ショートストーリーズ①
コンビニ裏
その日は、営業の吉川と一緒に顧客宅へ商品説明に向かった。
帰り道、コンビニに寄ってほしいと伝えた。
「アイスコーヒーでいいですか?」
吉川は、私より一回り若いが、顧客からの信頼も厚い。
特に何か欲しいとは言っていないのに、こういう気遣いが自然に出てくるあたり、やっぱり大したものだと思う。
「ありがとう。俺、店横の喫煙所でタバコ吸ってくるわ」
「え、山本さん、勤務時間中は禁煙ですよ」
「硬いこと言うなよ。散々しゃべって疲れたんだから、これくらい許してくれ」
吉川は本当にしっかりした社員だ。ルールもきちんと守る。
そう考えると、年上のはずの自分のほうがだらしなく見えてくる。
少し日陰になった喫煙所に入る。
目隠しのように囲いが施され、外からはほとんど見えない。
年々、喫煙者への風当たりは強くなるばかりだ……そんなことを思いながら、一番奥に移動し、タバコに火をつけた。
「まじ……おま……に……」
囲いの向こう側から、かすかに声が聞こえた。
囲いの下にある細い隙間へ視線を落とすと、スニーカーがみえる。
どうやら二人いるらしい。
悪趣味だとは思いながらも、タバコを吸いがてら聞き耳を立てた。
「三上、本当に告白するのかよ」
「うん。もう気持ちを抑えられないんだ」
学生だろうか。大学生……いや、少し幼い。高校生かもしれない。
「酒井さん、今日の夕方のシフトに入ってるらしいから、そこでここに呼び出して告白するつもり」
「やめとけって。絶対相手にされないから」
どうやらこの二人は友達関係と思われる。
同じコンビニで働く“酒井さん”という女性に、三上くんは恋をしているらしい。
ふと自分の青春時代の、あの甘酸っぱい感覚が胸の奥でかすかに蘇った。
「酒井さん、人妻だぞ!! 絶対迷惑するって!!」
友人の声が、さっきより少し大きくなった。
おいおい……急に話が変わって来たぞ。
まあ、年上に憧れる気持ちも、恋に突っ走る感じも、この年代の“あるある”なのだろうが…。
けれど、既婚者か……それはさすがにダメだろう。
その昔、自分が慕っていた会社の先輩に告白したのを思い出した。
彼女も既婚者だった…。
「苦ぇ…」
そんなことを思いながら、少し複雑な気持ちで煙を吐いていると、吉川がアイスコーヒーを両手に持って声を掛けてきた。
「山本さん、行きますよ」
俺は片手を軽く上げて応え、タバコの火を消した。
車の助手席に座り、吉川が買ってきたアイスコーヒーを一口飲んだ。
「山本さん、何ニヤニヤしてるんですか?」
「ん? ちょっとアオハルってやつを楽しんだからだよ」
「なんすか、それ」
吉川は笑いながら、車を発進させた。
まあ、普通に考えて三上くんは振られるだろう。
俺もそうだった…。
それはたぶん財産なんだよ。三上くん。
春先のコンビニ裏。
まさかこんなアオハルに出会えるとは思わなかった。
