わってくる。
近い。顔が近い。息がかかる距離に、彼女の笑顔が。
ドキドキする。目を逸らしたくなる。
この笑顔は僕のものじゃない。その手も、その声も、その先にある未来も。
「ありがとう。ほんとに、ありがとう」
彼女は僕の手を離し、また笑った。あたたかい、残酷な笑顔で。
僕はぎこちなく笑い返す。一生懸命に努力して、どうにか、笑顔を作る。
僕のいちばんの願いは、彼女に幸せになってほしい、ということだったから。
