ソード・ワールド2.5の同人ゲームブックシナリオを作りましたという話
はじめに
日本で最もルールブックが売れている(らしい)TRPGシステムである『ソード・ワールド2.5(以下SW2.5)』では、たまに公式(グループSNE)より、ストーリー型サプリメントという名のシナリオ本が発売されます。
内容はいわゆるゲームブックと呼ばれる部類の本に近い形式で、「~~という状況だ。さて、Aの選択を取るならxページへ、Bの選択を取るならyページへ、○○を持っているならzページへ」という感じの文章を読み、指示に従いながら物語を進め、目的の達成を目指すもの。
もちろんファンタジー系のTRPGらしく、魔物と戦闘をすることもあれば、特定の能力やアイテムの所持、またはダイスロールの成功などを要求されることもあります。
そんなシリーズですが、公式からの供給量はやや少なく、7周年を迎えた現在発売されているのは『ヴァイスシティ(2019年4月発)』『デモンズライン(2020年7月発)』『グリフォンロード(2022年3月発)』『エンシェントブルー(2023年4月発)』の4作のみ。
おおよそ1.5年に1作くらいのペースな訳ですが、1作完走するのにそんなに時間が必要かと言われると全然そんなことはなく、どれも100時間程度で隅から隅まで遊べるくらいのボリューム。よほどプレイに時間を掛けていなければ「まだ完走してないのに新作が発売されてしまう!」となることはまず無いです。
もちろん、これだけがSW2.5の楽しみ方ではないというか、本筋の遊び方ではない(そもそもこの手のシナリオを出している人は公式含めまあまあ珍しい)のですが、しかしこのシリーズが好きで好きでたまらない人間としては、もっとこの"味"を楽しみたいと感じたのです。
そして8月1日。1作の同人ゲームブックが頒布開始となりました。
それが弊サークル「Estuary」の1作目にして、私の同人活動における処女作たる作品、『プロジェクト:ドーンブリンガー(以下ドーンブリンガー)』です。

〈大破局〉の戦禍に巻き込まれて滅んだ、魔動機文明の廃都市を旅する中で、滅亡の裏に隠された物語の真相に迫っていく……という、まあまあ王道な感じのシナリオで、全体的なシステムは公式の『デモンズライン』をベースに、かの名作RPG『世界樹の迷宮』のエッセンスを加えたものに仕上げています。ちょいちょいオマージュも入れてます。
……とまぁ、作品紹介は今回の主目的ではないのでさておき。
本記事は、今後の作品作りの際の参考にできるだろうと考えて、製作過程で感じたことなどをまとめて文章に残した、所謂備忘録的なものになります。
同人でゲームブック型のシナリオを出している方が殆どいないので、通常のシナリオであれば存在する「特殊なシーンの処理は~」とか「こういう風に話を組み立てていけば~」みたいなHow toが全く無く、「じゃあ俺が自分で作るしかないじゃん」となった為、同じようなシナリオを作ろうとしている方の参考文献として機能したらいいなぁという気持ちです。
(創作というか、物作りにおける基本である、進捗管理だとかToDoリストだとかの話はしません。そういう話を知りたい方は、ちゃんとした専門書をお買い求め下さい)
1.何から手を付けるか
通常のシナリオ作りをする上でもつまづきがちなところですが、そもそもゲームブック型シナリオって何から作ればいいんだ?という話。
これはシンプルで、やはり始点と終点、つまり導入とエンディングをまず決めるのが早いなと感じました。
TRPGをはじめ、話作りというものは、エンディングが決まっていないのにだらだらと中身を作っていくと、「で、この話どこに着地させるの?」という問題と常に向き合い続けないといけません。
そこにゲームブック特有の物語の分岐や、その条件付けという要素が加わってくると、もう収拾がつかなくなります。というのも、本来なら『GMがその場その場で裁定を決めたり、展開を修正したりして、クライマックスまで話を持っていく』のがTRPG(というか対話型ゲーム全般)の基本な訳ですが、ゲームブックにはGMが存在せず、地の文(=シナリオ作者である自分の裁定)によってすべてが決まるように作らなければなりません。
その為、中身を作る前に『シナリオのエンディングと、そこに至る為に必要な要素』が決まっていないと、どのイベントや分岐が、物語や処理内容にどう影響を与えるのか、というのが決められません(『ドーンブリンガー』はそこまで複雑な分岐を入れていませんが、それでもエンディングを先に決めていないと、製作が難航するなと感じました)。
これが小説や漫画なら「まぁ次の話で伏線回収していけばいいか」とできるところですが、TRPGのシナリオは、その話の中で全てが完結していないと、ただの説明不足な欠陥シナリオでしかありません。
なので、まずは『エンディング』と『エンディングに必要な要素』、そこから導き出される『導入』の三つ。これを決めるところから始めましょう。
……とは言ったものの、自分でシナリオを作ってセッションを回している人(SW2.5のGMには特に多いはず)にとっては、意識せずともやっていることであるかもしれません。
まあ要するに、普通のシナリオと基本的な考え方は同じだと思って頂ければ、ということです。
2.物語の導線を考える
進行役のGMが不在であるなら、シナリオ側でしっかりと導線が引かれていないと、プレイヤーはどう動けばいいのか分からずに困ってしまいます。
そこで私が公式のゲームブック以外で参考にしたのが、MMORPGやオープンワールドのゲームです。
それらに触れたことがある人であればなんとなく分かるかと思いますが、例え完全に自由にあちこち冒険できるゲームでも、それとなく「まずはあっちに向かうといいですよ、その次はあっちで、最終的にあっちに……」とナビゲートされます。
あんな感じで、シナリオの最終目標でも、その過程の小目標でも、もちろん寄り道要素についても、ある程度はやるべきことを明示しておき、ゲーム進行を分かりやすくしておいた方が良いです。
もちろん、そういったものが一切ない、完全フリーなシナリオも作れなくはないでしょうが、正直それはコンピュータゲームだから面白くできるシナリオかと思います(レベルデザインやゲームシステムなどの考え方の違いによる関係)。
TRPGでやっても、おそらくそんなに面白いシナリオにならないというか、普通にオープンワールドのゲームやればよくない?という感想になってしまうのではないかと。それこそGMをきちんと置いて遊ぶ通常のシナリオであれば、アドリブかつリアルタイムでシナリオを作成・調整できるので、どうにかできるかもしれませんが。
3.分岐とイベントフラグは仮置きで作る
イベントの分岐や分岐条件となる、所謂イベントフラグは、ゲームブックの代名詞となる要素な訳ですが、しかし製作段階からこれらの詳細が完璧に決まっていることはないでしょう。
なので、詳細が確定するまでは、『Aを所持しているならxページへ、なければyページへ進め』の様に、仮置きの文字をテキストに入れておき(後々文字列検索するために、規則を決めておくこと)、Excelやらなんやらを使って、これらの情報を別途纏めたリストを作って管理するのが無難です。
特にページ数は、製作段階で定まっている訳がなければ、途中で変更になる可能性も非常に高い部分なので、最後の最後に正式な値を記入するくらいでいいと思います。
もしも最初からページ数や分岐条件を書いたりすると、後から修正が必要になった時、該当箇所を探し出すのが滅茶苦茶面倒になります。文字列検索でも絞り込みができないような状態だった場合、もはや目も当てられません。すべてを目視で確認するしかなくなります。
そうならないように気を付けて作業を進めましょう。
4.表記を統一する
主にカードゲームでよく発生している事象ですが、ほんの僅かなテキストの違いが、解釈の違いを生むことがあります。
結果、『作者が想定していた処理』と『テキストを読んだプレイヤーが導き出した処理』にズレが生じ、最終的にゲーム進行に支障をきたす可能性もあります。
なので、同じ処理は同じ記述となるように、統一することを心掛けましょう。製作初期の段階で書いたテキストをテンプレートとして、それを使い続けるのが、間違いが起こりにくいやり方だと思います。
また、作品内固有の処理でないものは、基本的には公式の記述に合わせておいた方が良いです(特に魔物の特殊能力や装備品の効果など)。
当たり前ですが、殆どのプレイヤーは公式のルルブなりシナリオなりを読んだことがある訳なので、それらと同じように記述を読み解こうとします。
そこで公式と異なる記述方式にしていると、処理の決定に掛かる時間が嵩んでしまいます。
というかぶっちゃけ、データの記述方式にオリジナリティは求められていません。1に可読性、2に簡潔性です。
凝ったテキストや粋な演出をやりたいなら、汎用性が必要な公開シナリオではなく、クローズドな場で行う身内とのセッション用のシナリオでやりましょう(そもそもSW2.5自体そういう演出と相性悪いところがありますが)。
5.戦闘の頻度を考える
SW2.5は非常にオーソドックスなハイファンタジーゆえ、シナリオ進行上で立ちはだかる障害について悩むことはあんまり無いかと思います。魔物とトラップを適当に配置したダンジョンを設ければだいたい解決します。
強いて言うなら、ゲームブックらしく、どこか別の場所で回収したアイテムやらイベントフラグやらを活かす形で解決できるギミックがあると、それっぽさが出るかもしれません。
問題は、トラップはともかくとして、魔物との戦闘をどれくらいの頻度で行わせるかという話ですね。戦闘は非常にわかりやすい事態の解決法であると同時に、とてもリアル時間の掛かる行為でもあるため、そんなに頻繁に使ってはいけません(通常のシナリオでもそうですが)。
そこで考えないといけないのが、『どこからどこまでを切り取ったら、通常のシナリオ一本分くらいのボリュームになるか』という計算です。
私(というか『ドーンブリンガー』)の場合、『1.何から手を付けるか』で『シナリオの最終目標に至るまでの小目標』という概念を出しましたが、この小目標ひとつかふたつで通常シナリオ一本分(5時間で収まるくらいのボリューム)になるものとして、その間に最低1回戦闘を入れる、という頻度にしていました。テストプレイ参加者のアンケートの回答(7名分)では、これで丁度良かったとのこと。
また、PCに成長処理を行わせるなら、成長1回あたり「(冒険者レベル+1)×500」点くらいの経験点を与えるのが適切かと思います。
むろん、魔物討伐の経験点だけでこの値を満たそうとすると、それはもう凄い数の戦闘が必要になってしまうので、足りない分は、それっぽいボーナス経験点(公式における★とかチャレンジの報酬とか)でうまく帳尻を合わせましょう。
6.オリジナルのデータを入れすぎない
通常のシナリオよりもボリュームが多くなり、設定が多くなれば、自然とオリジナルのアイテムや魔物を入れたくなるものです。むしろ入れないと作るのが難しいまである。
とは言え、それらは程々にしないといけません。オリジナルということは、最低1回はデータを確認するという手順が必要になる訳ですが、大前提として、データの確認・把握というのは面倒な作業です。
データ詳細を覚えればその1回で済むのでは?と思うかもしれませんが、オリジナルデータに限らず、余程参照頻度の高いものでなければ、詳細をすべて暗記してプレイしている人はほぼいないでしょう。特に魔物データと、魔法・その他特技系のデータは、情報量が多いため、メモや書き写しすらも面倒です。
公式が既存データを一冊にまとめたサプリ(『モンストラスロア』とか『メイガスアーツ』とか)を出しているのも、その辺の理由(参照性を上げるため)が大きいと思います。
そういう訳なので、オリジナルデータを過剰に用意するのは、プレイヤー側からするとそんなに嬉しいものではない、ということを頭の片隅に置いておきましょう。
……などと言いつつ、『ドーンブリンガー』は、魔物のランダム遭遇表のバランスを整えるためとは言え、結構な数のオリジナル魔物を作成しているんですが。次回以降の改善点ですね。
7.誤字脱字は無限に出る
最重要ポイントです。テキストの字数が増えれば増えるほど、誤字脱字も加速的に増えていきます。
これはもうどうしようもないと言うか、気を付けてなくなるなら、この世に校正なんて作業は存在してないだろという話です。
なので、どれだけ小規模な作品であっても、校正のための人員は確保しておいた方が良いと思います。私の場合はテストプレイヤーの皆さんがそれにあたりますね。
特にTRPGのシナリオの場合、致命的な誤字脱字があると、いわゆる進行不能バグのようなものが発生したり、ゲームバランスが致命的に崩壊したりという可能性もあるので、確認漏れのないようにしないと、公開後の修正は必至と言えます。
セルフテストプレイをやれば解決するのでは?と思うかもしれませんが、当然ながら、作者の頭の中には正規のテキストや正しい処理手順が入っていますし、そもそも書いた時に違和感を覚えていないなら、読み直しても結果が変わることはあんまりありません。実際に書かれているのがとんでもない文章であったとしても、脳内補正で勝手に問題のない正しい文章として受け入れてしまいます。
実際、私はそれで見逃した誤字脱字がかなりありました。
以上になります。あまり大した内容は書けていない気もしますが、少しでも皆さんのシナリオ作りのお役に立ちましたら幸いです。
