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値上げは交渉術ではなく、数字の準備である|反・精神論 #19

値上げが切り出せない。
それは度胸の問題ではなく、
数字の準備ができていないからかもしれません。

原材料や外注費が上がっても、
取引先への値上げを切り出せない。
製造業の経営者から、よく聞く悩みです。
そして多くの場合、それは「言い出す勇気」の問題として語られます。

けれど、私は値上げを、
交渉術や度胸の問題だとは考えていません。
数字の準備の問題だと考えています。
値上げが通らないのは、押しが弱いからではなく、
「なぜこの価格でなければならないか」を
数字で示せていないからです。

値上げの準備とは、対象の製品ごとに
現在の原価を積み上げ、材料費がいくら上がったか、
外注費がどう動いたかを根拠資料として整え、
適正な価格を数字で提示すること。
感覚の「お願い」ではなく、構造の「説明」にすることです。

◤ 「お願い」が「説明」に変わった瞬間を、私は何度も見てきた

私は、値上げ交渉の場に、何度も立ち会ってきました。
そのなかで、はっきり分かったことがあります。
値上げが通るかどうかは、交渉のテーブルに着く前に、
ほぼ決まっているということです。

あるとき、長年の取引先への値上げを
切り出せずにいる会社がありました。
理由は「関係が壊れるのが怖い」。

気持ちは、痛いほど分かります。

私は、まず資料を作ることから始めました。
対象品の原価を工程ごとに積み上げ、
過去数年分の材料費や人件費の推移を一枚のグラフにする。
値上げ幅が、感情ではなく事実から
導かれていることを、目で見て分かる形にしたのです。

その資料を持って臨んだ交渉は、
拍子抜けするほどスムーズでした。
理由は、後で分かりました。

相手の購買担当も、社内で値上げを
通すための根拠を、実は欲しがっていたのです。
数字のある資料は、相手にとっても武器になる。
「お願い」では押し問答になっていたものが、
「説明」にした瞬間、対等な交渉に変わった。

私が用意したのは、度胸ではなく、相手も使える数字でした。

相手のが上申できるような資料を作り手間削減をする。
ようは相手を思う気持ちを大切にする。
相手はなんも分からないと決めつけるのは怠慢です。

「強い立場の相手には、数字を出しても通らない」
という現実もあるでしょう。
確かに、すべてが通るわけではない。
けれど、数字がなければ交渉のテーブルにすら着けません。
数字は、勝ちを保証はしませんが、土俵に上がる最低条件です。
準備がある分だけ、通る確率は確実に上がります。

具体的に、何を準備するか。
まず、対象となる製品の原価を、工程ごとに
分解して積み上げます。材料費、外注費、
加工にかかる時間。

次に、その原価が、過去数年で
どう動いたかを並べる。
三年前と比べて材料費が何%上がったか、
を一枚のグラフにする。最後に、その上昇分を、
どこまで価格に転嫁するかを決める。
全額か、半分か。

ここまで揃えば、値上げの依頼は
「お願い」ではなく「ご報告と、ご相談」になります。

相手は、感情ではなく数字に向き合うことになり、
こちらも、後ろめたさなく交渉に臨める。
準備とは、自分の気持ちを支える杖でもあるのです。

値上げの成否は、交渉のテーブルに着く前に、
ほぼ決まっています。数字が見える状態を
作っておけば、交渉は説明で済む。

数字がなければ、どれだけ気合を
入れても押し問答になる。
これも、反・精神論の一場面です。

そして、こうした交渉をするには、
現状を数字で見える化しておくことが
前提になります。原価も、コストの推移も、
数字で示せなければ説明にならない。

だからこそ、情報基盤の整備は、
いまの製造業にとって必須項目になるのです。

正直に言えば、私は昔、値上げの資料づくりを
後回しにしていました。
原価を工程ごとに分解する作業が、
面倒だったからではありません。
分解してしまうと、これまで自分が
いくら取りこぼしていたかが、
数字で出てしまうからです。

見たくなかった。
「関係が壊れるのが怖い」と言いながら、
本当に怖かったのは、相手ではなく自分の見積の甘さでした。
だから今は、交渉の前ではなく、
平時に原価を開くようにしています。


次回からは、その数字を支えるデジタルの話に入ります。

【#19】
第18話 https://note.com/human_crab7218/n/ne67ac2884c59    
第20話 https://note.com/human_crab7218/n/naa2235dcaa1c

✓ 今日できる一歩
・値上げしたい取引先を1社選び、
 対象品の原価を工程ごとに積み上げる。
・材料費・外注費の数年の推移を1枚にまとめる。

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