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物語 ~めぐり㉔~

《24》

翌日、社内には警察の人間が出入りしていた。
捜査令状をもとに、椋本の机や関連資料、
そして俺たちが作成した候補地の資料まで、
すべて段ボールに放り込まれていく。

自分の資料が乱暴に扱われるのを見ながら、
ため息が漏れた。

「まともに仕事なんかできる状態じゃないな」

河野はその様子を見ながらつぶやく。
他の社員達もその異様な光景を前に
仕事は手についていない。

「……そうだな」

同意するしかなかった。

「河野さん」

背後から天野さんの声がした。

「こんな状況では業務にならない。
 このリスト以外の社員については、
 今日は特別休暇として帰宅してもらってくれないか」

そう言うと一枚の紙を河野に渡す。

「警察から事情聴取したい社員を口頭で伝えられたので
 メモ書きで申し訳ないが、対応してくれるか」

その言葉に、俺は自然と河野が持つメモへ視線が行く。
……案の定、俺の名前がある。
しかも先頭だ……。

「佐々木さん、まず君からお話を聞きたいそうなので
 会議室の方に行ってくれるかな」

天野さんが視線を向けた先には、
二人の人物が立っていた。

「……イッテキマス」

俺は苦笑いを浮かべながら会議室に足を向けた。

会議室には向かい合って座れるように席が並べられていた。
案内されるまま、その席に向かった。

「お忙しいところ申し訳ない。
 私、警視庁 捜査一課の加賀谷と言います」

「私は、捜査二課の碓氷と申します」

刑事はそれぞれ名刺を渡してきた。
それを受け取りながら、

「すいません、名刺、机の方にあって、
 佐々木 陽介です」

と慌てて挨拶をする。
捜査一課は殺人。
捜査二課の名刺には“詐欺・横領等”と記されている。
なるほど、と心の中でつぶやく。

「名刺、お渡しした方がいいですか?」

恐る恐る尋ねると、加賀谷刑事は、

「お手数ですが、いただけると助かります」

とにこやかな笑顔を見せる。
俺は小走りに会議室を出て、自席に戻る。

「河野、他の奴にも名刺用意して入室しろって
 伝えておいてくれ」

そう言って名刺入れを持ち、再び会議室へ戻る。
二人に名刺を渡すと、加賀谷刑事が目を細めた。

「陽介さんは、この字なんですね。
 勝手に太平洋の洋と勘違いしていました」

にこやかにそう言う。

「加賀谷さん」

後ろから碓氷刑事が声を掛ける。

「あぁ、すいません。
 どうぞお座りください」

加賀谷刑事はそう言い、奥の席に碓氷刑事と並んで座る。
俺は二人の前の席に座った。

それを確認してから、碓氷刑事が口を開く。

「お話を伺いたいのは、
 三井商会における詐欺未遂事件のことと……」

続けて、加賀谷刑事が言葉を足す。

「それに関連していると思われる門田幹夫氏の件についてです」

三井氏の方は、すでに事件として扱われているのか。
門田氏の死亡は関連するかどうか確認なのか…事件性があるのか。
いくつか疑問が浮かぶ。

「門田氏の方は、今のところ、あくまでも“変死”扱いです。
 事件性の有無は断定されていません」

加賀谷刑事が、こちらの疑問を見透かしたように付け加えた。
穏やかな笑顔の反面、その目はこちらを探るかのような鋭さがあった。

「今回の詐欺未遂ですが、
 あなたと河野さんが三井さんに伝えたと聞いています。
 間違いありませんか」

碓氷刑事が手帳を開きながら質問してくる。

「はい。そうです」

「詐欺と判断した経緯を教えていただけますか」

俺は、本社移転プロジェクトの候補地選定から、
候補地が五つに絞られたこと。
自分は別の候補地担当だったこと。
その調査中に井川氏から今回の土地に“処分禁止”の登記を聞いたこと。
三井氏と面談したこと。 そのあらましを話した。

碓氷刑事はメモを取りながら聞いていたが、

「あなたが最初に所有者が別人だと知った時、
 河野さんに確認しなかったのはなぜですか」

と続けた。

「相続人全員と話がついている可能性を考えました。
 担当は河野でしたし、私は詳細を知らなかったので、
 まず自分の仕事を優先しました」

嘘ではない。
ただし、あの時点で俺は河野を疑っていた。

「そのままプレゼンに進めば、
 発表されるリスクがありましたよね」

「そうですね。
 ただ、発表前に私と河野で資料を精査する段取りでしたので、
 万が一、そのままでも指摘はできました」

「なるほど」

碓氷刑事はメモを取りながら頷いた。

「その後、河野さんが確認して、不正が明るみに出た?」

加賀谷刑事が口を挟む。

「そうですね。支社内で少し揉めました」

「揉めた、とは?」

「河野が謄本を確認して“処分禁止”を見つけて、
 椋本さんに確認に行ったんですが、
 そもそもその候補地は椋本さんから
 河野に紹介された土地だったようで、相当怒っていました」

そう話すと、碓氷刑事が加賀谷刑事に耳打ちした。

「なるほど。その話はこちらでも確認しています」

聴取は俺が最初のはずだが、その情報はどこからか。
疑問に思いながら耳を傾ける。

「佐々木さんは、門田氏と面識は?」

「いえ。ニュースで顔写真を見たのが初めてです」

「ふむ。では、椋本さんとの関係はどの程度ですか」

「四月に赴任したときが初対面です。
 以前も、異動してきてからも
 仕事上の関わりはほぼありませんでした。
 知っているのは社内の評価程度ですね」

もう少し威圧的な聴取を想像していたが、
空気は穏やかに進んでいた。

「なるほど。
 では、あなたは今回の土地売買が詐欺によるものだと判明した時、
 椋本さんの関与があると思いましたか」

碓氷刑事が真っすぐな目でこちらを見る。

「社内で揉め事がありましたし、
 椋本さんからの紹介という話は知っていましたので、
 ある程度の関与はあると思っていました」

視線を受け止めながら答える。

「ふむ。
 これは仮定の話ですが、もし門田さんが他殺だったとして、
 それに椋本さんが関与していると思われますか?」

加賀谷刑事が、試すような目でこちらを見据えた。

「加賀谷さん!」

碓氷刑事は咎めるような口調で加賀谷刑事の肩を掴む。

「仮定として……椋本さんのことも門田さんのことも
 私は詳しく知りませんが、椋本さんはそんな大それたことを
 やれるような人には見えませんでした」

冷静に答える。
俺の中の椋本は下衆ではあるが、せいぜい小悪党だ。
追い詰められても、そこまでの行動には至れない。
そう思う。

「なるほど……余計な質問でした。
 できれば忘れていただけると助かります」

加賀谷刑事は軽く頭を下げた。

「お時間を頂戴して申し訳ありませんでした。
 聴取は以上となりますが、
 また何かありましたらお話を伺うことも
 あるかもしれません」

加賀谷刑事はそう言うと起立して軽く会釈する。
俺は促されるように会議室を後にした。

"他殺の線もあると考えているのか?"

そう考えながら、自席に向かった。
執務エリアはほぼ警察の人間だけとなっていた。
俺たちの島には、河野と福島、それと天野さんがいる。

「終わりました」

そう伝えると、今度は河野が会議室に向かった。

「佐々木さんも今日はもう帰宅して大丈夫だよ。
 それと捜査は明日も行われるそうだから、
 明日も休みにするよ。
 思わぬ四連休だね」

天野さんは苦笑いしながら伝えてきた。
俺は自席に座ると深いため息をつく。
緊張していたのだろう、身体も痛い。

「明日も休みならこの後飲みに行きません?」

福島がそっと声を掛けてきた。

「福島さん、聴取あるんじゃないの?」

緊張感ないなぁと思いながら答えると

「河野さんの後です。
 待っててくださいね」

とにこやかに話す。
"まだ午前中なんだが……"
そう思いながらも酒でも飲まないとやってられないわな。
と思ってしまう自分も居て、

「わかった」

と答えた。



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