【364日。いづれ咲き誇ることを知っている桜のように、気丈でありたい】
きみへ
春になると、桜はたくさんの人から注目されます。
「きれいだね」
「今日が満開だね」
みんなが空を見上げて、その美しさに足を止めます。
お父さんは、桜の本当の美しさは、満開の日ではなく、
ほかの364日にあるような気がしています。
誰にも気づかれない夏の日も。
冷たい雨に打たれる秋の日も。
凍える風に耐える冬の日も。
桜は、ただそこに立っている。
まるで、自分がいつか咲くことを知っているみたい、に。
君も今、いろんなことを考えているだろう。
将来のこと。
友達のこと。
勉強のこと。
自分のこと。
大人になるって、自由が増えることだと思っていたのに、
本当は迷うことが増えることだったと気づき始める頃かもしれない。
周りを見れば、何でも器用にこなしているように見える人がいる。
夢を見つけた人もいる。
結果を出している人もいる。
そのたびに、自分だけが遠回りしているような気持ちになることもあるでしょう。
でも、遠回りに見える道が、本当に遠回りかどうかなんて、
ずっと後にならないと分からないものです。
お父さんもそうだったなあ、と。
失敗したこと。
恥をかいたこと。
思い通りにならなかったこと。
今なら笑って話せる出来事のほとんどが、
その時は「もう終わりだ」と思えるくらい苦しかったものです。
だけど振り返ると、その全てが今の自分をつくっている。
人生って、そういうものなのかもしれません。
無駄だと思った時間が、あとから宝物になる。
負けたと思った出来事が、いつか誰かを励ます強さになる。
傷ついた経験が、人の痛み知り、そこはかとない優しさとなる。
だから焦らなくていいのです。
君が今日感じている不安も、迷いも、すべてに意味がある。
桜は根っこが見えないから、人は花だけを見ます。
でも本当は、見えない根っこのほうがずっと大事です。
人間も同じ。
成績や結果は花かもしれない。
でも、人を思いやる気持ち、感謝する心、あきらめずに続ける力は根っこです。
人生は、根っこが育った分だけ、美しい花が咲くようになっています。
桜が春の1日のためだけに生きていないように、
君もまた成功の1日のためだけに生きているわけじゃない。
うまくいかなかった日も。
自信をなくした日も。
誰にも褒められなかった日も。
その一日一日が、ちゃんと人生なのです。
もし今、自分の未来が見えなくても大丈夫です。
だって見えないのは、君だけじゃない。
大人だって、
実はお父さんだって、
本当はみんな少し不安を抱えながら生きている。
ただ、その不安と一緒に歩く方法を少しずつ覚えていくだけなのです。
だから君も、自分を急かさなくていい、そう思うのです。
誰かと比べなくていい。
まだ咲いていないことを恥じなくていい。
桜は冬のあいだ、
「早く咲かなきゃ」なんて思わない。
黙って空を見上げながら、静かに自分の季節を待っている。
その姿が美しく見えるのは、自分を信じているからなのでしょう。
そして春は勝手にやって来ます。
桜が春を追いかけないように、
君も未来を追いかけすぎなくていい。
今日を丁寧に生きること。
すれば必要な時に必要な花はちゃんと咲きます。
「どうせ春が来たら咲くから」
今日も並木道の桜は、そんな思いを胸に、静かにそこに立っています。
そのたたずまいは、じつに美しい。
きみもどうせその季節が来たら咲き誇るのです。
それまで、
静かに
穏やかに
気丈にそこに立っているだけで、きみは美しい存在なのです
お父さんより
