美人の濡れぎぬビンタ
何年か前のことです。
都内に向かう朝の通勤電車の中。
サラリーマンやOLさん達でいっぱいのいつもの風景です。
その日、車内ではどこからかシャカシャカという音が聞こえていました。
誰かのイヤホンが音漏れしているようでした。
すると突然、小太りの三十代なかばくらいで、ややダサめの服装の女性が「うるさい!」と
叫びました。
一瞬、静まり返る車内。
そしてその小太り女性は、彼女の隣にいた若い女の子にいきなり平手打ちをしたのです。
パーンという音が周りに響き、周辺の空気が凍りつきました。
殴られたのは、二十代前半と思われる色白の壇蜜似の和風美女です。
殴られた美人はイヤホンもしておらず、完全なる濡れぎぬです。
彼女は茫然として頬を押さえ、目にはみるみる涙が。
そして「わ、私じゃありません」とやっと声を出しました。
しかし、殴った方の女性は怒りの表情のまま、聞く耳持たずです。
すると、周囲のおじさん達が一斉に美女を庇いはじめました。
「何すんだ!」「人違いだぞ!」「この子はイヤホンしてないじゃないか」と
殴ったぽっちゃり女を責め立てました。
ところが、その女性は謝罪もせず「フンっ」と鼻を鳴らし、ズカズカと次の駅で降りて行きました。
涙を拭う美女をおじさん達は一生懸命慰めていました。
「大丈夫?」「ひどいヤツだな」
なんという不条理。かわいそうな壇蜜美女。
トラウマにならなければいいけど……。
しかし、もし殴られたのが私だったら、おじさん達は同じように庇ってくれたのでしょうか。
知らん顔される可能性大です。
そうなったら私はどうすればいいのでしょうか。
泣けばいいのか、持っているカバンを振り回して反撃すればいいのか。
通勤電車という密室では色々なことが起こります。
出勤して同僚にその話をしたら
「なんだか人間模様の縮図って感じだね」
と言っていました。
庇われる人と庇われない人に分けたら、残念ながら私は後者に入るんだろうな。
美人でも若くもない音漏れ顔のおばさん。
私だ!キャー!
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