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海を「支配」ではなく「共同管理」へ― FOIPを海洋ガバナンスとして再考する ―


はじめに

ホルムズ海峡、南シナ海、台湾海峡――。一見すると異なる地域の問題に見えるが、その根底には共通する構造が存在すると考えられる。

それは、「沿岸国の管理権限」と「利用国の航行の自由」をいかに調和させるかという海洋ガバナンスの課題である。

近年、海洋問題は領有権紛争や大国間競争の文脈で語られることが多い。しかし、海洋は世界経済を支える国際公共財でもある。海を「誰が支配するか」という視点だけでは、持続可能な海洋秩序を構築することは難しい。

本稿では、ホルムズ海峡を起点に現代海洋秩序の構造を整理し、日本が提唱してきた「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」を海洋ガバナンスの観点から考察する。

ホルムズ海峡が示した課題

2026年春以降、ホルムズ海峡では米国とイランの軍事的緊張が高まり、世界のエネルギー輸送への影響が懸念された。

ホルムズ海峡は世界有数のエネルギー輸送路であり、日本を含む多くの国にとって死活的なシーレーンである。一方で、沿岸国には安全保障や海洋管理に関する正当な関心も存在する。

このため、単純に「航行の自由」と「沿岸国の主権」の対立として捉えるだけでは十分とは言えない。

むしろ重要なのは、沿岸国が果たすべき管理責任と、利用国が必要とする自由な航行をどのように両立させるかという視点である。

南シナ海・台湾海峡にも共通する構造

同様の構造は南シナ海や台湾海峡にも見られる。

もっとも、それぞれの海域は歴史的背景や法的論点、安全保障環境が異なるため、同一視することは適切ではない。

南シナ海では領有権や海洋権益が主要な論点であり、台湾海峡では政治・安全保障上の要素がより色濃い。

しかし共通するのは、海洋を利用する国と管理する国の利益をどのように調和させるかという課題である。

また、「沿岸国」と「利用国」は固定された立場ではない。例えば中国は南シナ海では沿岸国としての論理を強調する一方、ホルムズ海峡ではエネルギー輸送国として航行の自由を重視する立場を取る。日本や韓国も海域によって両方の立場を有している。

したがって、現代の海洋問題は国家間の単純な対立ではなく、海洋空間をどのように管理するかというガバナンスの問題として整理することができる。

日本に求められる役割

日本は資源・エネルギー・食料の多くを海上輸送に依存する海洋国家である。

そのため、航行の自由や法の支配を重視することは理念ではなく、安全保障と経済活動を支える現実的な国益である。

一方で、沿岸国が抱える安全保障や海洋管理上の課題にも配慮しなければ、安定した海洋秩序は維持できない。

日本はこれまで、海上保安庁による能力構築支援、防衛省の能力構築支援事業、OSA、JICAなどを通じ、各国の海洋安全保障能力向上に取り組んできた。

これらの取組は、海洋秩序を軍事力だけで維持するのではなく、能力構築や制度整備を通じて支えるという日本の特徴を示している。

海洋ガバナンスという発想

今後は、海洋秩序を「誰が支配するか」という発想から、「誰が責任を分担して維持するか」という発想へ転換することが重要である。

そのためには、国連海洋法条約(UNCLOS)を基盤としながら、IMO、ReCAAP、CUES、IPMDAなど既存の制度を相互に連携させる方向性が考えられる。

これは新たな軍事同盟や国際機関の創設を意味するものではない。

法の支配、海上状況把握(MDA)、危機管理、能力構築支援、海洋インフラ防護など、既存の取組を有機的に結び付けることで、海洋ガバナンスの実効性を高めようとする考え方である。

また、日本だけでなく、韓国、ASEAN諸国、豪州、インドなど、海上交通路の安定という共通利益を持つ国々との協力も重要な選択肢となり得る。

FOIPを制度へ発展させる

筆者は現役時代から、FOIPが安全保障協力や特定国への対抗概念として理解される場面が少なくないことに違和感を抱いてきた。

もちろん、安全保障協力は重要な要素である。しかし、それはFOIPの目的ではなく、海洋秩序を維持するための手段の一つである。

FOIPの本質は、法の支配、航行の自由、連結性、能力構築支援などを通じ、インド太平洋を国際公共財として維持することにあると考えられる。

その意味で、既存の制度や協力を有機的に結び付ける「インド太平洋海洋安全保障協力の枠組み」という方向性は、FOIPの理念を海洋ガバナンスとして具体化する一つの選択肢となり得る。

おわりに
海洋を巡る対立は今後も続く可能性が高い。しかし、海を「支配する対象」として捉えるだけでは、持続可能な秩序は構築できない。

日本には、法の支配と航行の自由を堅持しつつ、沿岸国の管理責任にも配慮した海洋ガバナンスを提案し、制度と実務の両面から地域協力を発展させていくことが期待される。

FOIPもまた、理念として支持を得る段階から、その理念を具体的な制度や協力へと発展させる段階に入りつつあるのではないだろうか。

海を国際社会が共同で維持すべき公共空間として捉え直すことが、インド太平洋の安定と繁栄につながる重要な視点であると考える。

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