万象のうた
其の一:月を拾った子ども
紺青の闇 零れ落つ星の海
静寂を破るは 寄せる波の鼓動のみ
少年は 膝を折り 祈りを捧ぐように手を伸ばす
水面に揺らぐ 泡沫の月
誰もが見捨てた 冷たい光を
彼は そっと すくい上げた
指先から伝わる 清冽な記憶
月は 少年の静けさを吸い込み
少年は そのひかりの中に
ずっと探していた 自分を見つけた
これは 拾ったのではない
失われた光を この手に取り戻したのだ
深く沈んだ 時の彼方から

其の二:虹のかかる峠
石畳の坂道 陽光に洗われて
雨の匂いは 遥か彼方へと去りぬ
峠の地蔵は 全てを見届けたかのように
見上げれば 空の裂け目に 極彩色の架け橋
神々が渡るかのような 刹那の奇跡
それは 過ぎ去った悲しみの 終わりを告げる賛歌
幟(のぼり)が風に舞い 命の息吹を伝える
村は まだ眠りの中なれど
この虹を渡れば 誰もが 新しい自分に出会える
峠を越える者は 過去を置き去りにはしない
悲しみさえも この虹の一部として
光の中へ 連れて行くのだ

其の三:雨を呼ぶ小鳥
紫陽花の褥 濡れた葉が光を弾く
空は 重く 哀しみを湛えた雲に覆われ
世界は 息を潜めて その時を待っていた
青き小鳥は 一羽 静かに枝にとまる
その小さな喉から 溢れ出たのは
音符という名の 清らかなる涙
天へと昇る その歌声は
雲を穿ち 雷鳴を呼び 大地を震わせ
そして 恵みの雨が 降り注いだ
雨は 汚れを洗い流し 乾いた心を潤す
小鳥の歌は 再生の儀式
その一滴一滴に 明日への祈りが込められている
世界が再び 光を取り戻すその時まで
小鳥は 歌い続ける
降り頻る雨の中で

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