偏平足和紙、毎週ショートショートnote裏お題、454字
空中都市が見つかった。
だが、誰もいなかった。
家々は整っていたのに、人影だけがすっかり消えていた。
調査員が拾い上げた古い文書には、こう記されていた。
昔、山奥の紙漉場に、一人の女がいた。女が漉いた和紙は不思議な力を持っていた。足裏に貼ると、重さが消え、身体がふわりと浮かびあがる。ただし、足の裏が平らな者、偏平足の人にしか使えなかった。
その技術をもとに、研究者たちは地に触れぬ都市を空に築いた。偏平足の者たちが空へと移住し、そこに暮らしはじめた。
彼らは歩くことをやめた。
偏平足和紙を足につけて滑るように移動し、やがて移動という感覚そのものが変わっていった。
「歩く」という行為を支えていた筋肉は使われなくなった。
そして、偏平足ではない、空に浮くことができない子どもが生まれた。誰も歩き方を教えることができず、地上に下ろした。
やがて扁平足の人々は数が減り、いなくなった。
今も空にその都市はある。
人のいないまま、静かに、雲のなかを漂っている。
「紙に支えられたものは、いつか紙のように消える」
それが空中都市の戒めだった。
