かさじぞうと雪の夜
しんしんと雪が降り続く、ある冬の夜。この山深い村には、古くから伝わる奇妙な言い伝えがありました。
それは、**「雪が最も深く積もる夜、森の奥に現れる五体のお地蔵様は、失われた時間の一部を預かっている」**というものです。
記憶を運ぶ老人
村の誰もがその話をただの迷信だと思っていたある夜、村に一人の老人が現れました。彼の名前は茂作。かつてこの村で生まれ育ち、今は都会で暮らす、腕利きの時計職人でした。
茂作は、手に古びた提灯を持ち、もう片方の手には小さな雪囲いの笠を持っています。彼は迷うことなく森の奥へと進んでいきました。まるで、何かに導かれるように。
そして、開けた場所に出た茂作の目の前に、五体の、雪をかぶった小さなお地蔵様が、静かに並んでいます。
失われた「一日」の記憶
茂作は、その一番端のお地蔵様の前に、持ってきた笠を供えました。
そして、提灯の光をそのお地蔵様の顔に近づけ、静かに語りかけました。
「……五十年ぶりだな。私の『一日』を、返しにきたよ」
お地蔵様たちは、何も言いません。ただ、茂作の提灯の光を浴びて、うっすらとオレンジ色に輝いているだけです。
かつて茂作は、この村で愛する女性を病で亡くしました。そのショックから立ち直れず、彼は彼女と過ごした「最後の一日」の記憶を、この森にいたお地蔵様に預けて、村を去ったのです。
「あの時は、あまりの悲しみに耐えられなかった。でも、私も老いて、死が近づいてきた。……やっぱり、あの時の記憶を持って、あの世に行きたいと思ったんだ」
提灯の光と時の逆流
茂作がそう言うと、お地蔵様の体が、提灯の光とは異なる、青白い不思議な光を放ち始めました。
そして、その光は茂作の提灯に吸い込まれていきます。
その瞬間、茂作の脳裏には、五十年前に失った、彼女との最後の一日の記憶が鮮明に蘇りました。
彼女の笑顔、彼女が言った最後の言葉、そして二人で見た雪景色……。
「……ああ、ありがとう。やっぱり、私の人生は、あの『一日』があったからこそ、意味があったのだ」
茂作は、涙を流しながらお地蔵様に頭を下げました。
お地蔵様の青白い光は消え、また静かな石像に戻りました。
次の日の朝。村人たちは、森の入り口で、提灯を手に、安らかな表情で眠るように息を引き取っている茂作を見つけました。
茂作の傍らには、五体の雪をかぶったお地蔵様が、変わらず静かに並んでいました。
ただ一つ違っていたのは、一番端のお地蔵様には、茂作が供えた古びた笠が、しっかりと雪を遮っていることでした。
「ああ、茂作さん」
村人たちは、冷たくなった茂作の体を抱きかかえ、その死を深く悼みました。
けれども、彼の頬を伝う涙が凍りついたその顔には、冬の厳しさに抗うような険しさは微塵もありません。
そこには、長い旅路を終えてようやく温かな火の側に辿り着いたかのような、不思議な安らぎと満足感が漂っていました。

第42回 3つのお題(日本むかし話)
🎈お題①:「かさじぞうと雪の夜」
🐾お題②:「山の神さまと小さな村」
⏳お題③:「川から流されてきた不思議の箱」
#3つのお題に空想のひらめきを
お題④イラストから空想した世界を書いて下さい。
