月夜の石臼/銀の羽が灯した祈り
【お題①:しゃべる石臼】
誰もいない峠の廃屋で、月光を浴びて回る影がある。
重い石の腹を擦り合わせ、呪文のように独り言をつぶやく。
「ゴロリ、ゴロリ。愛も憎しみも、挽いてしまえば同じ粉よ」
しゃべる石臼は、この世のあらゆる「執着」を飲み込み、
無機質な灰へと変えてしまう、冷酷な時の番人。
【お題②:雪女が落とした手紙】
そこへ風が、一枚の薄氷を運んできた。
それは、恋を知った雪女が落とした手紙。
指先が触れれば凍りつく、けれど中身は火傷するほど熱い想い。
「あなたを愛してしまった。だから、私は消えなければならない」
文字は滲み、青白い光を放ちながら、石臼の口へと吸い込まれていく。
【お題③:鶴が返しそびれた恩】
「待っておくれ、その想いを壊さないで」
震える声で呼び止めたのは、白銀の羽を汚した一羽の鳥。
それは、かつて命を救われながら、
正体を見られた恥じらいに負けて逃げ出した、鶴が返しそびれた恩。
返せなかった感謝、届けられなかった誠実、
重すぎる「未完の心」を背負い、彼女は飛び続けてきた。
石臼は、鶴の涙を見て動きを止めた。
「ほう、石よりも重い未練を抱えた鳥か」
鶴は雪女の手紙をその胸に抱き、
返せなかった「恩」という名の熱を、手紙の「凍えた恋」へと注ぐ。
するとどうだろう。
石臼が挽こうとした絶望は、一筋の温かい雫(しずく)に変わり、
固く閉ざされた冬の土を濡らした。
恩を返しそびれた後悔も、
届かなかった恋文も、
石臼が回るのをやめたとき、
春を呼ぶための「祈り」に変わったのだ。

🎈お題①:「しゃべる石臼」
🐾お題②:「雪女が落とした手紙」
⏳お題③:「鶴が返しそびれた恩」
