月夜のブランコと銀のボタン
夜空のいちばん高いところに、不思議なブランコが揺れています。
それは、星屑の鎖で吊るされた、金色の細い三日月。
昼間のあいだ、ブランコはだれのものでもありません。お日さまの光に溶けて、だれの目にも見えなくなるからです。けれど、街の灯りがぽつり、ぽつりと灯り、夜のカーテンが引かれると、静かにその姿を現します。
そのブランコに座ることができるのは、世界中でたった一人。
**「夜に迷子になった子ども」**だけでした。
ある晩、小さな女の子・ルルは、お気に入りのぬいぐるみを失くして泣いていました。泣きながら窓の外を眺めているうちに、どうしてだか、部屋の床がふうわりと浮き上がり、気がつくとルルは夜空の真ん中に立っていたのです。
「おいで、小さな迷子さん」
どこからか、鈴を転がしたような声が聞こえました。
見上げると、すぐ目の前に、やわらかく光る三日月のブランコが揺れています。
ルルがおずおずと腰を下ろすと、ブランコは音もなく、ゆっくりと揺れ始めました。
ぎー、ちゃん。
ぐー、ちゃん。
不思議なことに、ブランコが前に揺れると、お留守番をしているときの寂しい気持ちが、夜風にさらわれて消えていきました。
後ろに揺れると、ぬいぐるみを失くして悔しかった涙が、きらきら光る星の粉になって、暗闇に溶けていきました。
「ここはね、涙を星に変える場所なんだよ」
声の主は、ブランコの鎖に結ばれた、小さな青い星でした。
「地上でだれかが涙を流すと、月は少しだけ細くなって、こうしてブランコになるんだ。そして、悲しみが夜空に溶けきると、また丸い満月に戻るのさ」
ルルは、ブランコに揺られながら、はるか下に見える街を見下ろしました。
おうちのあかりが、まるで地上の星のようです。あの中のどこかに、自分を心配してくれているお母さんやお父さんがいる。そう思うと、胸の奥がぽかぽかと温かくなってきました。
「わたし、もう寂しくないや」
ルルが笑顔になると、三日月のブランコは、ひときわ大きく夜空を揺らしました。
その拍子に、ルルのポケットから**「銀のしずく」**がひとつ、ぽろんとこぼれ落ち、地上のルルの部屋へと落ちていきました。それは、ルルが流した最後の涙が、月の光で固まったものでした。
「さあ、おかえり、小さな迷子さん。明日の朝、目が覚めたら、きっと良いことがあるよ」
「……ルル、朝よ、起きなさい」
お母さんの声で目が覚めたとき、ルルは自分のベッドの中にいました。
窓の外は、まぶしいくらいの青空です。
「あれ、夢だったのかな……」
ルルが起き上がろうと布団をめくると、足元に、失くしたはずのぬいぐるみがちょこんと座っていました。そしてその腕の中には、見たこともない、きらきらと光る銀色のボタンが握られていたのです。
ルルはそれをぎゅっと握りしめ、窓の外の、まだうっすらと残る白い月を見上げて、小さく笑いました。

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