変身磁器、毎週ショートショートnote、410字
もう、何もかもが嫌になった。
仕事も、人付き合いも、自分自身も。
人間なんてやめてしまいたかった。
路地裏で老婆に声をかけられた。
差し出されたのは、古いお茶碗。
「その器で食べたものになれるよ」
ちょうどよかった。人間をやめられると思った。
家に帰り、牛丼をよそった。
食べ終えた瞬間、体が膨れ、角が生え、四本脚になった。牛だ。
しかし一時間後、元に戻る。
豚汁で豚に。
いなり寿司では狐に。
一時間だけ。
――違う。
人間をやめたいのに、必ず戻ってしまう。
そこで思いついた。
親子丼だ。
鶏と卵。
もし自分が二つに分かれたら、鶏の自分が卵を割ればいい。半分死ねば、簡単に終われるのではないか。
賞味期限が切れていたが、器に盛り、食べた。
視界が切り替わる。
目の前に、母ちゃんがいた。
台所で、あの頃と同じようにエプロン姿で、こちらを見ている。
「おかわり、いる?」
一時間経っても、変身は解けなかった。
もう一度、人間をやってみよう。この年齢からやり直せるんだ。
