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アホウドリの空_Season2〜自衛隊ラブストーリー〜【その壱】愛は行動よ。私たちは愛する力を持って生れて来た。それでも、筋肉のように鍛えなくちゃいけないの。 ③

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【その壱】愛は行動よ。私たちは愛する力を持って生れて来た。それでも、筋肉のように鍛えなくちゃいけないの。 英国人女優 オードリーヘップバ―ン ③


「あー、美鈴、これだよ」

 考え込んでいた敏生が、思いついたように膝を叩いた。

「え?」
「いいか? お前は夕陽ほどじゃないが可愛い。小松のときも、今やここ厚木でもアイドル的存在を確立している」
「そうなんですか?」
「そうだ。で、かたや航といえば、オタク気質で、多分、童貞だから、自分に自信がない。だからお前のことを自分には無理目の女の子だと思ってる」
「そんな……、坂本三曹はすごくカッコいいです! お兄ちゃんからのフィードバックでチャチャっと直しちゃうところとか、あたしが気づけなかったところをパッと見抜いちゃったりするところとか」

 なるほど。そういうところが美鈴の琴線に触れたのか、と納得する。同じ航空整備士だからこその視点。思えば夕陽も、きっかけは敏生のパイロットとしての圧倒的な実力に魅せられたからだった。

「ああ、なんたってあいつは最高のメカニックだからな。でも残念ながら、本人は気づいてないんだよ。自分の良さに」
「そんな」

 縋るような美鈴に、彼がうん、と頷いて見せる。

「加えてお前の周りには、いつも自信満々のイケメン鮫野郎どもがうろついていて、互いを牽制し合っている。そりゃ、航にとっては不戦敗モードだわな」

 うんうん、と夕陽も頷く。自分だって、敏生から来てくれなければ、自分から行くことは絶対に無かっただろう。超絶奥手にとっては、陽キャの敏生や美鈴は別世界の住人に見えてしまうのは事実だ。

「……あたし、どうしたらいいですか?」
「壁を下げてやればいいんだよ。あれ? もしかして俺いけるんじゃね? みたいな」
「……でも坂本三曹、普段はろくに視線も合わせてくれないんですよね」
「それは逆に意識している証拠だよ。目が合ってお前にキモいと思われたくないんだよ」
「そんな、キモくなんか無いのに……」

 柄にもなく落ち込む様子の美鈴。夕陽が祈るように、繋ぐ手に力を入れると、敏生はふっ、とため息をついた。

「仕方ない、アルコールの力を借りるか。来週の金曜日、部隊飲みがあるだろ」
「でも坂本三曹の隣に座るの、難しそう……」
「おいおい、お前には頼りになるお兄ちゃんとお姉ちゃんがいるだろ? なあ夕陽」
「あ、あたし!?」
「そ。飲み会開始時点は、夕陽は美鈴と、俺は航と隣に座る。それなら怪しまれないだろ。そして途中で美鈴と俺が席を変わる。な、完璧だろ」
「確かに」
「航の方は俺がしっかりと焚き付けておいてやるよ。で、席替えしたらお前はアルコールを武器に、一気に奴のパーソナルスペースを割るんだ。あとは奴を酔い潰してホテルに連れ込んで、既成事実を作っちまう。ここまでやらないとオタク童貞はモノにならない」
「ちょ、ちょっと。さすがに不同意はまずいでしょ?」

 敏生の強引な作戦に、夕陽は怖気づいた。

「もちろん。だから奴が朝起きたら、半裸のアイドルが隣で寝てた、というところで状況終了だ。古典的な作戦だが、そこまで出来るか?」

 美鈴はしばらく考え込んでいたが、やがて決意したように顔を上げた。

「分かりました、やってみます!」
「ええ? ちょっと美鈴ちゃん、やめなよ。もし何かあったら……」
「いえ、あたし、佐那さんにガッツもらいました。夕陽さん、協力よろしくです。ダメ元でこの二年間の片想いに終止符を打ちます!」
「よし。それでこそ俺の妹分だ」

 敏生と美鈴がチン、とグラスを合わせる。夕陽にとっては不安でしかなかったが、前向きな美鈴の様子を見て、ま、いいか、と、ハイボールを呷った。

           *

「すごいな、敏生は」

 営内居住の美鈴を基地内の隊舎前で降ろした後、夕陽は助手席から彼女に手を振り返しながら、しみじみと呟いた。

「ん? アルコールも入れてないのに良くあれだけ酔っ払った話ができるな、って?」
 車をゆっくりと発進させながら、彼がおどけてみせる。

「もー、違うわよ。いや、違わないけど」
 クスクスと笑うと、ふうっ、と息を吐き、窓の淵に肘を立て、頬杖をついた。

「佐那ちゃんも美鈴ちゃんも、あっという間に前向きにさせちゃって。あたしなんか佐那ちゃんを泣き止ませることも出来なかったし、美鈴ちゃんのことだってこの二年、自分のことばかりで全く気づけなかったし」
「いや、夕陽だっていい判断だったよ。俺を呼んだの」

 え? と敏生を振り返る。

「女だけだと、どうしても佐那の味方で彼氏の悪口だけになっちゃう。でも佐那は別れたいなんて思ってなさそうだ。そう感じたから男の俺を呼んだんだろ? ちゃんと佐那の想いを汲み取れてたじゃん」

 絶妙なタイミングで、気持ちの落ち込みを掬い上げてくれる彼の言葉。やはり敵わない。

「あたし、前だったら、そんな男別れちゃいなよ、って簡単に言っていたと思う。でも敏生と出会って、少しは二面的な見方が出来るようになったかな、って」
「うん。恋愛は男と女の双方向だからね。俺は女の子からは見えづらい男の視点をアドバイスとして加えただけだよ。航の件も然り。」

 夕陽はコクンと頷くと、シートに身体を沈めた。

「恋愛って……ほんと難しいね。飛行機の操縦の方がよっぽど簡単」
「俺との恋愛は難しい?」

 あ、しまった。言い方を間違えた。

「そんなことないよ! 勘違いしないで! 敏生はいつも、すごく分かりやすく接してくれるから!」

 慌てて彼の方に身を乗り出し、訂正する。

「大丈夫、言いたいことは分かるよ。人は操縦桿通りには動いてくれないからね」

 彼の言葉にホッとして、再び窓の外を眺める。

「でも……あたしはいつも敏生に与えてもらってばかり。これで本当にいいのかな、って」
「何言ってんの。いっぱいもらってるのは俺の方。夕陽と出会って俺の世界には色が着いたんだから」

 車を走らせる彼の横顔が優しい。この雰囲気、今なら言えるかも、と思った。

「あ……、あのね! 敏生!」
「ん?」
「あ、あたし、あたしね!」
「どうした?」
「あ、えっと……、えっと……ね」
「あ……、分かった! 我慢できるか? 一旦アパートの前で降ろすから、先に部屋に戻ってな」
「あ……、うん」

 敏い彼は、挙動のおかしい夕陽を察して、トイレだと勘違いしたようだ。

 アパートの前で彼に促されて車を降りると、テールランプを眺めながらため息をつく。タイミングを逸してしまったが、どこかホッとしている自分がいる。

 思えば出会ってから一年半もの間、ずっと彼の気を揉ませてきたのは自分だ。付き合ってから半年ちょっとで、彼に結婚を急かそうとするなんて、我ながら都合が良すぎる。

 自分は一体、何を焦っていたんだろう。この一か月弱、双方の両親への挨拶や、敏生の墜落事故など、二人の絆を深める出来事が続いたせいで、つい勘違いしてしまっていた。

「あれ? 夕陽、部屋に戻ってなかったのか?」

 裏の駐車場に車を停めて戻ってきた彼が、アパートの前で佇む夕陽を見つけ、驚いて駆け寄ってくると、夕陽は堪らず抱きついた。

「ゆ、夕陽? どうした? 何で泣いてるの?」

 夕陽の挙動に慌てふためき、心配そうに覗き込んでくる彼。

「……離れちゃやだ」
「え?」
「敏生に置いて行かれて……寂しかったの」
「あ……ご、ごめん! 俺、てっきり……」

 彼がぎゅっと抱きしめてくれると、夕陽はすん、と鼻を啜った。

「ううん……。大好き」
「……やばい。俺、幸せ過ぎる……」

 こんなに誠実に自分と向き合ってくれている彼。焦る必要など全くなかった。彼はいつだって全力で自分のことを幸せにしようとしてくれている。

 そして間違いなく、これまでの人生の中で、今が一番幸せ。

 だからこそ、自分も彼の想いに全力で応えたい。大好きな彼を、他の誰でもない、自分が幸せにしたい。そう心に誓うと、胸のつかえがスッと取れていく気がした。

 夕陽はハグを解くと、潤んだ瞳で彼を見上げた。

「今夜は敏生のこと、もっともっと幸せにしてあげるね」

 彼が驚いた表情で見つめる。

「ま……マジで?」

 夕陽はコクン、と頷くと、彼の手をそっと引いた。


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