十中八九七五三、毎週ショートショートnote、476文字
彼女と喧嘩をした。
「七五三(しめ)というのはね、結界という意味なのよ」
彼女はそう言った。
彼女は、同棲していたマンションの自分の部屋の入り口にしめ縄を掛けた。
ただホームセンターで買ってきた飾りをぶら下げただけなのに、それだけで部屋の空気が少し違って見えた。
「十中八九、入ると呪われるよ」
彼女はそう言って笑ったけれど、その声にはどこか本気の響きがあった。
原因は僕だった。そんなに怒ることではないと思っていたのに、彼女は「出ていく」と言った。
ドアが開いたとき、中を覗くと段ボールが積まれていた。
しめ縄の紙垂が、少し傾いている。
指先が自然に伸びかけて、止まった。
けれど、もう迷わない。
「入っていいかい?」
「覚悟はあるの?」
僕は彼女の部屋に入った。
彼女は、少し歪んだ笑みを見せる。
「僕が悪かった。今回のことだけじゃなくて、今までのことも謝る」
「その箱、開けてみて」
今度は、満面の笑顔。
段ボールにマジックで大きく「割れ物注意」と書いてある。
中身は二人の写真。
僕はクスッと笑った。
彼女が言ったとおりだ。
十中八九、入ると呪われる。
それは、もう一度好きになる呪いだった。
