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イラン・カーグ島における原油タンカー群の動向:衛星画像から見えてくる「見えない移動」|渡邉英徳研究室

連日、イラン・カーグ島周辺の船舶動向について、Sentinel-2やSentinel-1 SARなどのオープンソース・データを用いた観測を続けています。

直近の画像を比較すると、カーグ島の原油輸出埠頭に多数の大型タンカーが停泊する一方、東方沖において、3月中は常態化していた多数のタンカーの滞留が、3月29日に入ってほぼ見られなくなるという、特徴的な変化が確認できました。

本稿では、この変化が何を意味するのかについて、衛星画像で見える事実と公開情報を交差させながら整理します。

カーグ島に停泊するタンカーと東方沖の「空白化」

3月29日の衛星画像では、カーグ島南部の2つの原油輸出埠頭に5隻のタンカーが確認できます。西側埠頭のタンカーの周囲にはタグボートの航跡も見られ、着桟直後、あるいは着桟の最終段階を捉えた可能性があります。

3月29日 カーグ島東の埠頭
3月29日 カーグ島西の埠頭

西側の埠頭については、少なくとも3月中は空いていた日が多く、2隻のタンカーの着桟は珍しいといえます。イラン側が、カーグ島からの原油の積み出しを急いでいることが推測されます。

これらのタンカーについては、船体長からある程度の推定が可能です。

たとえば、全長約330メートルの青い船舶は、VLCC(Very Large Crude Carrier)級の原油タンカー、全長約240メートルの赤い船舶は、Aframax級の原油タンカーである可能性が高いです。

  • VLCC:おおむね20万〜32万DWT、全長約300〜340m

  • Suezmax:おおむね12万〜20万DWT、全長約260〜285m

  • Aframax:おおむね8万〜12万DWT、全長約230〜250m

衛星画像からわかるように、カーグ島では、小型船への積み替えではなく、VLCC級を含む大型タンカーへの直接積み込みが行なわれています。これは、同島が単なる輸出地点ではなく、大量の原油を集約し、長距離の輸送網へ接続するハブであることを示しています。

これは,2月から3月にかけての衛星画像をタイムラプス化したものです。2月25日、3月17・22・27・29の画像を比較しています。

2月から継続的に、カーグ島東方の海域において、多数のタンカーが散在している様子が確認できます。これらは、積み込み待ち、出航待機、あるいは安全距離を保ちながら低速で周回していた船舶と考えられます。イランへの攻撃開始後も、この状況は継続していました。

ところが、最終コマである3月29日の画像では、この海域に常時存在していた船舶群が、ほぼ消失しています。3月中は継続していた「カーグ島近傍にタンカーが滞留する状態」は、この日に至って大きく崩れています。

3月22日の衛星画像をコントラスト強調処理してみると、多くのタンカーが航跡を引きながら南に向けて航行していることが分かります。この日に移動を開始した可能性があります。

3月22日の衛星画像(コントラスト強調)

一方で冒頭に述べたように、29日時点でも、埠頭には大型タンカーが複数停泊していました。さらに27日に洋上で確認できた赤色のタンカーは、29日に東側埠頭に停泊しているように見えます。したがって、輸出機能そのものが完全に停止したというよりも、周辺海域での待機のあり方が変化したとみるのが自然です。

3月27日 東側埠頭に接近するタンカー

このことから、29日に観測された事象は、必ずしも「輸出停止」を示唆しておらず、むしろ島の近傍に船を溜めない運用への移行である可能性が高いと考えられます。

この海域にいるタンカー群は、もともとAISを切って航行している「ダーク・フリート」でした。29日以降は衛星画像からも消失したため、行き先が容易に掴めなくなっています。

これらのタンカーはどこに向かったのでしょうか?

ジャースク港への輸出拠点の振替?

イランの代替輸出拠点としてしばしば名前が挙がるのが、ホルムズ海峡の外側に位置するジャースク港です。理屈の上では、カーグ島が使えなくなった際の振替先として想定される港湾です。

しかし、ジャースク港周辺の光学衛星・SAR画像を時系列で確認した限りでは、大型船舶のシグナルが増加しているようには見えません。

3月19日 ジャースク港周辺のSAR画像
3月31日 ジャースク港周辺のSAR画像

もしカーグ島から退避した原油の主要な受け皿がジャースクであるなら、ジャースク周辺には大型タンカーの増加がある程度可視化されるはずです。現時点でその兆候がなく、少なくともこの数日間に関しては、カーグ島からの原油がジャースクに大規模に振り替わっているとは考えにくいです。

本土港湾への一時退避という可能性

あるいは、バンダー・アバスなどイラン本土側の港湾・周辺海域への一時退避も考えられます。危険が高まった際に、船舶が一時的に別地点へ散開し、補給や指示待ちを行うことは不自然ではありません。

ただし、本土港湾がカーグ島の機能をそのまま代替することは考えにくいです。カーグ島が原油輸出拠点として使われているのは、深水性を持ち、大型タンカーが接岸しやすいからです。本土港湾への移動があるとしても、それは主力輸出機能の代替というより、一時避泊や分散待機として理解するのが妥当です。

カーグ島周辺のタンカー群はどこに向かったのか?

3月29日のカーグ島南部・東西の原油輸出埠頭

以上を踏まえると、最も自然なシナリオは、次のようなものです。

カーグ島で積み出された原油を積んだタンカーは、従来のように島の近傍で長く待機せず、AISを切ったまま、ペルシャ湾内・ホルムズ海峡周辺・オマーン湾・アラビア海などで分散待機している。そしてその一部は、さらに東方へ向かい、中継・海上貯蔵を経て最終需要地へ流れている

このように考えると、3月29日の画像で見えた「空白」は、輸出の停止ではなく、船舶の分散とダーク化の進行として理解することができます。

特に、ホルムズ海峡周辺では、物理的な航行の可否だけでなく、どの船が通過を許されるのか、どの船が近傍で待機を続けるのか、といった新たな運用ルールが事実上形成されつつあります。そうした中で、AISを切ったまま移動するダークシップの存在感は、さらに大きくなっていると考えられます。

こうした見立てを補強する事例として、カーグ島へ向かうタンカー1隻をMarineTraffic上で確認しました。

4月1日 02:30 UTC カーグ島に向かうガイアナ船籍のタンカー

ガイアナ船籍の原油タンカー「UMA」です。AIS表示が正しい限り、という留保は必要ですが、AISを切ったままホルムズ海峡を通過し、再びONにして、カーグ島方面へ向かっているように見えます。

タンカー「UMA」の航跡

この点からも、3月29日に見えた「空白」は輸送停止ではなく、カーグ島を起点とした原油輸送の継続を示している可能性が高まります。

このタンカーについてXで貴重な情報をいただきました。「制裁対象となり、船籍と船名を変更した」と推測されます。

カーグ島の北東沖に現れた高速小型船群

3月29日の画像では、もう一つ興味深い特徴が見られます。カーグ島の北東沖に、長い尾を引く小型船舶が多数確認できることです。

3月29日 カーグ島北東沖の小型船舶群
3月29日 カーグ島北東沖の小型船舶群

OSINTユーザの間では、これらをイラン革命防衛隊の高速艇とみる意見があります。たしかに、画像上では、高速で移動する小型船の群れであることがうかがえます。とはいえ、衛星画像だけで所属を断定することはできません。警備艇、作業艇、連絡艇など、別の可能性もあります。

それでも、カーグ島東方の待機タンカー群が減少する一方で、北東沖に高速小型船が目立つという組み合わせは、島近傍海域の警戒・管理が強まっていることを示唆します。商船が密集して待機する空間から、より軍事的・準軍事的な管理が前景化する海域へと変容しつつあるようです。

結びにかえて:「見えない移動」をどう読むか

今回の観測から読み取れるのは、カーグ島から原油の流れが消えたということではありません。むしろ、輸送そのものは続きながら、その経路と待機のあり方が、より分散的で、より見えにくいものへと変化していることです。

カーグ島東方の「空白」は、表面的には船舶の不在に見えます。しかしその背後には、AISを切ったまま危険海域の内外で待機する船舶、代替港湾ではなく海上そのものをバッファとして使う輸送、そして近傍海域で強まる警戒・管理の存在があるのかもしれません。

衛星画像は、そうした「見えない移動」の輪郭を、断片的ではあっても確かに映し出します。引き続き、複数のデータソースを交差させながら、この海域で進行している輸送ルールの変容を注視していきたいと思います。

この記事は、日本テレビ「news zero」(3月30日)及びBS日テレ「深層NEWS」(3月31日)、テレビ朝日「羽鳥慎一モーニングショー」(4月1日)などで紹介された内容を増補改訂したものです。