【人生編第12話】それでも、私は明日を信じている
義母を見送った直後、
施設の職員さんに
「すぐに葬儀屋さんへ連絡を」
と促された。その言葉に、
胸の奥がぎゅっと縮んだ。
悲しむための、
ほんの少しの時間さえ奪われた。
そんな風に感じてしまった。
家に置いてきた息子に電話をかけた。
「おばあちゃん、亡くなったよ」
そう伝えた瞬間、受話器の向こうで
息子が強く泣き出した。
ロッキーが吠える声も聞こえた。
息子は、義母のことを
“困ったおばあちゃん”だと
思っていたわけじゃなかった。
その泣き方が、
すべてを物語っていた。
私は少しだけ安心した。
あとで聞いたところ、
電話を切ったあとも息子は
しばらく泣き続け、
そのそばにロッキーがずっと
寄り添っていたらしい。
心配そうに離れずにいたと聞いて、
あの子なりに家族の悲しみを
感じ取っていたのだと思った。
娘はまだ帰宅していなかったので、
すぐに連絡した。
「とにかく早く帰って、
弟のそばにいてあげて」
そう頼むことしかできなかった。
義父と夫の伯父さんが亡くなった
ときにお世話になった葬儀屋さんに、なんとか連絡がついた。
事情を知っているその葬儀屋さんは、すぐに義母を迎えに来てくれた。
生前、義母が言っていた通り、
葬儀は家族葬でひっそりと行った。
けれど、棺のまわりには
驚くほどたくさんの花が並んでいた。葬儀屋さんの計らいだった。
私たち家族の苦労を長い間
見てきてくれた人たちだからこそ、
最後にこんなにも華やかに送り出してくれたのだと思う。
その優しさが、張りつめていた
心を救ってくれた。
そして私達は、義母が
「旅立つ日」を選んでくれたような
気がしていた。
年明けすぐ、仕事始めの翌日。
もし一日でもずれていたら、
私たちはもっと
混乱していたかもしれない。
最後の母なりの子孝行だったのかな。
そう思うと、不思議と静かな気持ちになった。
年末年始、
夫の抗がん剤の副作用は
かなり強く出ていた。
一月の受診の日、夫は主治医に
「もう抗がん剤をやめたい」
と伝えた。
その結果、
二週間服用して二週間休む
というスケジュールへ変更になった。
すると副作用はかなり軽くなり、
黒ずんでいた肌も
少しずつ元に戻ってきた。
あと一カ月、治療は続く。
ここまで本当に
よく頑張ってくれたと思う。
家に病人がいると、
気づかないうちに家族みんなが
少しずつ疲れていく。
これからも治療の日々は続く。
それでも、
夫はきっと大丈夫だと信じたい。
そして何より、
私自身が元気でいること。
自分の機嫌を自分で取りながら、
ときには少し肩の力を抜いて、
毎日を楽しみながら
生きていきたいと思う。
そんな日々の中で、
私にはひとつの夢が生まれた。
これまでの経験を活かして、
訪日外国人のツアーガイドになりたいという夢だ。
小さな橋渡しをしたいという夢。
たとえば、小さな商店街で。
お店の人と海外から来たゲストが
笑い合う姿を見ながら、
「ああ、
私はこんな瞬間をつくりたかったんだ」
そう思えるような時間を届けたい。
言葉が通じなくても、
文化が違っても、
人は笑顔でつながれる。
その真ん中に、
そっと立っていたい。
若い頃に海外で過ごした日々。
異国で感じた孤独や自由。
そこで出会った人たちの温かさ。
そして今、
家族を支えながら
積み重ねてきた時間。
その全部が、
私の中で静かに混ざり合い、
ひとつの願いになっていった。
そしてもうひとつ、
いつかやってみたいことがある。
それは、海外から来る
若い子たちを受け入れる
ホストファミリーになることだ。
私自身が海外でたくさんの人に
助けられた。
言葉がうまく通じなくても、
居場所を作ってくれた人たちがいた。
だから今度は、
私が誰かに「帰れる場所」を
渡す側になりたいと思っている。
もちろん、
家族にはまだ反対されている。
「大変やろ」
「知らない人と暮らすなんて無理」
そう言われるたびに、
たしかに現実は簡単じゃないとも
思う。
それでも私は、いつか
食卓を囲みながら、
いろんな国の話を聞いて
笑い合える家に少し憧れている。
なれるかどうかは、
まだわからない。
でも、
ツアーガイドもホストファミリーも、きっと根っこは同じなのだと思う。
人と人をつなぐこと。
その小さな橋渡しを、
これからの人生で少しずつ
形にしていけたらいい。
そう思いながら、
私は今日も、明日を生きている。
私がnoteを書き始めたのは、
17回目の結婚記念日だった。
たぶん私は、
どこかでこれまでの人生を
ちゃんと残しておきたかったのだと
思う。
楽しかったことも、
苦しかったことも、
情けなかった日々も。
全部なかったことにせず、
「私は確かにここを生きてきた」と、自分自身に伝えたかった。
書くことで、
少しずつ自分の人生を
抱きしめ直しているのかもしれない。
ここまで読んでくださって、
ありがとうございました。
これが、今までの私の人生です。
振り返ると、
私はずっと
生きづらさを抱えていました。
うまくいかないことがあるたびに、
誰かのせいにして、
「自分は悪くない」
そう思っていた時期もありました。
でも、
本当にたくさんの人に
支えられてきました。
家族。
友人。
仕事で出会った人たち。
海外で出会った人たち。
そして、
苦しい時期に寄り添ってくれた
小さな存在たち。
いろんな人との出会いの中で、
私は少しずつ、
自分自身のことを知っていった
気がします。
もちろん今でも、
落ち込む日もあるし、
うまく生きられないと
感じる日もあります。
それでも、
「こうあるべき」
「ちゃんとしなきゃ」
そんな気持ちを少し
手放せるようになってから、
私は以前よりずっと
生きやすくなりました。
人生は、
思い通りにならないことの方が多い。
でもその中にも、
小さな幸せや、
誰かの優しさはちゃんとあって、
それに気づけるようになったことが、
今の私にとっては大きな変化です。
これから先、
どんな毎日が待っているのかは
わかりません。
それでも私は、
自分の人生をちゃんと生きながら、
人と人をつなぐ小さな橋渡しを、
少しずつ続けていきたいと
思っています。
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