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【第18話】再会のシドニー、4年ぶりの私たち

2010年1月、
私はシドニーへ向けて出発した。
あの時の私は、
思い描いていた未来とは違う現実に、どこかで幻滅していた。
何かを手放すようにして日本を離れ、
ただ自分のために時間を過ごした。

ワーホリから4年。
再びこの街に戻ってきた私は、
同じ場所に立ちながら、
まったく違う景色を見ていた。

懐かしい仲間たち、変わらない笑顔、そして少しだけ変わった自分。
シドニーの風が頬をなでた瞬間、
私は心の中で、静かに「ただいま」とつぶやいた。

シドニーに着くと、
シアが空港まで迎えに来てくれていた。
久しぶりに見る彼女の笑顔に、
胸の奥がじんわりと温かくなる。
私たちは思わず強くハグをした。
外に出ると乾いた熱気が肌にまとわりついて、
「ああ、この暑さ、懐かしい」
そう思った。

その後、サリ、サリの夫、
そしてデヴィとも再会した。
サリとサリの夫は、ワーホリ時代からずっとカップルで、
私も一緒に暮らしていた仲間だった。

デヴィは、
私が入居する少し前に部屋を出て、
すぐ下の階の部屋に引っ越していた。
ルームメイトとして同じ部屋で暮らしたことはなかったけれど、
いつも一緒に過ごしていた、
大切な存在だった。

そして、シアの夫もそこにいた。
2人もワーホリ時代からのカップルで、結婚後は一度韓国に戻っていたけれど、またシドニーに戻ってきていた。
4年ぶりに全員の顔がそろった瞬間、
懐かしさが一気に押し寄せた。

四年ぶりのシドニーは、
日本人のルームメイト以外、
あの頃の仲間が全員そろっていた。

その日の夜は、
思い出の韓国レストランへ向かった。
あの頃、何度も通った店。
テーブルに並ぶ料理の匂いも、
店内に流れる韓国語も、
全部が懐かしくて、
胸がぎゅっとなった。

その夜、私はサリの家に泊まり、
ゆっくり話した。
私を訪ねてくれた日から
3年ぶりなのに、まるで昨日の続き
のように時間が流れていった。



2日目

翌日、私はひとりで街に出た。
4年前、息をするだけで必死だった頃にはできなかったことを、
ひとつずつ取り戻すように。

まず向かったのは、
小さなカフェだった。
当時はテイクアウトを買う余裕すら
なかった。
でもこの日は、コーヒーを片手に、
イヤホンから流れる音楽を聴きながら、スクランブル交差点をゆっくりと渡った。

あの頃、この信号を
こんな気持ちで渡ったことは、
一度もなかった。

ただ渡るだけで精一杯だった
あの日々と、同じ場所に立っているのに、感じている世界が、
まるで違っていた。

胸の奥が少しだけ軽くなった。

そのあと、私は働いていたお土産屋さんを訪れた。
オーナーは私の姿を見るなり、
ぱっと顔を明るくして迎えてくれた。

「4年前の君は傷ついていたからね。
戻ってきてくれて嬉しいよ」

変わらない優しい笑顔に、
懐かしさが静かに込み上げた。
私たちはお互いの近況を話し、
短い再会を大切に噛みしめるように別れた。

3日間だけネイルスクールにも通った。

夕方になると、
みんなの仕事が終わる時間に合わせて合流した。
向かったのは、私たちが大好きだったスパニッシュレストラン。
あの頃と同じ味、同じ匂い、
同じ笑い声。
時間が巻き戻ったようで、
でも確かに前に進んでいるようでも
あった。

翌日からサリがインドネシアに一時帰国することが決まっていた。
だから私は、
翌日からデヴィの家に移動することになった。



それからの3日間、
私たちは何か特別なことをするわけでもなく過ごした。

みんなは仕事へ向かい、
私はネイルスクールに通った。

同じ街で、
ただ静かに一日が過ぎていく。

それだけの時間が、
不思議と心地よかった。

夜になると、
自然とみんなが集まった。

ある日はバーベキューをして、
煙の匂いと笑い声が風に混ざった。
またある日は、
お持ち帰りの寿司を広げて、
「これ美味しいよ」と言い合いながら食べた。
どうしても行きたかったカフェにも立ち寄った。
シアと一緒にワッフルを食べて、
ホットチョコレートを飲む。
甘い香りに包まれながら、
ゆっくりと、これからのことを話した。
特別なイベントなんて何もない。
でも、
“あの頃の私たち”がそのまま続いているような時間だった。




帰国前日〜当日

帰国前日の夜、
シドニーには大雨が降っていた。
窓の外では雷が鳴り、
空が一瞬だけ白く光るたびに、
胸の奥がざわついた。

窓の外の雨を見ながら、
なぜか、帰りたくない気持ちが胸に残った。

4年前の私が、
こんな気持ちで帰国前日を迎えていたら——
どうなっていたんだろう。
そんなことをぼんやり考えながら、
デヴィの家のソファに身を沈めた。

翌朝はまだ薄暗い時間だったのに、
シアとデヴィが玄関で待っていてくれた。
2人の顔を見た瞬間、
寂しさが込み上げた。
次はいつシドニーに来られるかな…

タクシーに乗り込むと、
雨はすっかり上がっていて、
東の空がゆっくりと明るくなり始めていた。

街が目覚めていく気配の中、
私は窓の外に流れる景色を
見つめながら、静かに深呼吸をした。

明けていく朝日が、
ビルの隙間から差し込んでくる。

その光を見つめながら、
私はもう一度、自分の場所へ戻っていった。

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