『ゴールド ―境界の国―』第2話 「五つの国 ―選ばれる未来―」
『ゴールド ―境界の国―』
第2話 「五つの国 ―選ばれる未来―」
鐘の音が鳴り終わる頃には、施設中の子どもたちが大広間へ集まっていた。
今日はいつもと違う空気があった。
誰も声を大きくしないまま、ざわめきだけが広がっている。
皆、自分の未来の話だと分かっていた。
ノアたち三人も並んで座った。
レイは落ち着かない様子で周囲を見回している。
「なんか今日、人多くないか?」
「毎年こうじゃない?」
シェルが言う。
「いや、なんか違う」
「何が?」
「……分かんないけど」
前方では施設長が静かに立っていた。
白い長い衣。
背筋は真っ直ぐで、まるで動かない。
少しずつ話し声が消えていく。
やがて広間が静まり返った。
施設長がゆっくり口を開く。
「十五の会まで、あと六日です」
空気が少しだけ変わる。
「皆さんは六日後、天衡舘(てんこうかん)のある山へ向かいます」
天衡舘(てんこうかん)。
山の頂に存在する、世界の判断を行う場所。
人が決めるのではない。
記録し、観測し、導き出す。
それが天衡舘だった。

施設長は静かに続けた。
「天衡舘へ向かう最後の道だけは、昔から乗り物が許されていません」
小さなざわめきが広がる。
「山の途中までは移動車も使えます。ですが最後は、自分の足で登ってもらいます」
誰かが小さく呟いた。
「なんで……?」
施設長は少しだけ目を細めた。
「理由は残されていません」
「道幅の問題とも言われていますが、真実かどうかは分かっていません」
「ただ、古い言葉だけがあります」
部屋が静かになる。
「――世界の答えは、自分の足で迎えに行け」
誰も声を出さなかった。
「そして未来を決める色を授かります」
色。
その言葉だけで、空気が張り詰めた。
色は人生を決める。
役割を決める。
配属先を決める。
誰もが知っている言葉だった。
施設長は続ける。
「この世界には五つの国があります」
その瞬間、壁一面に光が広がった。
森、水、炎、月、光。
最初に現れたのは、燃えるような赤。
「炎の国」
映し出された景色は山々に囲まれた大地だった。
熱を帯びた空気。
揺れる炎の光。
鍛冶、戦闘、建築。
前へ進む力を持つ者たちの国。
レイの目が輝いた。
「うわ……かっけえ」
「まだ決まってないよ」
シェルが言う。
「でも絶対いい」
次に現れたのは透き通る青。
「水の国」
大きな湖と流れる川。
静かな水面が揺れている。
治療、流通、生活技術。
支える力を持つ者たちが集まる場所。
「シェルっぽい」
レイが笑った。
「なんで?」
「落ち着いてる」
「適当」
そう言いながらも少し笑っていた。
次に映ったのは深い緑。
「森の国」
木漏れ日が揺れている。
風が葉を動かし、静かな音が広がる。
植物、薬、生命。
命を育み、癒やす者たちの国。
ノアは少し気になった。
植物の授業は昔から好きだった。
葉の形や薬草の名前を覚えるのは嫌いじゃない。
次に現れたのは眩しい白金色。
「光の国」
空へ伸びる巨大な建物。
白く輝く街並み。
知識、政治、統率。
世界を導く者たちが集まる場所。
「うわ」
レイが顔をしかめた。
「絶対無理」
「なんで?」
「勉強ばっかりじゃん」
「まだ決まってないって」
周囲から笑い声が漏れた。
そして最後。
空気が少し変わった。
壁いっぱいに静かな銀色が広がる。
夜空。
淡い月明かり。
静かに輝く建物。
「月の国」
施設長の声が、少し静かになった。
「知識と観察を重んじる国です」
「そして月には、特別な一族が存在します」
ざわめきが起こる。
「月雫一族」
聞いたことのある名前だった。
授業でも何度か聞いたことがある。
「古くから、優秀な者を多く生み出してきた特別な一族です」
壁には銀色の装飾品が映し出された。

「月雫一族には二つの系統があります」
「ブレスレット系」
「ネックレス系」
「優秀な月雫一族は、二十の儀式後、各国で重要な役割を担うことがあります」
レイが小さく言った。
「なんか別世界の人って感じ」
施設長は一覧表を掲げた。
そこには、こう書かれていた。
炎の国 = 赤
燃える力。行動、戦闘、開拓。前へ進む者。
水の国 = 青
調和と支え。治療、流通、人との繋がり。
森の国 = 緑
命と癒し。植物、薬、再生。
光の国 = 白銀
知識、政治、導き。世界を照らす者。
月の国 = 銀
観察、知恵、静けさ。月雫一族が存在する。
施設長は続けた。
「これまで皆さんは、それぞれの施設で育ってきました」
「十五の儀式にて、適性の国へ導かれます」
「再び会う者もいれば、もう会えない者もいるでしょう」
空気が変わる。
「皆さんは、まだ正式な色も名も持っていません」
ざわめく。
「天衡舘にて与えられます」
レイが振り返った。
「俺、絶対炎!」
「早いって」
「シェルは水」
「なんで?」
「落ち着いてる」
「またそれ?」
三人で笑った。
「名前も、変わらないといいな」
レイがぽつりと言った。
「変わるとは限らないでしょ」
シェルが言う。
「でも変わる人もいるって聞いた」
「……どんな名前になるんだろうな」
レイが急に止まった。
「……あれ?」
「何?」
「ノアってなんだろ。予想つかないな」
「何が?」
「色」
笑顔が止まった。
そういえば。
レイは炎。
シェルは水。
先生たちが何度か言っていた。
でも、自分は……。
一度も言われたことがなかった。
窓の外を見る。
遠くの山の上に、天衡舘が小さく見えていた。
あと六日。
その頃には全部分かるはずなのに。
なぜか胸の奥だけが、少しざわついていた。
シェルが小さく立ち上がった。
「行こっか。今日はカレーらしいよ」
「あぁ、行こう」
「ノアも行けそう?」
「……うん」
カレーの香りが漂う食堂は、とても賑やかだった。
「ねぇ。聞いてた?天衡舘には歩いて行くらしいわよ。」
「はぁ?だよなぁ。うそだろ!」
「まじかよぉ!」
「おばちゃん、おかわり!」
「ノア!聞いてる?」
ところで、ノアの色って……。
何色なんだろう。
(第2話 終)

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noterゆらり(ゴールド|境界の国)
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