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越境

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 オートロックの施錠される音がした。
 
 鳴海はひと呼吸おいてワークスペースを離れ、奥のバースペースへ入る。真帆はいつものスツールには座っておらず、カウンター内にいた。鳴海は一瞬止まったようだった。うつむき、かすかに笑みを浮かべる。

「真帆。そこで今、作ってくれるか。ロングアイランド・アイスティーだ。君のための一杯を」
息をのむ真帆。

「コリンズグラスに氷。テキーラ15」
真帆がグラスを選び、氷を入れる。
鳴海はメジャーカップを渡す。
「ラム15」
真帆がカウンターに並ぶスピリッツ類からボトルを選び、計量し、グラスへ注いでゆく。
「ジン15」
「鳴海、どうして。これ飲むのやめとけって、前に言ってた」
「ウォッカ15。次は」
鳴海はカウンターへ入り、琥珀色の瓶を後ろの棚から取り出す。蓋を開けた。
「コアントロー15」
背後から、左手のメジャーカップに注ぎ込む。
「レモンジュース30。真帆、覚えてるか」
耳許に、いつになく低い声。
メジャーカップを逆さにしたところへ、続けてレモンジュースを注ぐ。
「鳴海」
「ガムシロップと、最後にコーラ」
その場で動けなくなった真帆に、鳴海は選ばせる。
「さあ、どうする」
飲むか、飲まないか。

「鳴海」
「約束は覚えているはず。言って」
「カウンターに、入らない」
真帆がぎゅっとまぶたを閉じた。

「まずは、飲んでごらん。大丈夫、アイスティーだ」
「……」
「それとも飲まずにそのまま帰るか。――おれは、どっちでも構わない」
「かえ……らないよ……」
真帆の瞳に、鳴海の潤んだ視線が絡みつく。天球儀は止まっている。

グラスを片手に、真帆をカウンターの外へと連れ出した。
カクテルを口に含み、グラスを置く。
真帆の髪に手を差しこむ。




「……思い出して」





©極夜




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