狐火バーベキュー、毎週ショートショートnote、410字
狐の里で、今夜も狐火が燃えては消えていた。
尻尾が十本以上もある大きな妖狐の狐火は、人の記憶を呼び寄せる不思議な火。
その火に吸い寄せられるのは、どこにでもあるような、何でもない日々の記憶だった。
すぐに消えてしまうような、淡い記憶だけが、狐火のまわりに寄り集まってくる。妖狐はそのひとつひとつを、丁寧に狐火で焼いて食べていた。
記憶を焼くと、どこか懐かしいような、優しい香りが空に立ちのぼる。
それをひとくち食べると、口の中にほんのりと温かさが広がる。食べられた記憶はすぐに消えてしまい、誰かの心から抜け落ちていく。
狐は大事な記憶は決して食べない。何でもない記憶だけが、夜の空気に溶けていくのだ。
人がずっと記憶し続けられることなんて、ほんとうに少ししかない。
そのことを、妖狐はよく知っている。
だから、いらない記憶を毎日集めて食べる。残された大切な思い出が、ずっと心の奥に残っていくように。今夜も狐の里では狐火が静かに燃えている。
