京町Destiny
先日街に出かけようとバスに乗ってましたのよ。
普段あまりバスに乗らへんのやけどたまに乗るといいもんやね。
ちょこちょこ止まっては人が乗って来て、またちょこちょこ止まって人が降りていく。
諸行無常やなぁなんて思いながらEGO-WRAPPINを聴きながら窓の外をぼんやり眺めてた。
車やバイク、歩いてる人や自転車に乗ってる人。
みんなそれぞれ行き交ってるなぁって思いながら信号待ちの間、バスの真横で同じく信号待ちしてるマウンテンバイクに乗る男性に目が行った。
半袖半ズボンにヘルメットかぶってはる。
いくら風が気持ちいいって言うてもまだまだ暑いですしね。
それにしっかりヘルメットかぶってはるの偉いなぁと感心しながらボーッと観察してた。
青信号になって立ち漕ぎでぐんぐんスピード出して行かはるのよ。
マウンテンバイクって速いんやね。
すんごいスピードでバスより速いの。
それにあのお兄ちゃんガッチリしてはるからそれも相まってるんやろな。
ほんでまた次の信号で止まる。
ん? なんか違和感…
そしてまた発車するバス。
横に並ぶマウンテンバイク。
立ち漕ぎの後ろ姿を見て気がついた。
ズボンが少しずつズレてってる!
パンツがチラリとかってレベルじゃなくお尻の割れ目がチラリ。
漕げば漕ぐだけズレてってるのに本人は全然涼しい顔して立ち漕ぎしてはる。
ズボンずらしながらそんなに急いでどこに行くんよ。
もうね、降りる停留所とか忘れたね。
隣を走るマウンテンバイカーのお尻に魅了されて。
彼はおそらくバスの横を15分ほど並走してたのね。
その間ズボンがずりずり落ちて行くのに、次の信号待ちで元に戻る。
チラリズムの極意やわこれ。
ここまで下心のないチラリズムに期待したのは生まれて初めてかもしれへん。
男って悲しい生き物でね、たとえご高齢のおばあさまであろうと、チラッとしたものは目で追ってしまう哀しい性を持ち合わせてるのよ。
それと同時にマウンテンバイカーの彼のお尻を見ながら、妙に冷静になる自分がいた。
俺はいったいなにをしてるんや?
用事があって街に繰り出して来たはず。
それがなんや?
そんな用事も頭から吹っ飛ばして、お尻の割れ目が見えそうになってるマウンテンバイカーのチラリズムに魅了されてる。
降りる停留所はもうすでに過ぎた。
それなら俺にできることはひとつしかない。
最後までこのチラリズムバイカーの行く末を見守るだけ。
よっしゃ任せろ。
本気で観察する。
人を観察させたら俺の右に出る者はたくさんいるけど、それでもそこそこ自信があるっちゃある。
多分ね思うに、立ち漕ぎが余計にそうさせてるのよね。
腰を右に左に振るからズボンが落ちるんよ。
だから座って漕いだら落ちひんと思うの。
でも彼は立ち漕ぎしかしない。
立ち漕ぎの魅力に取り憑かれてるんや。
ん?もしかしてわざと…?
いやそんなことはない。
こんなに一生懸命汗を流しながら自転車を漕ぐ彼に下心なんてなかろう。
同じく俺もそんな彼を見守る気持ちに下心なんてない。
なにせ俺は女性が好きだから。
それなのになぜかメンズのお尻がちょっとずつ見えるこの状況が面白くて、いつの間にか耳に流れているEGO-WRAPPINも4曲目。
このチラリズムさって、もしかしてEGO-WRAPPINのグルーヴ感と実は親和性高いんじゃない?
これがSOUL’d OUTとかなら話が180度変わってくるからな。
それはそれで試してみたいけどね。
進んではズボンをずらして信号で停車。
またズボンをずらしながら信号で止まる。
ただそれを隣のバスの特等席から、EGO-WRAPPINをBGMに観覧する俺。
これだけでもうバスに乗った甲斐があるってもんよ。
曲は5曲目。
ここで再生されるはEGO-WRAPPINの代表曲くちばしにチェリー。
この曲は個人的にすごく思い入れが強い曲でね、本当に大好き。
特に歌詞の「競うスピードより重要なのは着地」
この歌詞にこの曲の良さがギュッと詰まってる。
昔、星野源がラジオで「クラシカルながら新しい音楽」って解説してたのを聴くたびに思い出す。
ってかバスに乗っただけよ?
俺が今日したことって。
それやのにこれだけの多彩なことを感じさせてくれる。
半けつマウンテンバイカーやEGO-WRAPPINに感謝だね。
感情に浸りすぎてサビの「くちばしにチェリー」の歌詞の部分で、俺我慢できずにちょっと体揺らしてノリノリやったもん。
マウンテンバイカーの彼は自転車でお尻左右に振って立ち漕ぎしてる。まさに横ノリ。
俺はそれを見ながらEGO-WRAPPINを聴き体を揺らす。言わば縦ノリ。
こんな偶然が生みだしたセッションがあってよいのか。
俺はこのまま終点まで行ってもいいとすら思えた。
それだけ気持ちが昂って高揚してた。
マウンテンバイカーが曲がり角を曲がってバスと違う進路を取ったその時まではね。
絶望とは正にこのこと。
今まで何度も絶望を感じたことはあるし、その都度打ちひしがれてもう俺なんてダメだぁと、地面にのめり込むくらいに凹んできた。
それらの絶望をゆうに超えて来た。
突然終わるセッション。
俺の縦ノリだけを残して彼はもういない。
バスの運転手さんに、なんで曲がらへんかったの? って問い詰めそうになったね。
目的地やった停留所をスルーして、彼の横ノリに合わせてEGO-WRAPPINを聴き、縦ノリでノリに乗った瞬間に訪れた突然の別れ。
人気絶頂期に方針の違いで脱退を申し込まれたバンドメンバーって、こんな気持ちなんやって初めて知った。
こんなにもあっけなく別れが来るなら、もっと最初からくちばしにチェリーでぶっ飛ばせばよかった。
唯一の救いは目的地の停留所の近くをバスがまた通ることくらい。
だから俺はそこで降りた。
降りますランプが虚しく赤く点滅して俺の気持ちを表してる。
降りて少し歩いたら街に来た本来の目的地、タバコ屋さんがある。
最近は街に来て煙草を買うようになったから、運が良ければマウンテンバイカーの彼とも会えるやろ。
また会えた時のためにいつでもEGO-WRAPPIN鳴らせる準備はしとこ。
備えあれば憂いなしよね。
でもいいこともあったのよ。
煙草を買ってオマケでつけてくれたライターが黄緑色のBicライターでさ。
今まで赤と黄色は持ってたから違う色欲しいなとは思ってたんよ。
やからニューカラーはちょっと嬉しい。
まぁこんなもんやろ俺の喜びなんて。
でもこんくらいが俺にはちょうどいいんよ。
なんて思いながら顔を上げて信号を待ってたら、向かいの歩道にさっきのマウンテンバイカーの彼が信号待ちしてた。
運命かと思ったね。
俺が女の子なら間違いなくデスティニーを感じた。
これってディスティニー?って懐かしのフレーズが飛び出すくらいに。
京都の街並みってのは縦縦横横やからこその巡り合わせやろな多分。
でもその時の俺はそんなのどうでもよくて、すれ違いざまに彼がまた立ち漕ぎしてズボンずらしてるのを温かい目で見送れた。
あぁ、確かにそうやわ。
EGO-WRAPPINが教えてくれたこと。
道中がどうこうじゃない。
大切なのは最後、この瞬間。
まさにその通りやった。
競うスピードより重要なのは着地。
