中東から日本へ向かうタンカーたちのその後:多重化するエネルギー輸送と高まる通航リスク|渡邉英徳研究室
2026年5月5日 08:00 時点で,中東発・日本向けのタンカーは15隻に増えました。内訳は,原油・石油製品系タンカー14隻に,LNGタンカー1隻を加えたものです。
5月1日時点では,中東から日本を目指して進行中のタンカーを12隻確認していました。その後,オマーン/フジャイラ連動型とみられるVLCC IZKI ,サウジ紅海側発・四日市行きのVLCC LEICESTER ,そしてオマーンのQalhat発・富津行きのLNGタンカー MESAIMEER が加わりました。
この増加は,単に船の数が増えた,というだけではありません。フジャイラ,サウジ紅海側,エジプト・地中海側,オマーン/フジャイラ連動型,さらにQalhat LNGと,複数の積地・中継地・外側ハブが日本向け輸送に使われ始めています。
前回の記事で述べた傾向がさらに強まり,ホルムズ海峡の不安定化を前提として,日本向けのエネルギー輸送がさらに多重化し,外側ハブへ分散しているようです。
15隻のタンカーの内訳

今回確認している15隻は,おおきく次の6系統に分けられます。
UAEフジャイラ発の船団
NEW GIANT,NEW PARADISE,NEW PEARL,TRIKWONG VENTURE,VESTA,NAVE TITAN,LILA KOCHI が該当します。フジャイラを起点に,千葉,名古屋,四日市,堺などへ向かっています。サウジアラビア紅海側からの輸送
ADAMANTIOSやLEICESTERは,サウジ紅海側の積地から日本へ向かうVLCCです。紅海側からインド洋へ出る大口輸送です。エジプト・地中海側から紅海を経由する船
ARGEUS I,AL BATEEN,MINERVA ZOEは,スエズ湾,地中海,紅海側のルートを通じて日本へ向かっています。ホルムズ海峡を通過した出光丸
出光丸は,サウジアラビアのRas Tanuraを出発し,ホルムズ海峡を通過しました。日本関係の大型原油タンカーが,選別的な通航秩序のなかで通過した重要な事例です。オマーン/フジャイラ連動型のIZKI
IZKIは,オマーンのRas Markaz発ですが,フジャイラ錨地に長期間滞在した履歴があります。STS(船から船への積み替え)を受け,日本行きとして仕向け地が確定した可能性があります。Qalhat発のLNGタンカーMESAIMEER
MESAIMEERは,今回の観測群において初のLNGタンカーです。オマーン東岸のQalhatを出発し,富津へ向かっています。中東発・日本向けの多重化は,原油・石油製品だけでなく,LNGにも拡がっています。
なお MESAIMEER については,ホルムズ海峡経由の代替ルートというよりも,Qalhat LNGからの安定的供給の一環とみなすのが妥当のようです。
Qalhat LNGからは開戦後も安定的に出荷されている。
— 松尾 豪 Go Matsuo (@gomatsuo) May 4, 2026
開戦後出荷では、3月29日石狩基地着のMarvel Pelican、4月3日新潟基地着BW ENN Crystal Sky、4月24日富津基地着Kita LNGの3隻が日本に到着している。 https://t.co/Gho0aJUGIN
Kplerが “MESAIMEER” の動静を報じていました。Q-Flex とはカタール向けに最適化された世界最大級の大型LNG船です。QatarEnergy LNGの長期供給契約下で運行されているものと思われます。 https://t.co/cCF6lcf3Lc
— OKUDA, Mitsuru (@mitsuru_okuda) May 4, 2026
MESAIMEER が日本を出航したのは2月中旬,イラン戦争が始まる前ですが,Qalhatに入港したのは5月初旬です。 オマーン・日本間のLNGの安定的な供給が,危機的状況においても維持されていることは,日本のエネルギー確保において,ポジティブな材料といえます。


タンカー4隻はすでに日本沿岸へ到達

フジャイラ発の NEW GIANT,LILA KOCHI,NEW PEARL,VESTA はすでに日本沿岸に到達しています。
千葉行きの NEW GIANT,LILA KOCHI は東京湾の外側にいます。VLCCは入湾・荷役に水先案内,タグ,バース,潮汐などの調整が必要です。この2隻については,港湾の受け入れ順番待ち/ETA調整とみるのが自然です。
5月4日には,名古屋行きのVLCC NEW PEARL が伊勢湾に入りました。
UAEのフジャイラから名古屋を目指していた原油タンカー「NEW PEARL」が伊勢湾に入りました。
— 渡邉英徳 wtnv (@hwtnv) May 4, 2026
4月13日の出港からはるばる航海し,無事到着です。
お疲れさまでした。 pic.twitter.com/2XX0dT4mK2
NEW PEARL は,DWT約30万トン級のVLCCであり,Laden表示です。この到達は,フジャイラ発・日本向け輸送が,AIS上の表示や航海計画に留まらず,実際に日本側の受け入れ港へ届いたことを示します。
さらに5月5日朝には,石油化学品タンカー VESTA が紀伊水道を通過し,目的地の堺へ向かっていました。
4月14日にUAEのフジャイラを出港した石油化学品タンカー「VESTA」が紀伊水道を通過中。
— 渡邉英徳 wtnv (@hwtnv) May 4, 2026
本日予定どおり,目的地の堺に到達しそうです。 pic.twitter.com/FCXQ12ET1r
VESTAは4月14日にフジャイラを出港し,堺を目的地として表示していました。石油製品・化学品系の輸送を担う船です。
この2隻をあわせると,フジャイラ発・日本向けのエネルギー輸送は,原油のみならず石油製品・化学品系にも拡がっており,しかも実際に届いたことが分かります。
出光丸はスリランカ・Galle沖へ

日本行き原油タンカーとして初めてホルムズ海峡を通過し,大きな話題となった「出光丸」は,5月5日 09:40 JST現在,スリランカの Galle のすぐ近くまで来ています。AIS上の目的地は「Galle, Sri Lanka」,ETAは5月5日 03:30 UTC,喫水は20.1mと表示されています。
Galle は,スリランカ南西岸に位置する港湾都市で,インド洋の主要航路に近い場所にあります。VLCCが満載状態で本格的に荷揚げする港ではなく,沖合に停泊して補給・乗員交代,運航調整などを行なう中継地です。
したがって「出光丸」のGalle行き表示は,最終目的地の変更ではなく,日本へ向かう途中での一時的な停泊を示している可能性が高いです。Galle沖で調整したのち,再び日本方面へ向かうのかどうか?引き続き注視します。
5月5日18:20 追記:「出光丸」はGalleに停泊し,おそらく補給などを終えて,「名古屋」に目的地を再設定し,航行を始めました。今後の動向を見守りたいと思います。

Project Freedomと「AIS上では」見えない変化
このタイミングで,アメリカ側も「Project Freedom」と呼ばれる新たな作戦を打ち出しました。
CENTCOMは,5月4日から,商業船舶のホルムズ海峡通航の自由を回復するため,Project Freedomを支援すると発表しています。発表では,誘導ミサイル駆逐艦,100機以上の航空機,無人プラットフォーム,約1万5000人規模の兵力が関与するとされます。
— U.S. Central Command (@CENTCOM) May 3, 2026
アメリカ側は,この作戦のもとで,アメリカ船籍の商船2隻がホルムズ海峡を通過したと発表しました。一方で,イラン側は「商船やタンカーは通過していない」と反論しており,両者の説明には食い違いがあります。
さらに,Project Freedomの実態についても,報道によって説明に幅があります。トランプ大統領は「米海軍が海峡内に滞留する船舶を誘導する」と説明していますが,一部報道では,直接の海軍護衛というより,外交・保険・通航調整を含む支援枠組みとされています。

5月5日 08:00 時点で,少なくともAIS信号で観測できる範囲では,大量の船舶が一斉に動き出し,ホルムズ海峡を通過し始めた,といった状況は確認できません。通過したとされる「アメリカ船籍の商船2隻」の信号もみられず,おそらくAISを切ったままとみられます。
アメリカ側が軍事・外交・保険・通航調整を含む枠組みを設定しようとしている一方で,現場はなお慎重であり,ステークホルダーがリスクを見極めている段階と考えられます。軍事的・外交的な「通航回復」のシグナルと,商業運航の現場における判断とのあいだには,やはり時間差があるようです。
実際,Project Freedomが始まっても,商船会社が安全を確信して大規模に通航を再開するまでには時間がかかる,との見方が示されています。
フジャイラ攻撃が示した外側ハブの脆弱性
また,同じ5月4日には,UAEのフジャイラ周辺への攻撃が報じられました。UAE側は,フジャイラの石油関連施設で発生した火災について,イランからのドローン攻撃によるものと説明しています。
ここまでに説明してきたように,フジャイラは,ホルムズ海峡の外側に位置するUAEの戦略拠点です。「ホルムズ海峡を通らない」エネルギー輸送の外側ハブとして重要です。今回の攻撃は,そのフジャイラ自体が軍事的リスクの対象になり得ることを,改めて示しました。
日本向けエネルギーの安定供給のためには,一刻も早い戦闘終結と地域の安定化が望まれます。
なお,SNS上では「NASA FIRMSで大規模な熱源が検出された」とする画像も出回りました。しかし私が再確認したところ,少なくともそのような大規模な熱源は確認できませんでした。
UAEのフジャイラがイラン軍の攻撃を受けたようです。
— 渡邉英徳 wtnv (@hwtnv) May 4, 2026
地上施設とターミナルゾーンが破壊されたが,パイプラインには被害がなかったと報じられています。
なお「NASA… https://t.co/3aTFj0Sr2U pic.twitter.com/kJVvNHPlUI
攻撃があったことと,出回っている画像が正しいことは別の問題です。衛星データや火災検知データなどは,なまじ視覚的な説得力を持つため,フェイクニュースの「信憑性」を,より強固にしてしまうことがあります。
AISや衛星画像データなどを利用したOSINTに際しては,これまでの記事で実践してきたように,複数のソースを交差検証し,情報の真正さを再確認する必要があります。
進行する「多重化」と「外側ハブ化」・高まる通航リスク
中東発・日本向けエネルギー輸送船は,原油・石油製品系14隻に,LNGタンカー1隻を加え,15隻規模に増えました。
これは日本向けエネルギー輸送の多重化であり,外側ハブ化であり,危機下における正規の国際石油・エネルギー輸送ネットワークの再編といえます。同時に「通航回復の試み」そのものが,新たな不安定化要因にもなり得る段階に入っています。
アメリカ側は,「Project Freedom」によって,ホルムズ海峡の通航を回復しようとしています。しかし,軍事的な関与が強まれば,イラン側の警戒や対抗措置も強まり得ます。つまり,通航を回復しようとする力が,短期的には海峡周辺の緊張をさらに高める,という逆説的な状況も生じています。
日本向けの船は増えています。しかし,海上の秩序が安定したわけではありません。輸送の多重化が進むほど,どのルート・ハブが使われ,どの船が通航を許されるのかを,細かく見ていく必要があるでしょう。具体的には,ホルムズ海峡を通る船,フジャイラなど外側ハブを使う船,紅海・地中海側から回る船が,どのような条件で動き続けるのか?についてです。
AIS・衛星画像などのオープンなデータを重ね合わせながら,この再編の輪郭を引き続き追っていきます。
