「ママのバカ!」から「今はやだ!」へ―バイリンガルで学ぶ感情表現
一時帰国で購入した『くうちゃんのホットケーキ』。お手伝いしたい盛りの子供にぴったりだと思い選んだこの絵本が、思わぬ言葉を教えてくれることになりました。
絵本の中で、うまくいかずに拗ねたくうちゃんが言う「ママのバカ!」。
何度も読むうちに、子供が気に入らないことがあるたびに「ママのバカ!」と言うようになってしまったのです。
くうちゃんのホットケーキ(ポプラ社の絵本39)
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フランスで気づいた「感情を言葉にする」という学び
ちょうどその頃、エコールの先生から「言語習得は順調だけど、まだ感情を表す言葉を覚えていない」と言われました。
colère(怒り)、triste(悲しい)、content(嬉しい)といった言葉のことです。
日本では「言葉が出てきた」で済ませがちですが、フランスでは感情を言葉にすることを別の学びとして意識している。そのことに気づかされた瞬間でした。
確かに、公園で見るフランスの子供たちははっきり自己主張します。危ないよと注意すれば言い返され、おもちゃもなかなか返してもらえない。ヌヌさん(ベビーシッター)にNON!と反抗する姿も日常的です。
イヤイヤ期という概念もないと聞きます。
フランスでは「NON!」とはっきり意思表示することが否定されていない。ただ反抗したいのか、それとも自分の気持ちや思いがあるのか。自分の気持ちを言葉で相手に伝わるように説明する技術を、幼い頃から育てているのだと感じました。
絵本を使った対話
「ママのバカ!」問題をどう対処すべきか。
絵本を読んでほしいブームは続いていたので、私は読み聞かせの際にその場面で止めることにしました。
「くうちゃん、『ママのバカ』って言ったね。ママと喧嘩しちゃったね。ママ怒ってるね。くうちゃんは喧嘩したかったのかな?どういう言い方が良かったのかな?」
子供と一緒に考える時間を作りました。
そして、実際に「ママのバカ!」と言われたときも、子供の気持ちが落ち着いてから話すようにしました。
「ママは、バカと言われて傷ついたし、悲しかった。ママに悲しい気持ちになってほしかったのかな?違うなら、別の言い方が良いんじゃないかな。どんな言い方が良いと思う?」
すぐには変わりませんでしたが、対話を繰り返していくうちに、ある日子供の表現が変わりました。
「ママの・・・・・・、今は、やだ!」
自分なりに考えて、別の言い方を見つけた瞬間でした。
バイリンガル環境だからこそ
我が子は家では日本語で「悲しい」「おこる!」と言いますが、フランス語での感情表現はまだのようです。感情表現をそれぞれの言語で教えてあげる必要がある――親も気づかされました。
フランスでの生活がある以上、せめて土台となる日本語で、どう感情表現するかを一緒に考えたい。自分の気持ちを適切に伝える大切さを学んでほしいと思いました。
「ママのバカ!」は絵本から覚えた言葉でしたが、それをきっかけに「悲しいとき、怒ったとき、どう言えばいいか」「言葉がどのような結果を招くのか」を一緒に考える機会ができたのです。
日本語の絵本が果たす役割
フランスで暮らしていると、日本語の絵本は高級品です。好きなだけ持ってこれるわけではありませんし、親の教えたいことと子供が喜びそうな絵本が同じとは限りません。
私が絵本を選ぶときの基準は:
子供の好きな分野
子供自身と重なるところがあるもの
学んでほしい内容(干支、マナーなど)
『くうちゃんのホットケーキ』のように予想外の結果を招くこともありますが、それでも大事な対話のきっかけになりました。
絵本は日本語を維持するだけでなく、日本の文化を感じ、日本の表現を学んでいく。そして、感情の表現方法を学ぶツールにもなるのだと実感しています。
「今はやだ!」という小さな成長
「ママのバカ!」と言われたときは困ったけれど、それをきっかけに言葉選びや感情表現について一緒に考えることができました。
フランスにいるからこそ、日本語での感情表現を意識的に育てたい。
そして、子供が自分の気持ちを、フランス語でも日本語でも、相手を傷つけずに伝えられるようになってほしい。
「今はやだ!」という言葉に変わったとき、小さな成長を感じました。
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