演じることで、生きている|今日も演じてます
『私とは何かーー「個人」から「分人」へ/平野啓一郎』を事前に読んでいたからこそ、気になった一冊がある。
人は対人関係ごとに、見せる顔である「分人」を複数持ち、それを相手によって使い分けながら生きている。私はこの本を読んで、自分も相手によって分人を使い分けていたのだと腑に落ちた。同時に、他の人はどのように分人を使っているのだろう、と気になるようになった。
そんなときに出会ったのが、『今日も演じてます/月と文社』だった。
この本は、ありふれた「日常の演技」をめぐる8人のリアルなストーリーで、さまざまな立場の人が、それぞれどんな自分を演じていたのかを語っている。
中でも私の印象に残ったのは、「サラリーマン」を演じている麦畑さんの話だ。取材の中で麦畑さんは、「演じている自分を通して外の世界から栄養を摂らないと、本当の自分なるものは、不摂生で死んでしまうものだと思います」と語っている。この言葉に、私は本から顔をあげて、しばらく考え込んでしまった。
自分以外の誰かと接するとき、私たちは分人を演じている。演技をすることに疲れてしまうこともあるけれど、誰かと関わらなければ、私の世界は広がらない。それに、まったく演技をしないでいい世界というのも、正直想像がつかない。もし演技をしなくて良くなったとしたら、それはきっと、誰からも役割を与えられず、ひとりぼっちで立ち尽くしている状態なのではないかと思う。
ひとりの時間は癒される。でも、ずっとひとりぼっちで生きていくには、この世界は少し寂しすぎる。
私は「分人」という概念を知ってから、自分の中にある分人たちを、できるだけ好きでいようと意識しながら人と関わるようになった。どの分人も、本当の私だと胸を張って言えるように。
これからも、私のお気に入りの分人コレクションを、少しずつ増やしていきたいと思う。
