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「解放的に見えて閉鎖的で『人間関係リセット癖』があった、あの人」【言葉の庭 8月の企画】

当時、一週間で9回以上会っていた人がいる。

まるで恋人のようなべったりとした関係だった。

自宅にもしょっちゅう招いてもらった。

ちなみに男性である。

彼は企業家で、誰とも似ていなかった。

僕よりちょうど一回り年長の彼は、なにかとかわいがってくれた。

僕は静かなタイプなのだが、彼はアグレッシブなタイプ。

でもなぜか馬があった。

彼は自己防衛のために明るいキャラを演じているだけで、根っこはとても繊細なのだ。

「俺は人前に出ると笑顔の仮面をつけて、強迫的にその場を盛り上げてまう病気なんや。家でひとりでいる時が、一番落ち着く」と真顔で語っていたこともある。

いろいろなお店に連れて行ってもらった。

きっとトータルで数十万円以上、ご馳走になったのではないか。

どこへ行っても「ええから。俺が出すから」と絶対に払ってくれた。

あとで知ったのだが、彼の会社は傾いており借金まみれだったそうだ。

年収数千万になったこともあれば、借金で苦しむ生活に転落することも。

アップダウンが激しかったゆえに、僕があった時点ですでに離婚歴が3度あった。

彼に関する印象的な出来事がある。

大阪のアメ村を彼と歩いていたとき、ひとりの男性が彼に話しかけてきた。

「〇〇さん、久し振りですやん。急に連絡とれへんようになったから心配してたんですよ」

いつも人前では笑顔の彼が、このときだけすごく怖い張り詰めた顔になったのを今でも覚えている。

表面的にはコミュニケーションスキルがあって、誰とも仲良くなれて、人とのつながりが多い彼だが、人間が苦手なのだ。

それゆえ、ある瞬間に全ての関係をリセットするらしい。

それは頻繁に会っていて、なんとなくわかった。

刹那的で依存的で享楽的。

そんな表現がぴったりくる彼は天才タイプで、積み上げることが苦手だった。

地頭が非常によく、多言語を短期間で習得する。

過集中タイプで、スイッチが入ると天才的な能力を遺憾なく発揮する。

自己開示しているように見えて、実は最後の扉は絶対開けない。

「本来の自分を誰にも見せない人」そんな感じがした。

解放的に見えて、かなり閉鎖的なのが本質だったのだろう。

付き合いが長くなるにつれて、明るく見えるがそうではない人だというのを知り、なおさら親近感がわいた。

かつては林会長時代の吉本興業でも働いたことがあったという。

人たらしなので、すぐに「自分おもろいなあ。うちで働けばええやん」とすぐに声がかかる。

彼はフーテンの寅さんのようなタイプなので、ひとつの場所で腰を据えるようなことはない。

性分なのだろう。

そのうち、どこかへ行ってしまう。

彼はある日を境に、ぱたりと会えなくなった。

また人間関係をリセットしたのだ。

いつかこの日が来るだろうと、僕がどこかで予感していた。

頻繁に会っていると愛着が生まれるので、さびしくてたまらなかったが、「まあ、これもあの人が自分の心を守るための選択なのだろう」と自分を納得させた。

しばらくは「また会いたいなあ」と何度も思った。

今はそういった感情がない。

あのときの楽しかった思い出は、あのときの彼との間でしか作れないものである。

あれから十年。

僕も彼も変容している。

再会しても、前にように気楽には遊べないというのがなんとなくわかるのだ。


こちらの記事はメンバーシップ「言葉の庭」

※こちらの記事は「言葉の庭」👆の8月の企画「会いたいけど、もう会えないあの人」へ投稿したものです


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