『ゴールド ―境界の国―』第1話 「十五の会―境界に立つ子どもたち―」
『ゴールド ―境界の国―』あらすじ
この国では、生まれた子どもは三十日以内に国へ預けられる。
十五歳で「色」を授かり、二十歳で役割が決まる。
森、水、炎、月、光。
五つの国は、それぞれ異なる使命を持ち、人々は適性によって人生を与えられていた。
十五の儀式を迎えた少年ノアは、本来なら決まるはずの色が定まらず、「ゴールド」と呼ばれる特別な存在となる。
それは、どの国にも属さず世界の揺れを観測する権限だった。
人は役割で生きるのか。それとも、大切な人を想う心で生きるのか。
五つの国を巡りながら、ノアは世界の仕組みと、人の温かさ、そして本当に守りたいものを知っていく。

『ゴールド ―境界の国―』
第1話 「十五の会―境界に立つ子どもたち―」
街には、子どもがいなかった。

朝になれば店が開く。
石畳の道には焼きたてのパンの香りが流れ、人々が笑いながら行き交っている。
畑へ向かう人。
荷物を運ぶ人。
道具屋の主人は店先で金槌を振り、広場では誰かが歌を歌っていた。
穏やかな街だった。
ただ、一つだけ足りないものがある。
子どもの声だ。
走り回る足音も。
泣き声も。
笑い声もない。
街には、大人しかいなかった。
この国では、生まれた子どもは三十日以内に国へ預けられる。
それが昔から続いている制度だった。
親が育てるのではない。
国が育てる。
大人はそれぞれ役割を持ち、国を支える。
子どもたちは施設で平等に育てられる。
同じ教育。
同じ生活。
同じ機会。
そして、優秀な人材を生み出す。
それが、この国の仕組みだった。
誰も疑わない、完成された制度だった。
昔は違ったらしい。
授業で何度も聞かされた。
生まれた場所で人生が決まる人がいた。
学べる人と学べない人がいた。
力を持つ人と持たない人がいた。
だから今の制度ができたのだと。
誰も取り残さないために。
皆が平等に未来を選べるように。
国の上層部によって作られた、完璧な制度なのだと教えられてきた。
施設の大人たちはそう言っていた。
「起きろーー!!」
バサッ!
勢いよく布団が剥がされた。
「うわっ!」
飛び起きる。
目の前には満面の笑みを浮かべたレイがいた。
朝日を背中に受けていて妙に眩しい。
「また寝坊!」
「……まだ朝だろ」
「朝じゃない!」
レイが窓を指差した。
「今日は十五の会の説明だぞ!」
その瞬間、一気に眠気が消えた。
「あ」
今日は十五の会の説明会だった。
十五歳になる全員が参加する大切な会。
七日後に行われる儀式の説明がある。
入口の方ではシェルが腕を組んでいた。
少し呆れた顔をしている。
「早くしないと朝ご飯なくなるよ」
「やばっ!」
レイが飛び出す。
「待て!」
慌てて追いかける。
「だから走るなって!」
シェルの声が後ろから飛んできた。
三人で廊下を走る。
窓から差し込む光が床に長く伸びていた。
庭には花が咲いている。
春になると青くなり、夏になると白くなる不思議な花だった。
小さい頃から見てきた景色。
施設へ来た時から、ずっと見てきた景色だった。
朝起きる。
勉強する。
遊ぶ。
怒られる。
笑う。
毎日繰り返される日常。
気付けば隣にはレイとシェルがいた。
いつから一緒だったか覚えていない。
ただ三人でいるのが当たり前だった。
食堂へ入ると、すでに多くの人が席についていた。
温かいスープの匂い。
焼きたてのパンから立つ湯気。
いつもなら誰かが笑っていて、誰かが走って怒られている。
でも今日は少し違った。
皆、どこか落ち着かない顔をしていた。
席に座る。
隣ではレイが珍しく静かだった。
スープを見つめたまま動かない。
「どうした?」
そう聞くとレイは少し考えてから言った。
「なんか急に実感してきた」
「何が?」
「全部」
そう言って笑う。
でも少しだけ、いつもと違う笑顔だった。
隣ではシェルが窓の外を見ていた。
風が吹いている。
花が静かに揺れていた。
小さい頃、授業で聞いた話を思い出す。
山の上には、一つの建物がある。
天衡舘。
十五歳になった子どもたちが集められる場所。
そこで初めて色を授かる。
森。
水。
炎。
月。
光。
五つの国へ進むための色。
館の中央には、大きな円形の石が置かれているらしい。
それに触れた時、人の中にある何かが反応する。
そして、自分の進む未来が決まる。
十五歳から二十歳まで、それぞれの国で学ぶ。
二十の儀式で、本当の役割が決まる。
小さい頃の自分たちは、その話が大好きだった。
レイなんて特にそうだった。
「山の頂上には空へ続く扉があるらしい」
「絶対嘘だろ」
「いや本当だって!」
「誰が言ってたの?」
「誰か」
「絶対嘘」
シェルが笑う。
「夜になると星が降るらしい」
「増えてるじゃん」
「今のは本当!」
「嘘だな」
三人で笑った。
あの頃の十五の会は、ずっと先の話だった。
自分たちには関係ない未来だった。
いつか来る日。
それくらいにしか思っていなかった。
でも、その日が近付いていた。
ふと窓の外を見る。
高い塀の向こうには街が見えていた。
煙突から上がる煙。
パン屋へ向かう人たち。
笑いながら歩く大人たち。
でも、やっぱり子どもはいなかった。
気付けば口から言葉が漏れていた。
「親って、どんな人なんだろう」
レイが止まる。
シェルもこちらを見る。
「急にどうした?」
「いや……別に」
「会ったことないからな」
レイは笑った。
でも、その顔は少しだけぎこちなかった。
この施設の子どもたちは親を知らない。
二十歳になるまで会うことは許されていない。
十五の儀式。
それは、この国における最初の分岐だった。
森、水、炎、月、光。
五つの国には、それぞれ役割と性質がある。
十五歳で色を授かり、導かれた国で学び、成長する。
そして二十の儀式で、最終的な役割が決まる。
その時になって初めて、親と会うことが許される。
国を越えることもできる。
けれど中には、会えなくなる者もいた。
住所が残されていなかったり、事情があったり。
施設の大人たちは、必要ないからだと言っていた。
そう教えられてきた。
でも。
知らなくていいことと、知りたくないことは違う。
「会ってみたいな」
その時だった。
ゴォォォン――
低い鐘の音が施設全体に響いた。
空気が変わる。
誰も話さない。
『十五の会、説明を始めます』
『全員、大広間へ集合してください』
レイが小さく言った。
「……始まるな」
シェルも黙っていた。
あと七日。
七日後、自分たちは未来を決める色を授かる。
その色は、五つの国のいずれかへ導く運命の色。
その時はまだ知らなかった。
自分の未来が、自分の人生だけではなく、世界そのものを揺らすことになるなんて。
(第一話 終)
🌙1話の曲 『ゴールド ―境界の国―』の始まりの音。

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noterゆらり(ゴールド|境界の国)
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