浮気清浄機、毎週ショートショートnote、649字
「失礼しまっちゅ」
笹木常務の前で、なぜか舌がもつれた。そして、なぜかつまづいたが、なんとか落としかけた書類を手渡せた。
これは、既婚の各重役が胸につけている名札型浮気清浄機のせいだ。異性に対するキュン要素を排除する装置。だから、私の行動は彼の嫌いなタイプへと変換される。
ああ、この人は、仕事ができるタイプが好みなんだ。
次は山田常務。
いきなり堅苦しい挨拶をして卒なく書類を手渡す。淀みのない身のこなし。この人は、きっと、ドジっ子好きなのだろう。
高木専務。
挨拶した自分の声に驚いた。やたらと声が低い。というか、もはや、おっさんの声だ。
声フェチか…
心の中で呆れる。
こうして、くるくると変わる自分の挙動から、相手の趣味趣向が透けて見えてくる。
最後は、福田社長。
ドアを開ける。
挨拶をする。
書類を渡す。
おかしい。いつもの私、そのままだ。
私のことが嫌い?
いや、私は顔も頭もスタイルもすべてが平均だと思っている。ということは、普通の女がダメってこと?
その時、社長のスマートフォンが鳴った。なぜか「妻からだ」と私に告げる。
そして、部下の前で出た。
「あなた!#%$£€!」
ほとんど、猛獣の咆哮だった。社長は怒られている。なのに、笑顔だ。それより、なぜスピーカーフォンにしている。
この機械の導入を決めたのは社長だった。
ああ、そういうことか。
社長はいじめられるのが好きなんだ。
そういう恥ずかしいところを見られるのが好きなんだ。
だから…。
きっと、私は今、社長を軽蔑した目で見ている。
社長は、もはや笑っていない。恍惚の表情で…。
