読書手術、毎週ショートショートnote、410字
僕にはひとつの異能がある。
本を読んでいるとき、イメージの中で行間にメスを入れると、作者が言葉にしなかった思いが、切開した傷口から溢れ出すのだ。
登場人物が沈黙の裏に隠した感情。
選ばれなかった比喩。
削られたエピソード。
ページに収まりきらなかった全てが、血のようににじみ出て、僕の眼前に広がっていく。
初めてそれを体験したとき、世界が一変した。
僕は喜びに震え、片っ端から本を手術しては、作者の思考の奥底に触れた。
だが、ある時ふと気づいた。
僕の読書から、驚きが失われていた。
切開すれば、行間の謎も余白の沈黙も、すべて曝されてしまう。
想像の楽しみ、読者としての自由を自らの手で奪っていたのだ。
気づいた瞬間、僕はメスを置いた。
いや、心の中で、その力を封じた。
もう二度と切り開かない。
たとえ苦しくても、わからなくても、行間に沈黙を残したまま読もう。
ページを開くと、久しぶりに胸の奥がざわついた。
それは、僕自身が『読者』に戻れた証だった。
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