「予測」するAIが問い直す、アートと創造性の現在地
出典
AI特論 第1回「逆行する美学」ゲスト講師:久保田晃弘〈前半〉|Tama Design University講義プログラム
AI特論 第1回「逆行する美学」ゲスト講師:久保田晃弘〈後半〉|Tama Design University講義プログラム
スマートフォンを開けば、息を呑むほど美しいイラストや、流麗な文章が瞬時に生成される時代になりました。AIはもはや特別な魔法ではなく、私たちの日常に溶け込むインフラになりつつあります。
しかし、その便利さの裏で、ふとこんな違和感を抱いたことはありませんか?
「綺麗だけど、どこかツルツルしていて引っかかりがない」
「人間が作ったような『魂』や『熱量』が感じられない」
この言語化しがたい違和感は、一体どこから来るのでしょうか。今回は、多摩美術大学のオープン科目「AI特論」での久保田晃弘氏の講義をフックに、私たちが無意識に抱えている「創造性の呪縛」を解き明かし、これからのアートとテクノロジーの付き合い方を考えてみたいと思います。
AIは「創って」いるのではなく「予測」している
そもそも、私たちはAIの仕組みを少し誤解しているかもしれません。「生成AI」という言葉の響きから、まるで機械がゼロからアイデアを閃き、何かを生み出しているように錯覚しがちです。
しかし、実態は少し異なります。大規模言語モデル(LLM)の基盤となっている技術は、データベース的な処理を用い、文脈から次にくる言葉を確率的に「予測」しているに過ぎません 。会話の流れから「次はこの単語が来るだろう」という、極めて高度な「穴埋め問題」を高速で解いている状態です 。
つまり、AIは無から有を生み出すクリエイターではなく、膨大なデータから最適解を導き出す「予測エンジン」なのです 。この前提に立つと、AIの生み出すものが時に「平均的」で「無難」に感じられる理由も見えてきます。
「作者の魂」というロマン主義の呪縛
では、なぜ私たちはAIの作品に対して「魂がこもっていない」と批判したくなるのでしょうか。その根底には、私たちが歴史の中で刷り込まれてきた「あるフィクション」が存在します。
それは、18世紀に生まれた「ロマン主義」の価値観です 。
「画家は自分の前にあるものだけでなく、自分の中にあるものを描くべきだ」というロマン主義の思想は、芸術家の内面や、苦悩から湧き上がる独創性こそが尊いという「創造性の神話」を作り上げました 。しかし、歴史を少し逆行させれば、かつての芸術(テクネ)はルールや型に従う職人技でした 。
また、1920年代のソ連の巨大なデザイン学校「ヴフテマス」や、ドイツの「バウハウス」では、視覚表現を点や線といった要素に「分解」し、「再構築」することが教育の核とされていました 。
AIがやっている「データを分解し、統計的に再構築する」というプロセスは、実は突然変異で生まれたものではなく、モダニズム以降のアートが辿ってきた歴史の延長線上にあるのです 。
「プラスチックの木」を私たちは愛せるか
ここで、興味深い思考実験をご紹介します。1973年、マーティン・クリーガーという研究者が「プラスチックの木で何が悪いのか」という挑発的な論文を発表しました 。
もし、本物の木と見分けがつかない精巧な「プラスチックの木」があったとして、それを見て美しいと感じるなら、オリジナルにこだわるのは単なる見栄(スノビズム)ではないか、という問いです 。
これに対し、美学者の西村清和氏は反論します。私たちが自然を美しいと感じるのは、単なる視覚的な刺激だけでなく、それが数十億年の進化を経てそこに存在しているという「歴史」や「事実性」への敬意が含まれているからだ、と 。
これはまさに、私たちがAI作品を評価する際の葛藤そのものです。
出来上がった絵や文章の「見た目(美的評価)」は素晴らしい。けれど、それが数秒で、膨大な学習データ(他者の著作物)を元に作られたという「プロセス(倫理的評価)」を知ると、素直に感動できなくなってしまう 。私たちは今、この二つの評価軸が混ざり合い、混乱している状態なのです 。
違和感を鏡にして、自分を知る
最新のテクノロジーは、私たちが当たり前だと信じていた「意味」や「価値観」のレイヤーを、玉ねぎの皮を剥くように一枚ずつ剥がしていきます 。
「人間の創造性とは何か?」
「作者とは誰か?」
AIという究極の「他者」が現れたことで、私たちは自分自身の「人間性」や「感動の出所」を問い直すことを迫られています。
もし、あなたが心から感動して涙を流した小説が、読み終わった後に「実はAIが書いたものです」と明かされたら。その時、あなたのその感動は嘘になってしまうのでしょうか?
この問いにどう答えるか。それこそが、AI時代を生きる私たち一人ひとりの、新しい美意識のスタートラインになるはずです。
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