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「君の代わりはいくらでもいる」と、部下に言っていた頃の話

20代で、最年少に近い形で昇進した。部下が5〜6人ついた。うれしかったのは最初だけで、今振り返ると、あの頃の自分は、いちばんやってはいけないマネジメントをしていた。


計画は立てた。あとは「やってください」だけだった

チャレンジングな案件を次々やるベンチャーで、僕はWBS(作業の分解と計画)を作るのは得意だった。計画自体は、たぶん今見ても大きくは外していない。問題はその先だ。僕は部下に、その計画を「やってください」と渡すだけだった。

そして、遅れたり品質が悪かったりすると、こう言った。

  • 「他の人はできてるよ」

  • 「これ、バグってて使い物にならない」

  • 「お客さんが怒ってる」

  • 「君の代わりはいくらでもいる」

書いていて恥ずかしい。でも、本当にこういう圧をかけていた。

圧の行き着く先は、誰も動かず、自分ひとりで全部やることだった

当然、それでうまくは進まない。ITの現場だから、「気合いを入れろ」で直るものではない。渡されたコードがバグだらけで、「直して」と言っても、どうしても直らない。本人に、やり方が見えていないからだ。

間に合わない。最後はどうなるか。僕が巻き取る。徹夜、なんて甘いものじゃない。月に300時間残業していた時期もある。給料は、他の社員より月10万円ほど高いだけ。割に合う・合わないの話ですらなかった。

パワーマネジメントの行き着く先は、結局、自分ひとりで全部やることだった。人を動かすためにやっていたはずが、誰も動かせず、自分の首を絞めていた。

元上司が、僕の部下になって、辞めた

象徴的なことがある。かつて自分の上司だった人が、立場が逆転して僕の部下になった。そこに僕がいつもの圧をかける。当然、辞めるという話になった。

正直に書くと、あの頃は感覚が麻痺していた。これは自分だけの問題ではなく、会社全体で同じことが起きていた。結果を出せば昇進する会社で、退職率は年に30〜40%。3年もすれば社員がほぼ入れ替わる、そういう会社だった。

でも、人のせいにはできない。あの人が辞めたのは「僕が上司になったから」ではなく、僕の上から目線や、分かりにくい指示のほうが、たぶん原因として大きかった。

僕は、Skillの問題を、Willの問題と取り違えていた

今になって、あの失敗に名前をつけられる。

やる気(Will)と能力(Skill)は、別物だ。僕がやっていたのは、圧をかけて「やる気」を上げようとすることだけ。でも、間に合わなかった部下の多くは、やる気がなかったんじゃない。やる気はあるのに、やり方が分からなかった。ここに圧をかけても、何ひとつ直らない。必要だったのは、責めることじゃなく、やり方を一緒に作ることだった。


やる気(Will)と能力(Skill)は別物——必要なマネジメントが違う


しかもデータで見ると、もっと救いがない。ギャラップの調査では、日本で仕事に熱意を持てている人はたった6%(世界平均でも2割前後)。仕事に前のめりで関われている人がそもそもこれだけしかいないなら、残りの大多数に"やる気"で圧をかけても、多くは空回りする。僕はそれを、ずっとやり続けていた。


「圧をかければ自走する人」は日本ではわずか6%(Gallup 2024)


今ならこう思う。テスト駆動でもプルリクでも、品質を"見える化"する仕組みがあれば、「できてない」と責める代わりに、「ここが問題だね」と同じ画面を一緒に見られた。当時はその文化すらなかった。仕組みで解けたことを、僕は根性で解こうとしていた。

10年やって、今は誰も辞めない

独立して10年ちょっと、今も部下やチームと仕事をしている。人数はあの頃よりずっと多いのに、圧をかけなくても辞める人はいないし、組織はそれなりに回っている。

だから、あの頃の自分は間違っていたと、はっきり言える。必要だったのは、もっと強く言うことじゃなかった。チームが自分なしでも回る仕組みを作ることと、やり方が分からない人をコーチングすること。当時の僕にはできなくて、今はできる。

その"どうやって"の話は長くなるので、また別で書きます。今日はまず、いちばん恥ずかしい失敗のほうを、正直に置いておきたかった。

もし今、昔の僕みたいに「なんでできないんだ」と部下に圧をかけている人がいたら——たぶんその相手は、サボっているんじゃない。やり方が、見えていないだけかもしれない。


※本記事のエンゲージメント数値はGallup「State of the Global Workplace」に基づく(日本の"熱意ある社員"6%/世界平均は2割前後)。Will/Skillマトリクスの考え方はMax Landsberg『The Tao of Coaching』ほかを参照。

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