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物語 ~Fading World -8~

《8》The ability to see through

隼人は、母親の言葉を聞き、自らの浅はかさを痛感した。

「ごめん、母さんの事情も知らないのに」

美咲は、優しい笑顔でゆっくりと首を振った。

「いいのよ。これまで貴方に話すことを先延ばし続けた
 私たちにこそ問題があったの……」

涙を拭きながら話す母、そしてこちらを真っすぐに見つめる
父を見て、隼人はこれまで自分が体験した全てを告白した。
その中でも、隼人が“魔法の発動を視覚的に認識できる”という点には、
父も母も深く驚いていた。

「隼人、それはいつから?」

美咲は、自らを落ち着かせるように優しい言葉で尋ねた。

「この前の校門前の事件のとき。
 雨宮さんが炎を使う直前かな。
 そのあとは、白い空間で、姉小路さんが使ったとき。
 どんな魔法かは分からないんだけど、
 その場所がぐにゃって歪むのが見えているよ」

寛人と美咲は顔を合わせた。
それを見ながら、隼人は続ける。

「佐野さんと雨宮さんも同じような反応をしていた。
 そして、そんな能力は聞いたことがないって」

美咲は、隼人に向き直り、口を開いた。

「それは、母さんの一族——姉小路家でも、
 本当に一部の人がかつて使っていた魔法。
 『洞見』と呼ばれているわ。
 魔導書のようなものはなくて、廃れた物と
 聞いていたけど……」

美咲は、どこか戸惑ったような声だった。
ただ、隼人はどうしてそのような魔法が宿ったのか
理解できていない様子だった。

「その魔法は、攻撃したり守ったりする類のもの
 ではないと聞いているわ。
 ただ、集中して“視る”ことで、魔法の発動を視ることが
 できる。ということは語られているわ。
 熟練者になると、相手が自分に敵意を抱いているか
 どうかまで分かる……そんな話もあるわ。」

そう言われた隼人は、目を凝らす要領で父と母を見つめた。
父には薄く湯気のようなものがみえ、母にはそれが見えなかった。

「父さんのまわりには、ゆらゆらした湯気みたいなのが見える。
 でも、母さんには……何も見えない。」

隼人は見たままのことを伝えた。

「そう……やっぱり『洞見』で間違いないみたいね。
 私には紋様があるから魔力が見えないのは当然だし、
 人は誰でも多少は魔力を持っているから、
 寛人さんに揺らぎが見えるのも自然だわ……」

「……お父様に相談したほうがいいかもしれないわね。」

美咲は、寛人の方を向きながら相談をしていた。

「お忙しい方だから、すぐには難しいだろうが……
 事情を話せば、きっと会ってくださるはずだ。」

寛人も美咲の意見に同意している。

「隼人。近いうちに、おじい様に会いに行きましょう。」

突然の話に、隼人は思わず息をのんだ。

その夜、自室のベッドに横たわっても、隼人の目は冴えきっていた。
自分の手を見つめ、意識を集中してみる。
指輪には鈍く滞留するようなものが見えている。
自分はただ「視る」ことしかできないのだと、暗闇の中で痛感させられた。


——翌朝

通学路は、今日も雨だった。
強まったり弱まったりを繰り返しながら、止む気配はない。
朝のニュースは相変わらず賑やかだったが、
そのどれもが“魔法による災害”だとは一言も触れていない。

隼人は、あの事件の場所で足を止めた。
意識を研ぎ澄ませ、焼け跡を“視る”。
そこには、雨宮の髪色を思わせるような、
微かなオレンジの揺らぎが残っていた。

これが雨音さんの魔力。

そのすぐ横には、黒く淀んだ泥のような揺らぎが沈んでいる。

——これが、奴らの魔力。 隼人は息をのんだ。

隼人は、父と母との話のあと、様々な物を"視た"
様々な所に"残滓"を感じられた。
触れようと手を伸ばしても触れることも感じることもできない。
そして、それは何の反応も示さない。
不思議な体験だった。

「隼人くん、おはよう!」

いつもと変わらぬ弾けるような声で小春が挨拶をしてきた。

「小春、おはよう」

小春のまわりには、父よりも濃い魔力の揺らぎが立っていた。
「すごいな……」
心の中でそう呟きながら、隼人はほんの少しの歯痒さを覚えた。

「ん?そんなに見つめてどうしたの?」

小春は嬉しそうに隼人を見つめた。

「いや……小春は今日も元気だなって、そう思っただけだよ」

そう——自分には戦う力がない。
姉小路や佐野の言うとおり、動かずに待つしかない。
無力な自分が軽率に動けば、家族や小春にまで危険が及ぶかもしれない。
焦りを飲み込み、隼人は改めて心に誓う。
相手の非道さを忘れず、慎重に動く、と。

校門前には担任の向井が立っていた。
あの事件以来、日替わりで教員が校門に立っている。
今日は向井の番なのだろう。

向井を見た瞬間、隼人は息を呑んだ。
足元から全身へと立ちのぼる、溢れんばかりの“黒い”気配。
先ほどの残滓とは比べものにならないほど、禍々しい。
隼人の全身からサッと血の気が引き、心臓が警鐘のように鳴り響いた。

「おぉ、中村、津田、仲良く通学か?」

向井はいつもの調子で隼人と小春に話しかけてきた。

「せんせー、そんな大声でー、恥ずかしいですよ~」

小春の浮かれた返事とは裏腹に隼人は視線を外し、
少し俯くようにしながら

「……っす……」

と聞き取ることも出来ないほどの声であいさつをした。
隼人と小春は、向井の横を通り過ぎて校舎に向かった。

その後ろ姿を向井は黙って見つめていた。



今話のメタ木崎くん

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