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物語 ~めぐり㉓~

《23》

井川家を出て、少し離れたホームセンターの
駐車場でスマホを開いた。

『横浜 迫村研究所 倒産』

検索結果の中に、TSRの倒産情報が表示される。

『・株式会社迫村研究所
 ・代表取締役 迫村 恒彦
 ・神奈川県横浜市〇〇区〇〇
 ・コンサルティング業』

倒産したのは数年前らしい。

このまま法務局に向かって閉鎖謄本を取ることも考えたが、
さすがに外出が長くなるのはまずい。

それに、もし謄本に俺の欲しい情報がなければ、ただの無駄足だ。

……一度、会社に戻るか。

後ろ髪を引かれる思いで、車を発進させた。


「ただいま戻りました」

事務所のドアを開けて声を張る。
少し奥の支社長席には社長が座り、
その前に天野さんと河野が立っていた。

荷物を自席に置き、三人の方へ向かう。

「戻りました」

「お疲れ様」

天野さんと河野が同時に声を出す。

「井川様の件ですが、
 当方の申し出を快く受けていただけました」

社長へ報告すると、

「そうか。ご苦労さん。
 後日挨拶に伺いたいが……
 今はそんなことを言っていられんな」

先日とは違い、社長の覇気は感じられなかった。

天野さんが、やや困惑したように口を開く。

「先ほど警察の方が見えてね。
 椋本君が行方不明になったそうなんだ」

朝の段階で河野から聞いていたが、

「そうなんですか」

と尋ねるように返す。

天野さんは周囲を一度見回し、続けた。

「今朝ニュースになっていたと思うが、
 三井様の会社のコンサルタントである門田氏が亡くなられた。
 事件への関与を仄めかす供述をしていたらしい。
 それで、共犯者の可能性がある椋本君を
 警察が自宅に訪れたらしいんだが、不在だったそうだ」

新しい情報が含まれている。
警察の聴取で判明したのだろう。

「門田氏の死に、椋本さんが関与していると?」

「馬鹿を言っちゃいけない。
 いくらなんでも……」

否定しながらも、天野さんは言葉を濁した。

社長も続ける。

「奴にそんな度胸はない。
 ……と思いたいんだがな」

場は静かになった。

「椋本君の捜索は警察が行うそうなので、
 君たちは……まあ落ち着かないとは思うが、
 通常通り勤務に戻ってください」

天野さんがそう言うと、河野が俺の腕を軽く叩き、
自席に戻るよう促してきた。

「社長、弱ってるよな」

戻りながら小声で河野に言う。

「そうだな。前代未聞の事態だからな……」

河野も小声で、少し遠くを見るように答えた。

自席に戻ると、隣の福島が声を掛けてくる。

「お帰りなさい」

「あぁ、ただいま」

そう返し、目の前の書類に視線を落とす。

"手詰まりか。"

ゴールの場所は見えているのに、そこまでの道筋が見えない。
歯がゆさだけが心の中を占めていた。


社宅に戻り、着替えながらPCを立ち上げる。
なんだかんだ忙しいが、毎日必ずログインはしている。
ログイン皆勤賞なんてものはないのに、
律儀なものだと自分でも思う。

「おっさん」

いつもの挨拶がログに流れる。
毎日これを楽しみにしている自分がいるのは、
やや自虐が過ぎる気もする。

「陽介。おつかれ」

ゆずるが個別チャットで改めて挨拶してきた。

「お疲れ。そっちも大変だったろ?」

「俺はそうでもない」

相変わらずの緩さだ。
その返事だけで、少し笑顔が戻る。

「お前、自分ちが大変なのに緩すぎだ」

「ハハハ。深刻になったって何も解決にならないって、
 父さんからずっと言われてるからねぇ。
 言われすぎて、深刻になる方法を忘れた」

明るい彼を見習わないとなと思うが、ここまでにはなれない。

「そういえば、ウチの会社にも警察が来たらしい。
 俺は外出してたから詳しくは知らないんだけど」

「そうなんだ。ウチにも来てたよ。
 門田さんとの取引関係の資料とか持ってった」

詐欺の捜査も並行して進んでいるということか。

「でさ、陽介。ここからは真剣な話なんだけど」

おい、ここまでの話も真剣な話だぞ……。

「なんだよ?また何かあったのか?」

「うん。陽介はさ……
 恵比寿……いや、カナと付き合ってるって本当?」

飲んでいた缶ビールを盛大に噴き出した。

「ちょ……ちょ、待て。
 なんでそんな話になるんだ?」

「アハハ、びっくりしてるね。
 なんかクラメンがさ、最近二人いい雰囲気だって。
 そしたら別の子が、この前二人きりで飲みに来てたって」

ツッコミどころが多すぎる。

「飲みに来てた……とは?」

「あ、ミンクのバ先に飲みに行ってたみたいだね」

ミンク。古参のクラメン。オフ会に来ていたフリーターだ。
……あの店の店員なのか?

「そ……そうか。で、いい雰囲気とは?」

「え、なんかログインしたら、
 すぐ二人で狩り行ってるじゃん?」

確かに。
いや、ゆずるが来ないからカナと狩りに行ってるだけだ。
キラやランカも一緒に海底洞窟に行っている。

あぁ……もうクラメンじゃないから、
誰と一緒にいるかなんて分からないのか。

「それは、キラとかランカも一緒に行ってるよ」

冷静さを必死に押し出して答える。

「うん。まあいいけど。で、付き合ってるの?」

またビールを吹き出した。

「……そうなれば良いと思ってる。
 けど、そんな簡単な話じゃない」

脳裏に浮かんだのは、カナと福島。

「そっか。陽介も色々あるもんね。
 でも、前より素直に答えるようになったんじゃない?」

ゆずるが笑顔のエモートを出す。
そう言われて、ふと思い出した。
昔はゲーム中心で、プライベートのことは聞くな、
という空気を出していた気がする。

「お前に感化されたのかもな」

ウロウロ動くゆずるのキャラを見ながら、
心が少しほどけているのを感じる。

「そう!?じゃあ、感謝して!!」

こういうところは感化されたくない。

「そういうところは良くないと思っていることを、
 付け加えさせていただきます」

「え、なんで急に丁寧語!?」

久しぶりに声を出して笑った。

「お二人さん、なんか楽しそうじゃん」

グループチャットが立ち上がり、カナが声を掛けてくる。

「恵比寿、お疲れ」

「カナちゃん、お疲れ~♡」

俺たちは同時に返事をした。

「グルチャだし、本名でいいよ。
 あと、♡はヤメレ」

カナは笑いながら言う。

「今度さ、三人で飲み行かない?」

ゆずるが突然言い出した。

「どうした急に?」

「うん。急すぎなんだけど」

困惑して聞き返すと、

「うん。
 なんかさ、キラやランカの件で二人にすごく迷惑かけたから。
 そのお詫びと……」

少し間が空く。

「また二人に会いたいなぁ~って!!」

思わず吹き出した。

「迷惑とかは気にしてないけど、三人で会うのは良いな」

俺がまず答える。

「私は多少ゆずるには言いたいことあるから、
 ちょうどいいって思ってるけどね」

カナがサラッと怖いことを言う。

「え、ゴメンナサイ(´;ω;`)」

ゆずるは即レスで謝罪と泣き顔文字を送った。
また声を出して笑う。

久しぶりに声を出して笑い合う場所に、
積もっていた疲れや
毒々しい気持ちが祓われたようだった。

「じゃあ、近く飲みに行くか」



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