木魚感想文、毎週ショートショートnote、410字
「木魚の感想文を書いてください」
唐突にそう言って、目の前の和服姿の人物は、にこやかに筆と紙を差し出してきた。
なぜ木魚の感想文なのか。訝しく思って尋ねると、相手は妙に真剣な顔で答えた。
「人が木魚をどう感じるかを知りたいんです」
しかたなく筆を取る。
木魚の音で不思議と心が落ち着く。そう書き進めていたときだった。
「落ち着く? 私は恐怖しか感じない」
ふと顔を上げ、手元の木魚を叩いてみる。
相手の顔が歪み、姿が揺らいでいた。背筋に寒気。ようやく気づく。これは人ではない。成仏できない霊だ。
「だから、確かめたかった。みんなは本当にあの音で安心するのか」
相手の声は震えていた。
僕は決心して、机の上の木魚をリズミカルに叩いた。
ポク、ポク、ポク。
単調なリズムが空気を満たす。霊の輪郭はどんどん薄れ、歪んだ顔はやわらかな笑みに変わり消えていった。
残ったのは、木魚と感想文の紙。そこに書き加えた。
「木魚の音は、恐怖すらも浄化する。そう思った」
