黄金の葉と月の残り香
その竹林は、地図には載っていない。ただ、心の奥底に「静寂」を求めた者だけが、霧の晴れ間にたどり着ける場所だと言われています。
そこには、**「月詠(つくよみ)の姫」**と呼ばれる女性が一人で住んでいました。彼女の纏う着物は、夕焼けを閉じ込めたような朱色から、朝霧のような白へと美しく移り変わります。
姫が手に持っているのは、普通の竹の葉ではありません。それは、百年に一度、月の光が最も純粋に降り注いだ夜にだけ生まれる**「金色の竹葉」**です。
その葉は自ら柔らかな光を放ち、触れる者の心を透き通らせる力がありました。姫がその葉をそっと指先で包み込むと、周囲の竹林は呼応するようにざわめき、吊るされた提灯には魔法の灯がともります。
「この光が消えぬうちに、風に願いを託しましょう」
姫が囁くと、黄金の葉から一筋の光が溢れ出しました。それは舞い散る花びらと共に風に乗り、竹林を抜けて、今まさに絶望の淵にいる誰かの元へと届くのです。
里の老人たちは、静かな夜に竹が鳴る音を聞くと、こう言い合います。
「今夜もまた、姫様が新しい希望を編んでいらっしゃる。あの森のどこかで、黄金の光を灯しながら……」
彼女は今も、夜と朝の狭間で、世界を照らすための小さな光を守り続けているのかもしれません。

