『新日本プロレス』木谷高明vs辻陽太 結局どっちが悪いんだってばよ?
別れた理由を、二回説明する男
7月中旬、『週刊プレイボーイ』に木谷高明のインタビューが載った。新日本プロレスを手放した理由である。
「あの日は朝まで眠れなかった。ここまで情熱を注いできて、なぜあんな言われ方をしなければいけないのか」
辻陽太の2月のマイクが引き金だった。おおむね、そういう内容だ。
それはいい。当事者が語るのは当然だし、読む価値もあった。
問題はその2週間後である。8月2日、今度は日本経済新聞に木谷オーナーのインタビューが載った。見出しは「気持ち切れた」
同じ話だった。
Xでもすぐ言われていた。内容は先日の週プレとほぼ同じだ、と。
そのうえで「体よく切るための詭弁に聞こえる」という声も出た。
当てつけがひどい、恨みに思いすぎだ、売った後に他社の媒体で言われたら辻は反論できないだろう——そういう投稿が並んだ。
木谷さんは、どうしてそこまで辻が憎いのだろうか?
そして、現在の辻の胸中やいかに?
あの発言は今でも正しいと思っているのか。
だったら、いちど全部並べて整理しよう。
何がぶつかったのか。
そして——結局どっちが悪いのか。
まず、あの夜のこと
2026年2月11日、エディオンアリーナ大阪。
その1か月と1週間前、1月4日の東京ドームで、新日本プロレスは46,913人を集めて28年ぶりの超満員札止めをやってのけた。KONOSUKE TAKESHITAを下した辻陽太が二冠王者になり、2日後の会見でIWGP世界ヘビー級王座を解体した。
IWGPヘビー級王座が復活し、辻は第87代となった。
棚橋弘至社長が会見に呼び込まれ、その場で認めた。
2月10日、辻は保留していた契約を更新する。翌11日、大阪。ジェイク・リーを退けて初防衛。
そしてマイクを持ち、対戦相手ではなく親会社のほうを向いた。
「オレたちレスラーはな、カードゲームのカードじゃねぇんだよ」
会場は沸いた。陽太コールが起きた。あの夜、テレビでもワールドでも会場でも、多くのファンが拳を上げただろう。
しかし、一方で首を傾げたファンも多かったはずだ。
予想どおり、この発言は賛否を呼ぶことになる。
まず、当然というかなんというか、あの男が動く。
さっそく同日に、木谷オーナーはXを更新した。
カードゲーム愛好家に向けて、選手がカードゲームをあまり良くない例えとして使ったことを詫びる、という文面である。
この投稿が、また燃えた。レスラーの言葉にオーナーが即レスして謝罪、という絵面そのものが異様だったからである。
ここから話が転がった。
翌12日、後藤洋央紀が、最後を締める人間がリング上で言うことではない、という趣旨を書いた。
グレート-O-カーンは、稼ぎを生んでるのは誰だという角度から冷たく風刺した。
苦労人の後藤とメディアミックスで苦労しているO-カーンは、こういうところ敏感である。
TCG側からは、自分たちの遊びを悪い例えに使われたという反発。
そこに「ヴァンガードの旧カードだって切り替えられたじゃないか」という皮肉が混ざった。

そして、5月27日、譲渡発表。6月30日、実行。売却金額約36億円。
そして7月に週刊プレイボーイで、
8月に、日本経済新聞で、木谷オーナーが重い(軽い?)口を開く。
辻が狙ってたのは、こういう客だ
ここから本題にはいる。
なぜ辻は、あのような発言をしたのか?
それは決して感情の爆発からではないことは認識しなければならない。
なぜなら、あれは勝ったらいうつもりの用意された言葉だからである。
あの騒動は、辻・木谷の性格の不一致ではない。
どんな客を想定しているかの不一致なのである。
マーケティングの言葉でいうところの、ターゲティングだ。
プロレスの客を、乱暴に四つに割ってみる。
いちばん上に最コア層がいる。IWGPの歴代王者を暗記している層だ。
年間何十試合も現地に行き、パンフレットを買い、一番お金を落としてくれている人だ。
苦しい時代も新日本プロレスを支え続けてくれた真のファンである。
しかし、彼らは往々にしてこだわりが強く、先鋭化しがちである。
原理主義者と呼んでいい。
ここ最近ではIWGPヘビーがなくなって、IWGP世界ヘビーに代わった時、新日本プロレスへの抗議の意味を込めて、一時NJPWの課金をやめる運動などやっている。
そう、わたしのことだ。
ゆえに、この最コア層のことをIWGP至上主義者とも呼ぶ。
その下がコア層。毎大会追って、配信に入って、1・4は必ず行く。
週プロは毎週チェック。ファンクラブにも入っている。
ライオンマークのTシャツを普段使いしている。
そう、わたしのことだ。
さらに下がライト層。年に数回、話題になったときだけ見る。配信は入ったり切ったり。単価は安いが、頭数がまるで違う。
また、日和見的なので、ちょっとしたことで、コア層にも無関心層にも流出する。
この移り気な層をいかに取り込むか、はプロレス業界に限らず、すべての産業で重要な経営戦略となっている。
いわば、ノンポリ、無党派層である。
いちばん下が、プロレスを知らない人。母数は最大で、いま落としてる金はゼロ。いわゆる、無関心層である。
ただし、プロレスの存在そのものを知らないので、うまく誘致すれば、ライト層にもコア層にも化ける可能性がある。そもそも、ゼロなのだから、仕掛ければ仕掛けるほどメリットのある層である。
これを潜在層と呼ぶ。

実は、辻陽太というプロレスラーは最コア層を狙っているプロレスラーなのである。かなり小さなエリアを集中的に深く狙っている。
実は、新日本プロレスの中では珍しいターゲッティングを行っているレスラーである。
尖がっていると思われがちな石井選手ですら、コア層をメインに最コア、ライト層に幅広く訴求している。
ちなみに、棚橋はライト層寄りをメインに全体に訴求。オカダはコア層寄りから全体に訴求。KOBは特殊なので割愛するが、たいていのレスラーは真ん中寄りに自身を既定し、上にも下にも支持者を広げていくスタンスをとる。
そんななかで、まず、広げづらい最コア層を掴みに行った点で、辻の自己プロデュースは珍しい。
そのターゲティングが明確になったのは、1月6日の会見だ。IWGP世界ヘビーを解体して、IWGPヘビーに戻す。代数は繋いで、自分は第87代。インターコンチは封印。
これが刺さった。わたしたちの様な岩盤支持層にである。
「IWGPヘビーの正統性が…」という議論ができるプロレスファンは、私の周りではほとんどいないが、この話が理解できる人たちの中では、辻の評価は爆上がりした。
「さすが辻。よくわかっている」と。
よって、大げさに言えば、大衆迎合化する新日本プロレスに、伝統と格式を重んじるチャンピオンが帰ってきた、と気持ちが離れかけていた岩盤支持層が再び熱狂し始めたのである。
ちょうど、自民党と高市早苗総理の関係性に似ている。
そして、このIWGP宣言とあわせて、辻が並べた不満の中身を思い出してほしい。
主力の海外流出。国内で防衛戦が決まっているのに、アメリカ側のスケジュールが優先される力学。
新日本プロレスが向こうの下部組織みたいに扱われる感覚。
これ、全部岩盤層がいちばん我慢できないやつである。
ライト層は、正直そこまで気にしない。誰がベルトを持っていても、東京ドームが盛り上がっていれば満足だ。
だが原理主義者は違う。
IWGPヘビーこそが至高のベルトであって、このベルトが欲しければ、日本に来て、IWGPチャンピオンに挑戦しなければならない。
なぜ、チャンピオンがアメリカまでベルトをデリバリーしなければならないのか?
IWGPヘビーこそが至高のベルトで、新日本プロレスこそが最強なのに、なぜ選手は海外の団体に行ってしまうのか?
ゆるせない!ゆるせない・・・おまえの…おまえらの...その生き方がゆるせない!!!
と、岩盤支持層のストレスは限界だったのである。
辻がリング上で宣言したのは、待遇改善の要求ではない。
ベルトが軽くなることへの抗議である。
あのマイクは最初から最後まで、岩盤層の言語で喋られていた。
だから岩盤に刺さり、それ以外の層にはあまり刺さってない。
当然である。辻はプロレスを人生の中心に置いているような、最コア層に支持されるために戦っているのだから。
「すべてのジャンルはマニアが潰す」
一方で木谷高明オーナーである。
これは今回の騒動で急にそうなったわけではない。11年前の発言が残っている。
2015年9月、木谷は早稲田大学の入山章栄教授との対談で、自分が3年ほど前に言った台詞を振り返っている。「すべてのジャンルはマニアが潰す。」
そこで例に出したのがSF小説とプラモデルだ。
先行者のいるジャンルに後から入って広げるのは難しい、古参が「こんなのはSFじゃない」と言い出す、書き手が書けなくなる、部数が落ちる、市場が縮む。プラモデルについても、10時間かけて塗る商品が受けた時代と、30分で満足したい時代は違うと語っている。
入山教授が「マニアは原理主義みたいなもの」と受けると、木谷はそれを肯定している。
そのうえで一言、付け足しているのが重要だ。マニアだけで巨大な市場があるなら問題ない、と。
つまり木谷はマニアが嫌いなのではない。頭数が足りないと言っている。
経営者の台詞としては、非常にまともなことを言っている。
売上は、客数×客単価で決まる。
しかし、1人の客が落とせる金はせいぜい5人分である。
それなりの事業規模の会社は、客数を追わなければ話にならない。
日経のインタビューでも、木谷オーナーはプロレス村の意識から抜けてライト層をどれだけ増やせるかが大事だ、という趣旨を語っている。「村」と言い切るあたりが木谷オーナーらしいが、11年前も物議をかもした。
つまり、小さな市場でパイの奪い合いをしても仕方がない。村から出て、大きな市場から客を引っ張って来るべきというわけである。
岩盤支持層は自分たちがマニアといわれ、カチンときたらしい。
ブシロードが14年でやったこと
2012年に約5億円で買った当時の新日本は、まだ青色吐息だった。
前の親会社はゲーム会社のユークス。非常に新日に力を注いでくれたが、
ドームは埋まらない。
地上波は深夜。
プロレスという言葉自体が、世間では半笑いで扱われていた時代である。
そこから木谷オーナーがやったのは、ライト層より下の層に訴求することだった。
棚橋弘至やオカダ・カズチカをバラエティに出す。
選手全員にSNSをやらせる。
山手線をG1出場選手のラッピングで走らせる。
アニメを作る。(タイガーマスクW(笑)…いや笑い事ではない)
声優やアイドルの現場でやってきた売り方を、そのまま持ち込んだ。
新日本プロレスワールドを立ち上げて、地方の客が「1・4は東京に行きたい」と思う導線を作る。
女性客が一人でも来られる会場運営に変える。
正直、当時のコアなファンからは相当叩かれた。プロレスがアイドル興行になった、と。強さを売らないなら格闘技じゃない、と。
しかし、2020年には、東京ドーム2DAYS興行に成功。
2026年1月4日には、東京ドームに46,913人を集めた。
あのスタンドを埋めた4万6千人の大半は、1997年のドームを知らない。武藤も蝶野も生では見ていない。それでも、東京ドームで立ち上がって叫んでいる。
新規客は、勝手に湧いてこない。誰かが連れてくる。 ブシロード時代の14年間は、いかに新規顧客を掴まえてくるかの挑戦だった。
このV字回復は、よく言われるように棚橋弘至一人でなしたものではなく、レスラーたちの頑張りだけでなしたわけではなく、ブシロードグループ全体で一丸になって達成した成果である。
そのうえで、副作用もあった。
2023年6月、会社は海野翔太・成田蓮・辻陽太を「令和闘魂三銃士」と命名して発表した。3人は別ユニットである。マニアの目には無茶に見えるが、初めて見る客には覚える顔が3つに減る。
ライト層向けのラベリングとしては、これも筋が通っている。
筋は通っている。通っているが、3人が嫌がった。とくに辻は「余計なレッテルをはらないでくれ」という趣旨で拒み続けた。
思えばこの頃から、不満の導火線は存在していた。
ちなみに、わたしもこの三銃士企画は外していると思う。
まぁ、そりゃ失敗するときもあるだろう。
むしろ、あの時、辻が積極的に現場の意見を出してくれて、組織としては風通しよく、健全に回っていたと思う。
しかもその言葉、3年前に辻が投げ返してる
ここが今回いちばん面白いところだ。
2023年7月2日、木谷オーナーが「令和闘魂三銃士」の公式投稿が500万インプレッションに達したと、やや自慢気にXに書いた。
数字は正義、という顔である。
当時、わたしもインプの中身をチェックしたが、たいていは批判的な投稿だった。まぁ、木谷オーナーからすれば、賛否はどうでもよくて、まずは、プロレスが、無関心層のレベルで話題になればいいという考えなのだろう。
その投稿を、辻が引用してこう返している。木谷オーナー、これが仕掛け人の哲学ですか、と。
そして続けて置いた言葉が、これだ。
「全てのジャンルはマニアが潰す」
木谷の看板を、木谷に投げ返している。
木谷も秒で撃ち返した。プロのレスラーならオーナー批判で人気取りをする前に、G1の対戦相手でも煽ったらどうだい、と。
つまり2026年2月11日のマイクは、突発の暴発ではない。3年近く前から、この二人は同じ論点でやりあっていた。
辻はずっと、木谷のターゲティングそのものを批判していたのだ。
そのうえで、ベルトを巻いてから、いちばん人が見ている場所でもう一度言った。というのが今回の顛末である。
金の話をすると木谷オーナーが勝つ
ブシロードの2025年6月期。新日本とスターダムを含むスポーツ事業は、売上高63億2,416万円で前年同期比3.9%減、セグメント利益1億7,381万円。
同じ期のエンターテイメント事業は、売上高498億5,145万円で25.6%増、セグメント利益46億9,441万円で969.8%増。

売上で約7.9倍。利益で約27倍。
利益率で並べると、もっと残酷になる。
スポーツ事業が約2.75%、
エンタメ事業が約9.42%。
新日本プロレスリング単体でも、2025年6月期の売上高47億5,530万円に対して営業利益は約1億7,230万円。率にして約3.62%である。
100円のものを売った時の利益が3円62銭である。
さすがに低い。
会場を借りて、リングを運んで、選手のギャラを払って、宣伝を打って、残りがこれだ。現場でちょっとアクシデントがあれば利益が吹き飛ぶ。
オーカーンが突きつけたのは、要するにこの構図だった。
稼いでるのはカードとゲームとアニメで、その金でリングは回っている。そこに向かって「オレたちはカードじゃない」と言うのは勘定が合わない。
オーカーンは、ああみえて(どう見えてるんだ)、非常に知的なパーソナリティの持ち主で、時々的を得た論評をする。論理的なのである。
過去記事にも書いたが、わたしは彼に非常にシンパシーを感じており、同族嫌悪ゆえ応援はしていないが、気にはしている。
ともかく、この数字からわかることがもう一つある。
岩盤層をどれだけ掘っても、63億の壁は越えられない。
年間何十試合に通って一人30万円落としてくれる人がいたとして、その人数には天井がある。
いっぽうエンタメ側は25.6%伸びた。
どっちに資本と時間を突っ込めばいいかは自明である。
そして週プレによれば、木谷オーナーが「終わった」と思った瞬間があったという。NetflixとWWEの巨額契約である。約7,200億円とされる規模の話が向こうで動き、単体では対抗できないと判断した。
このことは、わたしも過去記事でたびたび警鐘を鳴らしているが、あまりプロレス界隈では話題になっていない。この黒船襲来のほうが、今回の騒動より深刻な問題である。
だから譲渡先が放送局と配信プラットフォームになったのは、路線として一貫している。ライト層を広げる装置としては、カード会社よりテレビ朝日とABEMAのほうが明らかに強い。
木谷オーナーは新日本プロレスの今後まで考えて譲渡先を探していた。
売却差益は約31億円。
実は気付いている人もいると思うが、わたしは例の週刊プレイボーイの記事に一枚噛んでる。
そこでも書いているのだが、この売値そのものはかなり安い。
しかし、ブシロード側のメリットも大きい。売り時もいいタイミングだと思う。木谷オーナーは「譲渡はもう少し先を予定していた」といっているが、少なくとも株式総会までには売っていたのだろう。少なくとも年度を跨いではいない。
ちょっと、ここは大げさに盛ったのではないか?
カードの側にも、切り捨てられた奴らがいた
ところで、木谷があのX投稿で守ろうとした相手は誰か。カードゲームのユーザーである。自社最大の顧客だ。経営者として、詫びるのは当然の判断だった。
ところが、そのカード側から返ってきた反応が、ちょっと想定外だった。
ブシロードのカードゲームでは過去に、大がかりなルール変更で、それまで使っていたカードが実質的に戦えなくなったことがある。集めて、組んで、大会に持ち込んでいた資産が、ある日から通用しなくなる。
そのときの記憶を持っている層から、こういう趣旨の皮肉が出た。俺たちだって、都合で切り替えられた側だよ、と。
レスラーの言葉に怒るどころか、レスラーの境遇に自分を重ねた人間がいたのである。
これ、笑い話にしてはいけない。まったく同じことが起きているだけだ。
カードゲームにも岩盤層がいる。
初期からデッキを組み、絶版カードを箱に入れて保存し、ルールの美しさに人生の一部を置いてきた連中だ。新規プレイヤーが入りやすいように環境を作り替えれば、彼らの資産と記憶は目減りする。そのとき運営が向いている先は、新規のほうである。
つまり木谷オーナーは、カードでもリングでも、まったく同じ選択をしてきた。狭くて濃い側より、広くて薄い側。新しく入ってくる客のために、先にいた客に少し我慢してもらう。 14年、いや、それよりずっと前から、その一貫性でやっている。
で、なんで二回言ったんだよ
経営判断としての木谷オーナーは、ここまで書いてきたとおり一貫している。数字も理屈も揃っている。
そのうえで、7月の週プレと8月の日経は、別の話だ。
株はもう自分の手を離れている。新日本は他人の会社だ。テレ朝とサイバーの持ち物になった。辻陽太は、その他人の会社の所属選手である。木谷にはもう、辻に対して何の権限もない。
権限がない相手のことを、権威ある媒体で二回ディスる。
しかも辻の側は反論できない。反論すれば新体制に迷惑がかかるし、そもそも相手は元オーナーで、いまや部外者だ。
Xで「当てつけがひどい」「大人げない」と言われたのは、この構造のせいである。反撃できない力関係をわかっていながら、一方的に殴る。
世間ではこれをパワハラという。
もっと言えば、媒体の選び方もまずかった。
週刊プレイボーイは、まだいい。プロレスを扱うこともある雑誌だし、読者もエンタメ層寄りだ。
だが日経は違う。
日経を読む層の大半は、辻陽太という名前をこの記事で初めて見る。その人たちの脳内に最初に刻まれるのは、こうなる。
「新日本を売らせた選手」
木谷オーナーの内心を勝手に書けばこうなる。
あくまで想像だが——14年注ぎ込んだ。金も名前も出した。V字回復もさせた。それを、自分が30坪の部屋から立ち上げた祖業の名前で侮辱された。
しかもファンの一部がそれに喝采した。
俺は悪者か。俺が悪者なのか。
分かる。分かるのだが、二回目はいらなかった。
一回目は証言だった。それなりに賛否があった。これはいい。
二回目は、必要ない。
ただ、辻を社会的に抹殺したいだけである。
そしてそれを「経営判断の説明」として出したから、詭弁に聞こえる人が出てきた。実際、日経が出た当日のXには、体よく切るための詭弁だという投稿が並んでいる。
もっとも、辻の側にも同じ物差しを当てておく。
あのマイクが完璧だったかというと、そうでもない。
興行の締めのマイクで親会社を名指しした。後藤洋央紀が言ったのは、そこである。年に一度しか来ない客は、最後の3分の後味で来年を決める。
これをピーク・エンドの法則という。
しかもあの日、リングの外ではゲイブ・キッドが心が壊れたと言って離脱を宣言し、EVILは1月末で退団済み、高橋ヒロムも去り、フィンレーとコナーズにも噂が流れていた。
じつはあの時点で、今年度の危機的状況の予兆は出ていたのである。
そんななかで、辻まで不穏発言をすれば、団体の行く末に不安を持つ客が出てくるのも仕方ないだろう。
実際のところ、岩盤支持層の中でも、長年お世話になっているブシロードを支持する立場と、辻を支持する立場に結構分かれている。
岩盤支持層をごっそりいただくという、辻の目論見は外れたわけだ。
先ほどの木谷オーナーのように内心を想像で書くことはしないが、それらをすっ飛ばして、結論だけ書く。
「おまえは、内藤哲也じゃないよ」
どっちつかずの棚橋
この二つの商売のど真ん中に立たされた男がいる。棚橋弘至である。
考えてみると、この人ほど気の毒な立場もない。
棚橋は木谷のライト層路線の、最大の功労者であり、木谷オーナーの経営戦略を具現化した存在。つまり、木谷派の旗頭だ。
その棚橋が社長になった途端、後輩の王者が、ベルトの重みを守れと言ってリング上で会社に噛みついた。棚橋がかつて「重みより間口」を選んで叩かれた、まさにその論点で。
しかも1月6日、IWGP世界ヘビーの解体を認めたのも棚橋だ。会見に呼び込まれ、歴史の重みを繋いでほしいと言って、辻の提案を受けている。岩盤側に一票を投じた形である。
棚橋社長は「選手の延長線上にいる経営者」という立場、あるいは役割を負っている。当然こういうところでは期待に応える。
そして4か月半後、株主が入れ替わり、棚橋は新体制でも社長として残った。親会社は放送局と配信プラットフォーム。ライト層を広げる装置としては、これまでより強い。
つまりブシロード時代のライト層拡大路線はまだ続く。むしろもっと速くなる。地上波とABEMAが後ろにつくということは、これから新日本が取りにいくのは、いまプロレスを知らない層である。
その現場で、辻陽太は第87代IWGPヘビー級王者としてベルトを巻いている。最コア層を主な支持基盤とする男が、母数拡大装置の看板になる。
——つまり棚橋は、これからも同じ場所に立たされる。
で、結局どっちが悪いんだってばよ?
辻陽太は、IWGPを人生の物差しにしている層に向かって、その層がいちばん聞きたい言葉を、いちばん注目される場所で言った。
辻は、その層から支持されたいのだから、辻単体では正しいことを言った。
木谷高明は、「全てのジャンルはマニアが潰す」と言いライト層の獲得に事業拡大の道筋をつけている。
経営戦略的にはこちらの方が正しい。最適解と言っていい。
しかも、自らのグループ企業全体でバックアップしてきた。身銭を切っているのだ。
ただし、終わった後で粘着質な感情の面を二回持ち出した。
ということで、あの発言自体は辻が悪い。
ただ、事後処理は木谷オーナーが悪い。
と言ったところか。
・
・
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・
・
と、本来ならここで終わりなんだが、じつは、ここまで、いろいろとオブラートに包んで書いてきている。
これですべて書き切っているのだが、
遠慮なく書きたくなってきた。
いっておくが、わたしは木谷オーナーの経営手腕を高く評価していて、特に棚橋と内藤の使い分けに関しては過去記事でもことあるごとに絶賛している。非常にユニークな発想を持った経営者で、胆力も持ち合わせていると。
一方、辻選手についても、あのサイズであれだけ動ける選手は希少で、いまやエースと呼ぶことに躊躇はなくなってきた。
と両雄に敬意を表して、ここまでは、両論併記でやってきたが、ここからは全てを裏返して両論をけなす。
それはもうケチョンケチョンに。
よって、ここから先は、読みたい人だけの空間になりますので、有料版として区切らせてもらいます。
Everything is inverted.
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